強襲③
遥か上空では色とりどりの魔法やらスキルやらが飛び交っている。
有翼種が打ち上げられた地盤を、フルエンクの自動機銃から護衛しているようだ。
作戦通りに8割方は上陸できるだろう。
作戦としては、龍人・天使・妖精・あとは飛行系の獣人や悪魔などの有翼種が先行しながら、土系統が得意な種族や魔法使いで土属性の自然魔法【ラウンド・プレート】という地面から切り出された円盤に15名規模で乗り、フルエンク目掛けて打ち上げ、上陸していく。
と言う内容だった。
今のところ2つの地盤が光学兵器で撃ち抜かれて墜落していったが、作戦自体は成功と言えるだろう。
落ちても下は湖で、そういうときのために水魔法の習得者が必ずメンバーにいるため墜落死だけはあり得ない。
「さて、全員打ち上げたし、私も行きますか。」
作戦開始からわずか数分で400名近い人員が彼女の力で打ち上げられ、いまこの平原には彼女一人しかいなかった。
黒髪が不意に風になびかれ、特徴のある黒いウサミミもススキのように揺れていた。
彼女は上を向いていた視線を森の方に向けた。
「あらら、なに......私当たり引いたかも?」
森の方を向いた彼女は光魔法が切れた平原で赤い眼を妖しく光らせて不敵に笑った。
彼女の赤い眼と対峙するは沢山の白い存在。
暗い中、彼らの全身が青白くそして淡く光っていた。
「レイスにスケルトン、暗闇の腐敗臭からゾンビもいそうね。」
彼らが段々と遅いスピードで彼女を囲おうとするが、50m近辺で、霊体のレイスを除いたすべてのアンデッドが地面に足を縫われたように動かなくなった。
「で、これを率いてるのは間違いなく『あの女』よね?」
不死者が理解不能な言葉を発し、喘いでいる様を見渡した。
「思うに、私達を襲撃しようとしたけど、私の仕事の方が若干早く終わったってことね!優秀じゃない私。」
彼女は森の方を見つめるが前に群がる不死者の軍勢がわらわら出てくるところしか見えない。
「じゃあ、こっから先は徹底的に.......やるっきゃないでしょ!?」
彼女にレイスが鎌を振りかぶるが、あっさり避け、手で空間を叩く。
「ーーーー!?」
すると群がろうとしていたレイス達が風に飛ばされるかのように舞った。
レイス達は低い知能ながら不思議な現象に戸惑ってしまう。
その隙を逃さず、自らの武装を呼び出す彼女。
「【砕破】、【臼球】!さぁ、宴と行きましょうか。」
彼女の右手には柄が異様に長い黄金色の槌。
周囲を浮かぶは淡い光を放つ月と同色の球体。
「遠慮はしないわ、土に帰りなさい。」
球体を左手で弾き、スピンを掛け、それを右手の槌を両手持ちで真上からの叩きつけた。
しかし、球体は浮遊したままでその場を微動だにしないが......
「ーーーー!?」
「アァー、アー!?」
「......ヴァオ?」
彼女の周りに群がっていたレイスも、50m付近で留まっていた不死者も、すべて、地面にめり込んでいた。
さらに、時間が経つにつれて不可思議な力で押し付けられていく。
レイスさえも圧力に耐えきれず、爆散していた。
ゾンビなんかは数秒で腐肉を撒き散らし、動きを止めてる。
彼女は槌をその場でくるくると器用に回し、何かを待っているようだ。
「来た!」
槌を回すのを止める。
彼女の待ち人の声は森の方から聞こえている。
『個で軍団を押し潰しますか......やってくれますね?リストリアの兎。』
「お褒めに預かり光栄ね。来なさい、死霊の女王、霊界の魔女ハーディア。」
主が現れたことで、不死者が不器用に雄叫びをあげて、襲い掛かる。
不可思議な重力は彼女の周りに浮く球体の回転が止まったことで消失したらしい。
主の命が下る。
「いきなさい。恐れることはありません。」
それに答える不死者の軍勢。
「GAaaaa!」
「アーアーアーアー。」
「ヒッヒッヒヒ。」
不死者の軍勢は彼らなりの速度で侵攻する。
肉体のリミッター外れたゾンビ犬。
足を引きずる大熊。
骨のアリゲーター。
腐肉を垂らすグリフォン。
彼らが向かう敵は黒髪から銀髪金眼でウサミミも同色に変化した不敵に笑う異質の獣人。
彼女の一振りで粉砕される魑魅魍魎。
ここに戦端が開かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「ミャオさん.......今揺れませんでした?」
「しっ!レイシス君、時と場所を考えるニャ!因みに今の揺れはフルエンク右端の対空迎撃砲台の破壊音ニャ。」
「そういえば.....そうかもしれませんね。」
「いま適当に言っただけニャよ?」
「くっ!」
場所は変わり、フルエンク王族特区のある屋敷の天井裏にて息を潜める一人の獣人と白銀の騎士鎧を纏う青年。
彼らが見つめる先には、抱き付く男女の姿が......
