強襲⑤
コンクレント湖上都市に訪れるのはこれで2回目です。
氷漬けの街並み、シンと静まり返っている大通り。
小さな生物すらいない、無人の街と化したこの街は上空に停滞する巨大浮遊都市のせいで日の光や月の明かりさえも遮ってしまっている。薄暗い不気味な町でした。
「本当は、夜もガヤガヤ騒がしいんですけど......こうなってしまうとどうしようもないですね。」
そう言って酒場のオープンテラスの木材で出来たイスを撫で感慨に耽るセラフィ。
セラフィはオプシディアと同じくらい頻繁に来ていたようです。
ここも、行きつけも店だったのかもしれません。
「残念ですね。私も来てみたかったです。」
「ええ、本当に残念です。」
椅子から手を離し、再び城を目指して歩き出しました。
この後、城に向かう途中に冒険者ギルドに寄って、レーゼンさんとオリジンさんを回収した後、城にいるメンバーを集めフルエンクに向かう予定です。
(戦時にこの凍った街中で一ヶ月も生活できる程の実力者を多数連れていけば、私は安全に空中都市を見学できますからね!)
魔法技術、魔道具そして、異世界の勇者!!同郷の人に会って安心したいです。まぁ、私は半分違いますけど......
そんな自分勝手なことを考えているとボソリとセラフィが溢した。
「あの店のツケ精算しなくて済むなんて.......私もオプシディアと同じにツケ払いしておけば良かったです.......」
「えー、あり得ないですよ?。絶対回収に来ますね。街が復興したらお店も再開するでしょうし。また二人で通うんでしょ?幾ら使ったか分かりませんけど、ちゃんとオプシディアは払うべきです。みんな稼いでいるようですし。」
みんなと話をしたとき、大抵1週間に一回は外出してお金を稼いできているとこを知っている私は、『お金遣いが荒いんですよ。私は文無しですけど』とボヤきつつ、セラフィに視線を送る。
ジト目を向ける私ににっこり微笑むセラフィ。
「そうなれば私はオプシディアにお金を貸して優位に立ちましょうか、どうしましょう。」
そういうセラフィはちょっと黒いと思いつつ、何処かで『まぁ雪だるま式に増えるよりはいいかな。』と思った。
「一日絶対服従権なんていいかもしれませんね!」
オプシディアそっくりな顔で、笑顔でそう言っていたことは記憶から削除しようと決意しました。
(......セラフィに借りを作らないようにしよう。)
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時同じくして、フルエンク右側の魔導船の巨大ターミナルに密集しつつある強襲部隊が敵の迎撃がないことを不審に思っているころ。
コンクレント湖上都市の真下にある湖底魔皇城では、色とりどりのローブ姿の5名ときらびやかな雰囲気を醸し出す、金髪碧眼のハイ・エルフが王冠をクルクルと片手で回しながら、魔皇城の中央庭園まで侵入していた。
彼らの周りには、砕かれた結晶が多数存在していた。
真っ赤なローブを着た人物が残念そうに周りを見回していた。
「なー、『ロッキー』コイツらは捕まえないのか?そこら辺にたくんさん落ちてんじゃん。」
赤ローブの声はワクワクして興奮しているようだ。
「ふっ、やはりガキだな。話を最後まで聞いていないからだ。」
青いローブを着た人物が鼻で笑った。
こちらも男性の声だ。
赤ローブは青ローブに向かって指を指す。
「テメーも同い年だろうが!?」
「それがなんだ?」
「あ?」
「ん?」
お互いにローブを被ったまま頭で押し合い、威嚇し始める二人に、黄色いローブの人物の声が割って入る。
「まぁ、まぁ、お二人さん!ここはセイですよセイ!」
「引っ込んでろ。」
「邪魔すんな。」
二人の言葉を受けた瞬間『うっ!』『ぐは!』といいながら体を銃で撃たれたかのごとくのけ反らせていた。
最後に、倒れながらドヤ顔を決めることを忘れない黄色ローブ。
「きょ、今日のところは、こ、これくらいにしといたるで.....」
「ざけんな!テメーなにもしてねーだろ!」
「貴様はさっきも『わい、女の子には攻撃できん呪いが掛かってるんや......』とか言って後ろで六路と酒飲んでたろ!!」
「痛、あかんわ、骨折れたわ......酒飲んで直すしかないわ。」
赤と青は黄色に蹴りを放ち、黄色は踏みつけられつつ軽口をやめないでいた。
フリーダムな三人組だったが......
