結末
明日一日休むかもしれません
次の日、あいつらが来た。
貴族の私兵が孤児院に向かっている。
そう聞いた時、まあ当然か、と思った。
コナーは欲望に忠実なタイプだと僕は思っていたからだ。院長を手に入れることを我慢できず、強いやつがいたとしても、数で攻めればなんとかなるとたかを括っていることだろう。
兵士たちは孤児院の前に押しかけていた。僕達はそれぞれ迎撃の準備を整えている。僕の担当は玄関、一吾達は裏口だ。
子供達は中で院長と一緒に隠れている。
「おい!聞こえているだろ!院長・アリシアを差し出せば何もせずに帰ってやる!早くしろ!」
月下狂人(偽)が言っているが、どう考えても嘘だ。子供は人買いに売るとか屋敷で言っていたのを僕は聞いている。
「どちらさま?」
扉をあけて、顔を出す。兵士たちが緊張した様子で槍を突きつけて来た。
「待て、強いのはこいつではない。焦るな。」
彼らが警戒しているのは一吾のようだが、一吾は裏口にいる。僕はバレないようにつけていたので僕の顔は知らないだろう。僕がそのまま動かないでいると、一人の男が前に出てきた。
「俺は月下狂人。名前くらいは知ってるだろ?」
「へえ、あなたが?」
目の前に本物がいますよー。そう教えたくなる。
「わかったらさっさとアリシアを渡せ!」
「渡さなかったら?」
僕がそう言うと、偽物は素早く剣を抜いて僕の首に突きつけた。
「お前の首と胴体がおさらばするだろうな」
なかなかのキメ顔で言っているが、僕には剣の動きがはっきり見えていたので結構ださい。
「そりゃ大変」
「強がりも今のうちだ。上級冒険者を敵に回して無事でいれるとおもうなよ?」
そのセリフ、そっくりそのまま返してあげたい。
「ふふふ、色狂いの貴族の道楽に付き合う程暇じゃないんだよね、僕」
このまま会話するのは面倒なので、いきなり核心をついてみた。
「お前、何故それを!」
案の定、偽物は驚いた顔をする。素性がバレてないと思ったか?
「悪事千里ってね」
至近距離で見聞きしただけなんだけどね。
「もう生かしてはおけんな。行け!」
兵士たちが僕の方は殺到する。流石に孤児院の前を血だらけには出来ない。ということで
「なんだこれは!」
「くそっ!進めねぇ!」
扉の前に金陣を展開する。
「進めないなら建物ごと焼き払え!」
偽物が素早く指示を出した。
「無駄だよ」
魔法陣の後ろで僕は笑う。 放たれた火球は、孤児院に届く前に何かに弾かれて消えた。白沢と森山の張った結界だ。あらかじめ孤児院を覆うようにして張ってあったのだ。僕は兵士たちが動揺している隙に紅雪を呼び出した。冷気と妖気が噴き出す。
「押せ押せ!数はこっちが多いんだ!」
その気配に冷や汗を流しながら、偽物ほ再び指示を出す。でももう無駄だ。紅雪を呼び出してしまった。兵士たちに向かって軽く紅雪を振るう。
「凍獄」
その瞬間、偽物を除いた全ての兵が凍りついた。一吾達の方にいる兵までもが動きを止めている。これなら血も出ない、穏便な殺し方だ。偽物を残したのは話を聞くためだ。
「お前、何者だ!……待てよ?その刀、黒い服!まさか…!月下狂人は!」
「そう、僕だ」
やっと気づいたか。
「僕は月下狂人。顔くらい知ってるだろ?」
ニヤニヤしながら、さっきの偽物のセリフを真似する。真似をする奴の顔くらい知っておけよな。
「くそっ!」
偽物は逃げ出した。僕はそれに向けて魔銃を撃つ。
「ぐはっ!」
偽物は地面に転がった。足の甲を狙ったのでもう走れないだろう。僕は転がった偽物に、ゆっくりと歩み寄る。
「逃げれるとでも思った?」
「ぐううっ!」
僕は偽物を蹴り上げた。痛みで動かなくなったところを縛り上げる。
「これでこの孤児院も安心だ」
あとでゆっくり話を聞こう。そう思っていると、偽物が突然苦しみだした。
「くくくっ馬鹿め!ぐああああっ!」
あっさりと偽物は事切れた。捕まった時用に毒でも仕込んでいたのだろう。油断していた。
「水月!終わったか!」
一吾達がやってきた。
「うん、詰めが甘かったけど」
僕は死体を見やる。
「自殺しやがったか。で、このあとどうするんだ?」
「どうもしない」
「なに?」
「昨日言ったろ?魔族がこいつの主人と絡んでるかもって」
「警戒されちまうのか」
「その通り。悔しいけどこれで満足するしかない」
この件は、これで終了となりそうだ。
ーー→
「なに?全滅だと?冗談を言うな!」
逃げ帰った兵士の報告を聞き、コナーは怒り狂っていた。
「申し訳ございません!しかし、本物の月下狂人がいるとは」
「ぐぬぬぬ」
コナーは顔を真っ赤にして悔しがる。
「キヒヒヒヒ!お困りだなぁ!」
突然、部屋に鉤爪が現れた。
「おお!いいところに来た!早く月下の狂人を殺してくれ!」
思わぬ味方の登場に、コナーは必死になる。
「そいつはできねぇ相談だ。」
「金なら出す!いくら欲しいんだ!」
「キヒヒッ金なんていらねぇよ」
「じ、じゃあ何が欲しいんだ!」
そうコナーが問うた瞬間、コナーの胴体には大きな穴が開いた。
「キヒヒヒヒ!お前の命だよ!キヒヒヒヒ!」
「ぐ、ぐほうぁっ」
コナーが血を吐き出す。朦朧とした意識の中で、コナーが最後に聞いたのは、鉤爪の
「派手に騒ぎすぎなんだよお前。俺は忠告したぜ?もうお前は用済みだ」
という声だった。
ー
次の日、血だまりの中にコナーが発見された。




