暗証番号《改編版》
魔皇シュレイは、1000年前までサーセルブ大陸の唯一の魔皇だったらしい。
曰く、魔皇の城は宝石型の物質精霊が守っており、それは鉄壁の守りで、破られたことはなく。
曰く、魔皇の領地内の森は広大で、勇者すら迷う樹海迷宮が存在し、多種多様な植物種を見かけることができる。
曰く、魔皇の幹部に、世界に5人しかいない自然精霊の一人がいて、その者を従えるほどの力を持っており。
曰く、戦闘になると空気を読まず、自ら戦場を彷徨き回り。
曰く、幹部の名前を適当に覚えていたり。
曰く、領域持ちで、領域そのものを召喚し、空飛ぶ島で大陸間移動をなんなくこなす事ができ。
曰く、6つの固有スキルを駆使し、敵を退け、味方を守り。
曰く、神々の領域に踏み込んだこともあり。
曰く、人間が好きすぎて、いつも近くの街に変装して遊び歩き。
曰く、人に裏切られて死ぬ寸前まで笑っていたらしい。
ここにいるメイドさん達に聞いた限りではまだまだ話し足りないのか、我こそはと、知っていることを教えてくれましたが、もう覚えられません。
あと、子供みたいな一面も教えて貰った。
やれ魔皇は胸の大きさで内戦を始めたとか、メイドさんと一緒に働いてみたけど、お世話する方にまわったらいつも以上に仕事がなかったと言われ、今まで彼女らの仕事を増やしていたことに気づきショックで部屋から出てこなくなったりなど、他人事のように可愛らしいと思った。
「1000年はーねー長かったんだー。」
「よく覚えてますよね、私は昨日の事も曖昧なのに......」
豪華な魚料理に手を伸ばして自分の皿に持っていた黒髪メイドさんと会話をしつつ、サイダーをちびちび口につけていた。
「やっぱり、みんなで食べるくらいがちょうどの量じゃない。」
「んー、アン様はーご主人にそっくりだったからー」
「からー?」
「みんな張り切っちゃんだよー。」
どうやら、この世界でも刺身があるみたいだ、話しながら黒髪メイドさんは刺身を口に入れつつ、頬を両手で押さえニマニマしていた。
ものすごく長いテーブルには、今、この屋敷の警備をしてる人と料理を作っている人を除き、すべての使用人が一堂に揃い、私とレーゼンさんと一緒にディナーを楽しんでいた。
どうしてこうなったのかというと、私が頼んだのだ。
人に見られながら食事をするのは落ち着かなかったので、頼んでみたところ、銀髪メイドさんが即座にみんなを集めて一緒に食べることとなった。
でも、最初に一緒に食べるのは失礼とかいっていたのに?と疑問に思ったら、近くでサイダーを注いでくれたメイドさんが教えてくれた。
どうやら、ご主人様の1000年振りのわがままだから、マナーについては多目に見るそうだ。
あと久々にお話とか、食事とか、したかったみたいで、私に息つく暇もないくらい色々と話をしてくれたメイドさん達を見てそう思った。
「......私も隣で。」
「ない。」
遠くの方で不貞腐れた顔をしているレーゼンさんと、その隣で監視するかのように立っている銀髪メイドさんがいた。
なんか、レーゼンさん機嫌悪いのかしら?なぜ?
そして、後ろに立つメイドさんと目が合い、メイドさんが微笑んだ顔を向けてくれたので、パッとした笑顔で左手を振って返しておいた。
「っ!く、なんて、強力な......」
「......ちがう、今のはわたしを呼んでる合図!!」
遠くでこっちから顔を背け、手を控えめに振っているメイドさんとその横で席を立とうとしているレーゼンさんの姿が見えた。
なんて言ったのかガヤガヤしていて聞こえなかったが、皆が楽しんでいるようでよかったと思った。
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生まれたばっかで今までどこにいたんだ?とか、ドSマンドラゴラの話をすると、天誅!といい殺気立つメイドさん達、それを説得し押さえる私。
大変に楽しい時間が過ぎていった。
まぁ、私はサイダーしか飲んでないんですけどね。
どうやら、固形物は生まれたばかりだから魔法生物といえど食べられないらしい。よって、ここにあるサイダーとレーゼン深水なるミネラルウォーターで過ごしていた。
運ばれてきたデザートのシャーベットアイスに手をつけつつ、話を切り出した。
話すのは当然、魔皇と私の関係性と、証拠。あと、私の固有スキルの詳細について。
なぜなら、もし......もしも、私が、魔皇の生まれ変わりなら証明できる証拠があるはずだし、私のスキルについても魔皇の部下だったなら詳細を知っているのでは、と考えていたからだった。
でも、私は信じていない。
なぜなら、私の記憶はもはや虫食い状だが、今いるユーレリーゼの記憶は全くないからだ。
そもそも、私の今の見た目がにているだけの他人の空似かもしれない。
そういう思ったことをここにいるすべての人に言ったら、銀髪メイドさんが少し考えるそぶりを見せた。
「そう、ですか?私達には間違いなく本人にしか見えませんが......」
「それは見た目じゃないの?」
「ふふ......疑い深くなりましたね。」
そう笑って私たちの会話を席で聞いていた他のメイドさんもクスリとしていた。
恥ずかしがってる場合じゃなくて、何を根拠に言っているのか聞いた。