「おバカトリオ、今は敵地だぞ?危機感を持て。」
そんな三人に注意をする人物もちゃんといるようだ。
注意をした人物は水玉ビキニを着こなすスレンダーな女性だった。長い手足に慎ましい胸、ロングストレートの茶髪をシュシュで止め、ポニーテールにしていた。
バカ呼ばわりされた三人は、チラッと視線を向けるも、再び殴りあいを始める。
彼らが小声で、『あかん、あれあかんわ。関わりとう無いで。』『おい、幼馴染み!テメーが言ってやれよ!』『貴様ら俺を人柱にするつもりか!?』『ヘーキやで?たぶん。』『その装備で、大丈夫か?......大丈夫だ問題ない。プっ。』『ブッ飛ばす!!』
彼らが激しさを増す中、頭に疑問符を浮かべる水着の女性は後ろから話しかけられた。
「いや、浮き輪と海水ゴーグル付けたヤツには言われたくねーな、ハッ。」
手を左右に振るいかにもバカにした態度をとる黒ローブの人物。声の高さから女性だろうが、乱雑な話し方をしている。
「おい、私が浮かれているよう見えるだと!?バカをいうな、潜るなら水着を着るのがPTOと言うものだろう?」
「おまえ、いいから喋んな!こっちまでバカだと思われるわ。そもそも【転移】スキルで来ただろうが!!」
苦いものを噛み潰した口許を作る女性に『むぅ。』と唸りだまりこむ水着の女性。
女性は渋々、土色のローブを『胸元』から取りだしそれを羽織った。
そして、そんな彼らのやり取りを爽やかな笑顔で見ていた魔王そっくりの人物が前に出てきて、彼らを制した。
「いいかい、さっき言った通り、彼女らは捕獲できないよ。何故なら......彼女らはもう、それには居ないからね。ほら。」
そう言って視線を促す先に、不意打ちで殺した筈の7名のメイド服を着る使用人が現れたからだ。
さらに、その後ろには、連絡が回ったのか多数のメイドがいる。
「マジかよ......耐久組手?」
「なるほど、実際見ると恐ろしいな、ストックがどれくらいあるか分からんが、確実に同じ手は通用しないだろうな。」
「うひょー、美人、美少女復活やで!!」
「なんだ?この者共に親近感が沸くぞ!」
「いや、オメー胸だろ?気にしてたのかよ!?」
それぞれ意見言っている彼らは余裕そうだった。
戦闘になっても重傷を負わず撤退くらいは出来るだろうと冷静に判断する魔王そっくりの人物。
「不法侵入に、職務妨害とは感心しませんよ。フルエンクの王。」
(やはり、見抜かれたか......)
しかし、笑みは崩さずに対応する。
「それは申し訳ないが、実力を知って欲しかったのでね?それに、死なない君たちなら水に流してくるだろう?」
不愉快な顔をする代表メイド。
「......して、用件は?」
それとも、殺りますか?
そういった瞬間、中央庭園の空気が物凄く重くなる気がした。
(恐いなぁ......だけど、精霊と口が聞けてるなんて感動さ。)
魔王の体を乗っ取ったフルエンクの王は目を瞑る。
前世では近くにいた筈なのに会えなかったことがよっぽどショックだったみたいだ。
「......いや、辞めておくよ。負けないけど、勝てないしね。」
そういった瞬間には先程と同じで警戒だけの空気になった。
して、精霊種の本物の殺気を初めて感じ取った連れの5人は冷汗を流し全員固まって震えていた。
王は思う。
(今回は初めてだから仕方ないけど、馴らさないと使い物にならないかな?)
「で、用件は、ここのボクの嫁がいるよね?その子を引き渡して欲しい。変わりにもう、ここから出ていくから。」
代表のメイドは考える素振りを見せた後、
「よろしいでしょう。ではお伝えします。」
断ると思っていた、同僚達がガヤガヤと騒ぎだした。
「サファイヤ!!何考えてるの!?」
「相手はフルエンクの王ですよ!!」
サファイヤと呼ばれた代表メイドは、彼らに言う。
「問題は全く無しですね、まず、私たちは魔王を撃退するだけで、魔王でなければ問題ありません。それにある意味こちらの問題も解決しましたから。」
「でも......」
理屈は分かるが不意打ちを仕掛けてくる奴だ、と言いたいらしいことがわかったサファイヤは言った。
「気を抜いた貴女達がいけないのですよ?空間震で気づくでしょうに、怠けている証拠です。」
「ぶうー」
「鬼プ。」
彼女らは嫌々ながら承諾してくれた。
「して、第二の嫁にはやく会いたいのですが」
「ああ、彼女はいません。」
笑顔が固まるフルエンクの王。
彼女は平然と答えてくれた。
昨日、影能力者に連れさらわれました。
「なる、ほど......やつらにもバレたと。」
顎に手を当てて撫でる王。
最後にポツリと呟いた。
「先にフレイアから吸収するか......」
不気味なことを言い放って再び、光に飲まれて行った。




