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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 セウリの森編
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(12)喧嘩?

 壇上にいるスピカは、ぐるりと自分を見つめるエルフ達を見回してから、再度コレットへと視線を向けた。

「さて。其方の呼び掛けに応じて降神したが、何をすればいい?」

 スピカ神の問いに、コレットは首を傾げた。

「さあ? ここの世界樹のために呼びましたが、何をしてほしいかまでは・・・・・・」

 呼ぶだけ呼んでおいてそれはないだろう、と話を聞いている観客は思ったが、コレットはそれには気づかなかった。

 それを見たスピカは、呆れたような表情になった。

「なんだ。其方の力を見せつけるために呼ばれたのか、私は?」

「どうなんでしょうね? 私は言われたとおりに、貴方をお呼びしただけですから。詳しくはここの世界樹か巫女に聞いてください」

 聞き方によっては、無礼とも取れるようなコレットの言いようだったが、スピカは特に気にした様子を見せずに、小さく笑った。

 そして、コレットに向けていた視線をシオマラへと向けた。

「だ、そうだぞ? コレットに頼むだけ頼んでおいて何も用事はない、という事は無いだろうな?」

 言外にコレットをさらし者にするつもりだったのか、という意図を感じたシオマラは、慌てて首を左右に振った。

 勿論、そんなつもりは一切ない。

 だが、シオマラにしても詳しい目的などは知らないのだ。

 さらに言うと、シオマラ自身はコレットが儀式をするという事だけ世界樹から聞いていて、具体的に何をするかまでは聞いていなかった。

 精霊神を降神するという事は聞いていたが、せいぜい影を呼ぶとかその程度だと考えていたのだ。

 まさか、本神そのものを降神するとは思ってもいなかったのである。

 

 そんなシオマラの考えを読み通したのか、スピカが視線をさらに世界樹の方へと向けた。

 一応結界が張られて姿が見えないようになっているが、そんな物は神であるスピカには何の効果も発揮しない。

「ふむ。其方の巫女は役に立たなそうだぞ?」

「私の巫女をいじめないでください」

 スピカが世界樹に語り掛けると、すぐに世界樹の妖精が姿を現した。

 若干その表情に険があるのは気のせいではないだろう。

 それを見たスピカは肩を竦めた。

「そんな顔をするな。そもそも其方がもったいぶって出てこないからこうなるのだろう?」

「私が気軽に姿を現せないことは、貴方が一番よくご存知でしょう?」

 物理的に何かが起こっているわけではないが、両者の間にわずかばかり険悪なムードが流れ始めた。

 

 本来、神という立場を考えれば、世界樹の妖精が取っている態度は考えられないものだ。

 だが、世界樹という世界に果たしている役目と、普段から実際に世界に力を及ぼしていることを考えれば、こうした世界樹の妖精の態度も許される。

 何より、セウリの森の世界樹は、現存する世界樹の中でも最も古い樹であるために、下位の神々よりも強い力を持っているのだ。

 もっとも、スピカが本気で世界樹に対して力を及ぼせば、すぐに滅ぼされてしまうだろう。

 ただしその場合、周囲の環境は目も当てられない状況になってしまうのだが。

 

 そんなわけで、世界樹の妖精はスピカに対して遠慮ない態度を取っているのだが、スピカもそれに対してどうこう言うつもりはなかった。

 それ故に、今のような状況になってしまっているわけだが、この状況を止められる者はこの場には一人しかいなかった。

 二人(?)の様子を見て、救いを求めるような視線をコレットから向けられた考助が、ため息を吐きながら壇上に上がったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 突然壇上に上がって来たヒューマンに、息を飲みながら状況を見守っていたエルフ達がそろって訝しげな表情をした。

 神威を隠している考助は、見た目は完全にただのヒューマンでしかない。

 そんなヒューマンが、何故この場に居るのかが分からなかったのだ。

 勿論、先日一人のヒューマンが、シオマラに呼ばれて里に入ったことは噂として知っていた。

 しかしながらそのヒューマンが、この状況で何か出来るとは考えていなかった。

 

