おまけ
「問題ないわよ」
予想通りといえば予想通りの答えに、考助は内心で胸を撫で下ろすと同時に、若干呆れたような表情になった。
魔力供給施設は今の段階ではほとんど影響ないのだが、今後の事を考えれば大量の魔力を使う事も考えられる。
考助の心配は、魔力供給施設が地脈の力を使って魔力を得ていることにある。
下手をすれば地脈にさえ影響を与えることも出来なくはない。
今の技術では不可能だが、将来的に影響を与えるほどのレベルに達しないとは限らないのだ。
それが世界の運営に問題にならないかどうかを一応確認しに来たというわけだ。。
「随分とあっさりしているね」
その考助の言葉に、相手であるアスラは肩を竦めた。
「それはそうよ。そもそもあの施設、私たちの助けになることはあっても、邪魔になることはまずないもの」
「へ? そうなの? 地脈に影響出たりとかは?」
「何を言っているのよ。貴方が塔で使っているものだって、十分影響を与えているわよ? 同じような物がこの世界にいくつあると思っているの」
アスラにそう言われて、考助はそう言えばそうかと思い至った。
そもそも世界樹やヴァミリニア城も同じようなシステム(?)で、魔力や聖力を神力に変換している。
魔力供給施設は、神力に変換するわけではなくその名の通り魔力に変換しているわけだが、世界にとっては同じようなものなのだ。
「この世界が平面世界だっていうのは分かっているでしょう?」
「うん」
「貴方が元いた星のように自転することによってエネルギーの循環が起こっているわけではないわ。
そう言う意味では、例え扱っているのが魔力でもああいう施設はこの世界にとっては、歓迎こそすれ拒絶する理由はないわよ」
アスラがそうきっぱり言うと、考助は納得の表情になるのであった。
ところが、安心した表情を見せた考助に、アスラが悪戯っぽい笑顔を向けて来た。
「それにしても、貴方もこれから大変ね」
「・・・・・・へ?」
唐突なその言葉に、考助は意味が分からず思わずキョトンとした表情を返した。
「あら。気づいていなかったの? 施設を使っているとはいえ、魔力の循環を起こさせるというのはまさしく神の御業よ。
それを広める基礎を使ったあなたは、間違いなくその分野での神に讃えられると思うのだけれど」
楽しそうな顔でそう言って来たアスラに向かって、考助は頭を抱えた。
言われてみればその通りで、施設の基礎を作ったのは間違いなく考助である。
最初の案が無ければ、間違いなくこの世には魔力供給施設は無かった。
そのため、施設が増えれば増えるほど考助の神としての権威(?)も広がっていくことになる。
ようやくそのことに思い至ったので、考助は頭を抱えたのだった。
「あああああ。そういうことになるのか~」
「おめでとう。順調に神として格を上げていっているわね」
そんな考助に追い打ちをかけるように、アスラがニッコリと笑った。
アスラにとっては、考助が神としての格を上げていくことは、大歓迎なのだ。
単純に嬉しいという気分もあるが、同時に世界を運営していくにあたってやりやすくなることもある。
考助は望まないという事は分かっているが、場合によっては世界の運営そのものをそっくりそのまま渡してしまって良いとさえ考えていた。
もっとも考助自身は、そんなアスラの考えは露知らず、神としての名声が広がっていくことにのみ頭を抱えている。
「・・・・・・どうにか抑えられないのかな?」
「もう手遅れだと思うわよ」
既に事態は動き出しているので、どうにもならない。
せめて考助が思いついた案を形にする前に止めることが出来ていれば何とかなかったかもしれないが、もはや手遅れだった。
「だよねえ」
そのことが十分に理解できている考助は、諦めのため息を吐くのであった。
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「うーむ・・・・・・」
「どうしたのよ? 何か考え事?」
腕を組んで考え事をする考助に、ジャルが話しかけて来た。
「いや、あれだよ。何とか神としての権威がこれ以上広まらないようにする方法が無いものかと思ってね」
考助がそう言うと、ジャルはジト目になった。
「何、贅沢なことを言っているのよ」
「いや、だけどね。折角異世界に来たのに、これ以上神としての名前が大きくなったら自由に動けなくなるよね」
考助の心配としては、神としての立場が上がれば上がるほど、自由に動き回るのが難しくなるという事がある。
いまでも結構不自由な立場に置かれているのに、これ以上動きが制限されるのは御免こうむりたいというのが考助の本音である。
「それ、他の女神たちの前で言ったらだめよ?」
「へ?」
割と本気の表情で言うジャルに、考助は首を傾げる。
「だってそうでしょう? 私たちみたいなメジャーな存在はともかく、神として名前が知られていない人たちは、存在として消えないように何とか頑張っているんだから」
ジャルにそう言われて、ようやくそのことを思い出した考助は、恥じたように俯いた。
最近では落ち着いていたのですっかり忘れていたのだが、そもそも考助がこうして神域に定期的に来るようになったのは、存在が消える女神が出るのを防ぐためだ。
考助の先ほどの台詞は、そうした女神たちの事を冒涜するような言葉だった。
「ゴメン・・・・・・」
自分の悩みが贅沢な物だと理解して、考助の気分が落ち込んだ。
考助本人としては特に意識していたわけではないのだが、どうやら神としていい気になっていたと思い至ったのである。
沈んだ表情になった考助を見て、ジャルが慌てたように手をパタパタと上下に振った。
「あ、あんまり気にしたら駄目よ。矛盾するようだけれど」
「・・・・・・どういう事?」
「貴方の場合は、神になった経緯が経緯だから実感ないかもしれないけれど、神として存在する場合、力や存在が被るなんてことはごく当たり前に起こるのよ」
「・・・・・・それで?」
「分からない? 神として同じ能力がある場合、時にどちらかがもう一方の存在を潰してしまうなんてことは、普通にあり得るということよ」
ジャルが今言ったことは極端な例だが、神として長い寿命を持って存在する以上、そうしたことと巡り合うことは一度や二度ではない。
場合によっては、自分自身が神として存在できなくなるという事もある。
女神たちはそのことを十分に理解したうえで、アースガルドの女神として存在している。
ジャルの話を聞いて、考助は改めて自分が神として特殊な存在だと認識した。
アスラと同じ「神」という存在と、ジャルたち天女とはまた扱いが違うのかもしれないが、だからこそ注意しなければならないと。
今はそうでもないが、更に神としての格が上がった時に、気付かずに他の女神たちの領分を侵してしまう可能性がある。
そうなってしまえば、神にとっては死活問題に繋がることになる。
いくらアスラから「自由にして良い」と言われているとはいえ、そんなことは出来る限り避けようと思う考助なのであった。
気付かない所で調子に乗りそうになっていた考助に釘を刺した回でした。




