三流だよ
「っつー訳で水月。明日から予定空けとけよ」
「予定なんて特にないけどね」
暇人の悲しさ。
「うん、ところでこの後どうする?まだ三時くらいだけど」
「地竜討伐で疲れたからな。休憩してから闘技大会の練習頼めるか?」
「いいよ」
冒険者は基本的に対人戦はしないので、基礎の技術は上達するが、駆け引きみたいなものは学べない。
一吾はそれを学ぶ為、何度か知り合った冒険者に模擬戦を申し込んでいるらしい。
ー
「休憩は?」
「もう大丈夫だ。やろうぜ」
「じゃあ僕は成瀬水月でやろう」
「なんだそれ?まあいいや、いくぞ!」
一吾は迷いなく突っ込んでくる。僕は腕を振るい、金色防御魔法陣……長いからもう金陣でいいや、を展開する。
いとも容易く一吾の剣は止まる。僕は金陣を維持したまま距離をとった。金陣の利点は発動スピードと維持のしやすさだ。
「ったく堅すぎだろ!」
僕達はお互いに魔法を放つ。
「シャイン・ランス!」
「ライトニング」
一吾の魔法は僕の魔法より威力が高いが、僕は魔力量に物を言わせて無理やり威力をあげたので互角だ。
「オラァ!」
また一吾の剣を防ぐ、しかし今度は一吾も学習していた。素早く片手を僕の前にかざすと一吾の手から閃光が閃いた。
「フラッシュ!」
目くらまし!目の前が真っ白になり、視界が奪われた。
「いまだッ!」
一吾は金陣の横から回り込み、剣を振り下ろしてきた。だが一吾、見通しが甘いよ。僕は気配だけで一吾の動きを把握し、少し下がって避ける。すると顔の前を剣が通り過ぎる気配がした。僕は距離を取るため、さらに後ろに跳んだ。
「くっそー!なんでわかるんだよ!」
「目に頼って戦うのは三流だよ。」
僕はそう言いながら展開していた魔法を放つ。
「フレア」
「チッ」
一吾を中心に爆発が起きる。当たったかな?煙が立っていてわからない。今のうちに…
「むっ」
魔法の気配を感じて金陣を展開する。
ピシッ
案の定魔法が飛んできて、金陣に弾かれる。
煙が晴れ、体の所々をプスプスさせている一吾が現れた。
「くっそー!勝てる気がしねぇ!」
「頑張ればいけるよ。今回は2回目に召喚されてから覚えた魔法と金色防御魔法陣しか使ってないから」
「いや経験の差考えろ!あとセンスも!」
「センス?」
「お前自覚してねーのかよ!このセンスの塊がぁ!」
「よくわかんないけど、そろそろ限界だろ?」
「そうだよ!次で決めるぞ!」
「いいよ、勝負だ!」
再び一吾が突っ込んでくる。
僕はタイミングを見計らい、設置していた魔法を発動させた。
「ホール」
「くそがあアァァァァ!」
一吾は突然目の前に現れた穴に反応できずに落ちた。
ー
「卑怯だろお前!」
「負けは負けだ、一吾。」
落とし穴から這い上がったあと、一吾は文句を言っていた。しかし便利だ。あのホールの魔法。
「もう一回だこの野郎ォ!」
「いいけど、体力大丈夫?」
「これがあるから大丈夫だ!」
そう言って一吾は懐から瓶を取り出した。中には緑色の液体が入っている。
「回復薬か、ここで使っちゃうの?」
結構値がはる筈だ。それなら帰って白沢なり森山なりに回復してもらったほうがいい。
「いいんだよ、昨日受けた依頼で、お金がそこそこ溜まったしな。それに、さっきの負け方は納得いかねぇ!」
「まあいいけど、今度はスイゲツでやろうか」
「さっきから言ってたけど、なんだそれ?」
僕は休憩がてら、闘技大会への二重エントリーのことを話した。
「成る程な、でもスイゲツは安直すぎないか?」
「漢字読み変えただけだからね」
威圧を放ったりしてれば普段と印象は違うだろう。逆に、気配を限りなくゼロにするのもアリだ。
「っいうか明らかにスイゲツのほうが強いじゃねぇか!」
「大丈夫大丈夫、紅雪は使わないから。身体能力と、魔銃と透打だけで戦うから」
白沢たちも知っているから内緒にしてもバレそうだ。後で話しておこう。
「それでも十分強いだろ!」
「まあまあ」
「ったく、もういいよ、いくぞ!」
そう言って再び戦闘が始まった。
「ほいっ」
いきなり蹴り上げてみる。
「うわっ、あぶねぇ!」
避けた一吾に、さらに回し蹴りを繰り出す。
「ぐあぁぁぁぁ!」
一吾は避けきれず、吹っ飛んでいった。
「あ、ごめん」
スピードは手加減できたんだけど、パワーはできなかった。
その後、僕はひたすら文句を言われながら家に帰ることになった。
ー
「よし、出来た」
数時間後、僕は料理を作っていた。
「なんで肉じゃが?」
「なんでって、美味しいからでしょうが」
「いや、そうだけど」
「うめぇ!」
「だろう?いやぁ材料があってよかったよ」
ほくほくで味の染み込んだ芋と、程よい大きさに切った肉の相性は異世界でも最強だ。
「おいしい」
「当たり前だろ?肉じゃがなんだから」
白沢は上品に食べているのに、恐ろしい勢いで肉じゃが減っていく。手品のようだ。
「相変わらず白沢はよく食べるね」
「そういえば成瀬はなんで白沢に弁当作ってたのよ。縁が全くなさそうなのに」
まあ確かに、白沢はクラスでも高嶺の花みたいなところがあって、友達付き合いも少なそうだった。
「いろいろ、ね?」
「うん」
軽々とは話せない事情がある。僕と白沢はうなずきあった。
「何この疎外感」
「まあまあ、森山も食べなよ。明日は用事があるから早く寝たいんだ」
明日は朝から習いにいく予定だ。
「わかったわよ、おいしい」
「フッ、勝った!」
「なんか悔しい」
「な?水月の料理はうめぇだろ?」
「おいしい」
いつお嫁にいっても大丈夫。昔そう言われたことがある。
ー
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま」
「いやー食ったなー!」
「一吾は食べ過ぎだよ。」
「はあ⁉︎水月もだろーが!お前はいっつもそうだよ。自覚を持て、自覚を!」
「あたしもそう思う」
「そんなこと言ったら白沢だって大食いじゃないか」
「ぐ……」
「なんで私の周り大食いばっかなんだろ」
「類は友を呼ぶってな!はっはっは」
それにしても今日の肉じゃがはよく出来たな〜。明日は何を作ろうか