「昔の記憶が無いとなると私たちの種族も教えないと行けませんね。」
「......そう、わたしは物質精霊であお「レーゼンさんは知ってます。」」
「......ションボリ。」
そのまま、精霊について教えて貰った。
この世界には精霊が数多く存在するらしいが、精霊の場合、種1つに対して一人と決まっているらしい。
つまり精霊はオンリーワン。
そして、精霊には大きな枠組みが存在している。
自然精霊......世界で5人と少なく、お互いが自分の属性のエキスパートで、弱点以外の魔法効果を完全に無効化する不滅の存在。
物質精霊......宝石や水晶などの石に宿る精霊で数はたくさんいる。精霊にして心核をもち、肉体は魔法人形が無いと
動くことが出来ない。心核が無事なら体を交換することで対処でき、また、アクセサリーに自身の一部を宿し、所持者の強化も手伝うことができる。物質精霊としての魔法【スフィア・キューブ】と適正がある自然魔法を使う。
生物精霊......遥か昔に文明の発達と共に存在意義がなくなり消滅した。
植物精霊......一番数が多い精霊。存在の殆どが独自の領域を生成する【領域魔法】を所持し、世界に干渉せず基本は自分の領域に引きこもり、自身の種が絶えないように、たまに種を蒔いている。魔法植物とは別の存在。人の手が入らない所で日々、植物精霊同士の領域のぶつかり合いが起きることがある。
この4つを総じて精霊種というらしい。
因みにレーゼンさんは魔王種に進化したらしく、今では、自ら進化を遂げた魔皇として扱われているようだった。
「魔王種になるとどうなるかは本人にでも聞いてください。今は私達の事です。」
そう区切って話を続けた。
レーゼンさん......なんでまだ落ち込んでるんですか。
で、聞くと、ここにいるすべての使用人は物質精霊らしい。は?人にしか見えないんですけど。つまり、
「人じゃなくて、魔法人形......う、そ」
ニッコリと微笑む銀髪のメイドさん。
え?だって、え?この城にそんなに居るなんて信じられない。
「どうして、こんなに沢山の方が......」
「それは、貴女が......いえ、魔皇シュレイ様が私たちを見つけては、城に連れ帰り私達の肉体を造って楽しんでおられましたから。」
「え?楽しむって、まぁっまさか......き」
「ええ、毎回着せ替えさせられましたよ。その見た目よりこっちの方がとか言って。」
そういって苦笑いをするが、私じゃないから!?それしたの私じゃないから!!
脱線しつつ、彼女達が長寿の訳と、私が本物である事を証明する方法を知った。
どうやら、私から漏れでている魔素粒子は、シュレイさんが造った魔法人形にある魔力と、同じ波動で同じ雰囲気を持っていたからといわれたが、
そう簡単にホイホイとはいきませんよ。そんな思いを胸に抱く。
信じてない雰囲気を感じ取ったのか、困った表情を作りつつ、でも笑顔は絶やさなかった。
「......え、えっとでは......」
「ああー!?そーだよー」
「何かありました?」
エヘン!と胸をはる何かを思い付いたらしい黒髪メイドさんはこちらを見つめて言う。
「カードだよー」
「それがなんです?」
したり顔で言う。
「あなたはー、カードのロックをしてませんね」
「?ロック?スマホのセキュティみたいなやつ?」
「どうですか?」
「確かにかけてないわ、でもそれが......」
「あれ?シュレイさまもしてないって言うことでー同じって言おうとしたけど......」
首をかしげる黒髪メイドさん。
でも、ロックとか私知らなかっただけだから、それくらいはね。
再び提案する黒髪メイドさん
「じゃあ、ね、当てます!満場一致、一発で!ロック番号を!!」
と、とりあえず言いたいことはわかりましたけど、それがどう繋がるのでしょうね。
ふふん、と自信満々な彼女に気圧されていると、近くのメイドさんが説明してくれた。
どうやら、物質精霊の彼女達は見抜く力がスゴいらしく、見抜いた結果だから間違いないと言いたいみたいです。
でも、即席で情報もなく当てるとか、いや見抜くか......
うそでしょ?4桁もあるのに。
じゃあ、と言うことで暗証番号を適当にいれる。
そんなにうまくいくわけないじゃない、
そう思いつつゲームみたいで楽しそうだから参加する。
(8・7・8・7......花花なんちゃって)
「設定しました。いいですよ。」
「8787ですね、可愛らしい。」
マジか......
次だ!
「いいはな(1187)ですね?」
「そう、です。」
なんでよ!?
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そのあと何回やっても、必ず一発で見破るなんて怖い体験をした。
私のプライバシー......
歓迎ディナーも終わり、部屋に戻ってベットに飛び込んだ。
思うと、彼女達の話の元魔皇って言うのを少し信じてみてもいいかもしれないと思ったが、
記憶がないのは変わらない事実であり、私は私らしく生きることにした。
「長い長い一日が終わります。明日もいい天気になりますように。」
そう言って、目を閉じ意識が薄れていった。