 そんな視線を感じながら、考助は一柱の神と一体の高位妖精に対して声を掛けた。

「はいはい。二人共、こんな所でじゃれ合わないで」

 そんな考助の言葉を聞いた観衆は、何を馬鹿なことを、という感想を持った。

 今起こっていることのどこがじゃれ合いなのか、と。

 だが、そんな周囲の感想を余所に、それまであった険悪なムードが一気に霧散した。

「別にじゃれてなどいないぞ」

「そうです。変な勘違いをしないでください」

 近づいてきた考助に対して、一柱と一体はそれまで合った険のある表情を元の穏やかな(?)表情へと戻したのだ。

 それを見た考助は、どこのツンデレだという感想を抱いたのだが、それは言葉にせずしっかりと胸の奥にしまっておいた。

 

 急展開すぎる状況に観客が付いて行かない中、考助はそれを無視して話を進めることにした。

「それで? 何か用があってスピカをこの場に呼んだんじゃないの?」

 考助の言葉に、スピカが大きく頷いた。

「そうだ。まさか、用もなしにこの場に呼んだんじゃないよな?」

「そんなわけないじゃない」

 スピカの言葉にムッとしながらも、それを聞かなかったことにした世界樹の妖精が続けた。

「私にも名前が欲しい」

 端的に言った妖精の言葉に、一瞬場が静まり返った。

 

「は? え?」

 思わず隣にいた考助が、気の抜けた返事をしてしまったが、それを責める者は誰もいなかった。

 一方で、それを聞いたスピカは、やっぱりかと言いたげな表情になっている。

「そんなことくらいで、私を呼ぶような手間を掛けさせないで。素直に考助に付けてもらえばいい」

「一度頼んで断られた」

 呆れたように言うスピカに、世界樹の妖精はムッとした表情になってスピカを睨んだ。

 そんな二人のやり取りを呆然とした表情で見やる考助。

 思わず額に手を当ててしまったのは、仕方のないことだろう。

「えーと。要するに、僕が名前を付けるのを断ったために、こんな大事になった、と?」

 信じたくはないが、スピカと世界樹の妖精の表情を見る限りでは間違いないらしい。

 同じ壇上にいるコレットやシオマラも、耳を疑うような表情になっていた。

 

 そうした雰囲気を感じ取ったスピカが、ため息を吐きつつ世界樹の妖精に対するフォローを始めた。

「まあ、そんな顔をしてやるな。考助ももう分かっているだろうが、力のある存在程名前というのは重要になってくる。ここの世界樹となるとなおさらだ。そうそう気軽に頼める相手などいないんだよ」

 だったらそんな役目を自分に持ってくるな、と言いたくなった考助だが、そう言える雰囲気ではないことを察して、矛先を変えることにした。

「だったら、スピカが付ければ良いのでは?」

「良い訳が無い。私が今この場で名前を呼んでもそれはこの世界に定着したことにはならない。あくまでも地上にある者が、名付けるのが重要なんだよ」

 神域にいる神々は地上に大きな影響を与えることが制限されている。

 それ故に、名づけという行為も気軽に出来るわけではないのだ。

 セウリの森の世界樹程の存在に名前を付けるのが、神々が駄目となると、考助の他に適当な存在がいないのである。

 そう淡々と言うスピカに、考助は追いつめられた表情になって行った。

 このままで行くと、セウリの世界樹の妖精に名前を付けるのは自分、という事になり兼ねない。

 だが、いつまでもここで自分がごねては、話が進まないという事も考助は理解できてしまった。

 

 結局、淡々とした表情で追いつめるスピカと期待の視線を向けてくる世界樹の妖精に圧されて、一度は断った名づけをすることになる考助なのであった。

結局両者に対して仲裁することになった考助でした。

折角身分(?)を隠していたのに全てがおじゃんになってしまいましたw


感想でも質問を頂いたのでここでも補足しましたが、年を経た世界樹の妖精の位は下手な神よりも上になります。

世界に対して及ぼしている力の差からこういった状況になっています。

ただし、人々の信仰と言った点からは全く別の話になります。

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