時おり喘ぎ声も聞こえてくる。
騎士甲冑の青年は自分の青髪を触り、『1ヶ月も隠密生活で髪伸びましたね』と階下のことは頭から追いやっていた。
「じー......」
「ちょっと、ミャオさん」
早くここから立ち去りたいと思う青年に対して、猫耳の女性は真剣な眼差しで下の情事を覗いていた。
青年はそういうのは悪趣味だと思い、ここ1ヶ月共同生活を送らされた女性に注意をする。
猫耳女性は冷ややかな眼差しを青年に送りつけた。
「レイシス君、気づかニャいの?」
頭に疑問符を浮かべ、下を覗き、顔を紅くさせつつなんとか言葉を紡ぎ出す青年。
「あ、っと、何がですか?ふ、ふつうの、あれでしたけど、ちょっと強引でしたが。」
青年の答えにため息を吐く女性。
「はぁ、あニョね?あれ別人で、中身が全然違うニャ。」
「そうですか?王女に盛り上がってるだけじゃないですか。」
「わかんニャいかな?今までの行動を思い返すニャ。あれ、フルエンク王に違いないニャ。体は魔王だけど。」
ハッとした顔をした後、真剣な顔で言う青年。
「3日前、植物精霊がここフルエンクを徘徊したとき、王宮でフルエンク王が魔王テルヤに殺された筈ですけど......そのシーンも目撃したじゃないですか、で、ミャオさんの妹を連れ戻そうとしたら、ミャオさんが様子がおかしいって......まさか!でも、」
ある結論に達したらしいが頭では否定したいようだ。
「そうニャ。あの体を乗っ取ったニャ。多分だけど、王を殺す時にはもう乗っ取られて入れ替わっていたニャ。」
そういう女性の言葉に唖然とする青年。
「魔力を求めてですか......古代禁忌魔法【入れ替わり】を使って魔王の体を......ってことですよね?」
「しかし、ウチにも発動の瞬間が見抜けなかったから半信半疑だったけど、これで間違いないニャ。」
階下で聞こえる少女の喘ぎ声。
青年は途端に嫌そうな顔をしていた。
「判断基準がそれってどうゆう訳ですか?」
猫耳女性は耳をピント立てて自信満々に答えた。
「魔王テルヤは女性に優しいニャ。入れ替わる前と全然プレイスタイルが違うニャ。普通気づくニャ。」
いやいや、無理ですよ、と手をブンブン降りつつ、この場を去ることにした二人。
「まったくこんなヒヤヒヤする生活を一ヶ月なんてたまらないですよ、せめてアークウェイが居てくれればな......」
「いい加減ギル離れしたらどうニャ、困ったやつだニャ。」
「いいんですよ、我が家系はそういう一族ですから。」
「今に何代目は変態だってギルに語り継がれても知らニャいよ?」
「う、リラさんに頼もうかな【テレポート・アクセス233番】」
「......望みうすだニャ。」
そうして屋根裏から二つの気配が消えた。
階下では未だに男女の激しい行為が続いていた。
王女は相手の中身が王だとは気づかずに......




