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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 セウリの森編
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(10)儀式の始まり

 <活霊の儀>は、精霊たちの活動が最も活発になる満月の日に行われる。

 基本的に月が出ている夜に行われるのだが、儀式の目的によっては昼に行われることもある。

 そもそも精霊たちと世界樹の活動に合わせて行われるので、昼の方が都合が良い場合もあるのだ。

 そうしたこともあり、儀式に関してはコレットやシオマラが言った通り、完全に世界樹の巫女の専権事項となっている。

 そのため、儀式を見守る者たちのほとんどは、直前まで内容を知らないというのが普通だった。

 もっとも、儀式の内容が変わること自体がほとんどないために、知る必要が無いという事もあったりする。

 それ故に、突然巫女から儀式の変更を告げられるとちょっとした騒ぎになったりすることもある。

 そう。

 今回のセウリの里で行われた<活霊の儀>において、世界樹の巫女であるシオマラからコレットが紹介されたときのように。

 

 儀式が行われる前に、考助はシオマラにとある質問をしていた。

「そう言えば、儀式にコレットを使う事で、何か変化が起こるかも知れないのですが、いいのですか?」

 シオマラは考助の質問の意味が分からずに首を傾げた。

「ええと? どういう意味でしょう?」

「コレットが出ることによって、大きく変化することはありませんか?」

 シオマラは考助の疑問に、苦笑して答えた。

「確かに我々は、大きな変化を拒んでいる所がありますが、必要な変化まで排除しているわけではないですよ」

「と、いうと、今回の儀式にコレットが出るのは必要なことだと?」

「そう考えたからこそ、頼んだのです。世界樹も必要だと考えておられるようですし」

 シオマラの言葉に、考助は「ああ」と頷いた。

 世界樹が必要だと考えたからこそ、今回の変化も受け入れるというのは、理由として納得できる。

 むしろ分かりやすい理由だろう。

 シオマラと世界樹の間で、いつそのようなやり取りをされたのかは分からないが、特別のやり取りの方法があってもおかしくはない。

 そこは特に不思議ではないことなのだ。

 

「それにしても、コレットは何をするつもりなんでしょうか?」

 コレットから儀式については何も聞いていない考助が、首を傾げた。

 世界樹の儀式に関することなので、門外漢の自分は特に口を出す必要が無いと考えているのだ。

 コレットは、シオマラから儀式の参加を依頼されたときからやるべきことがわかっていた節がある。

 この考助の疑問に対して、シオマラは笑みを浮かべた。

「私はコレットから話を聞いていますが、もしお知りになりたければ、コレットから直接聞いてください。口止めされているわけではないですが」

 その含むような笑いを見て、考助はこれ以上の問いかけは諦めた。

 シオマラのその笑みが、女性同士の秘密、と言わんばかりのものだったのだ。

 こういう時に深く関わると碌な目に合わないというのが、女性ばかりに囲まれて生活するようになった時からの考助の教訓なのだ。

 

 結局、考助はコレットが儀式で何を行おうとしているのか、聞く機会は最後まで恵まれなかったのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 セウリの里で行われる普通の<活霊の儀>は、世界樹の巫女であるシオマラが世界樹とそれに集う精霊たちに祈りを捧げる儀式の事を言う。

 その儀式自体は短時間で終わるのだが、後は里周辺の恵みに感謝をするために、エルフ達が飲めや食えの騒ぎを行うのである。

 どちらかといえば、豊穣祭の一種だと思えばいい。

 勿論、住人達が飲み食いをする以外に世界樹と精霊に捧げる物は、別口で用意してある。

 盛大に振る舞われる食事や飲み物のおかげで、エルフの住人たちからも楽しみの一つとなっている。

 満月が来るたびに行われるので、弾けるにはちょうどいいのだ。

 だが、今回の<活霊の儀>は、いつもと様子が違っていた。

 普通であれば、シオマラが儀式を行った後、宣言を行う事で飲み食いが始まるのだが、その宣言が無かったのだ。

 代わりに儀式の舞台の壇上に立つシオマラから、別の口上が述べられた。

 

「今回の儀は、世界樹の希望により別の儀式が加わります」

 その言葉に、観客たちは騒めいた。

 とはいえ、これまでも同じようなことが全く無かったわけではない。

 勘の良い者は、もしかしたら外で起こっている騒ぎに関係あるのでは、と当たりを付ける者もいた。

 一瞬ざわついた観客たちだったが、その騒めきはすぐに収まった。

 別の儀式が加わるという事は、とても重要な場合が多いと分かっているためだ。

 周りの者と話すのを止めて、シオマラの言葉を待つ態勢になる。


 それを確認したシオマラは、一つ頷いてから言葉を続けた。

「その儀式は私ではなく別の者が執り行う事になります」

 シオマラがそう言った瞬間、集団の中で<活霊の儀>を見ていたコレットの両親が表情を歪ませたが、それに気づいたのは周囲にいた者達だけだった。

 その他の者達は、その異変に気づくことなくシオマラの言葉に聞き入っている。

 だが、次のシオマラの言葉に再び騒めくことになった。

「それでは、コレット。よろしくお願いします」

 シオマラがそう言って、壇上の脇を見た。

 その言葉と同時に、コレットが壇上に姿を現した。

 ついでに考助は、コウヒたちと共に脇に控えている。

 壇上の中央に歩を進めるコレットの表情を見る限りでは、特に緊張している様子は見当たらなかった。

 

 セウリの里も、他のエルフの里と同じように子供の出生率は高くない。

 いくら規模の大きい里といえども、コレットの事を覚えている者達がほとんどだった。

 当然彼女が里を出て行った経緯を知っているのも同じだ。

 そのため、騒ぎのほとんどは批判的な声が主だった。

 それらの声をコレットは、特に表情を変えずに黙って聞いていた。

 代わりに大きく反応したのは、この場にコレットを呼んだシオマラだった。

 

「静まりなさい!!!!」

 

 普段は物静かで、全くと言っていい程怒ることのないシオマラの怒鳴り声に、一瞬でその場の騒めきが収まった。

「コレットの参加は世界樹様の決定です。もし異議のある者は、世界樹様の決定に反すると心得なさい」

 シオマラは一度言葉を区切って、反対する者がいないことを確認して「いないと思いますが」と前置きをしてから続けた。

「もし、この後のコレットの儀式を邪魔するような愚か者がいれば、世界樹様の加護を失うものと考えなさい」

 冷たく突き放すようなシオマラの声に、里の者達は静まり返っている。

 心の中ではどう思っていようと、シオマラから「世界樹様の決定」と言われれば里の者でそれに反対出来る者は誰もいないのだ。

 里のまつりごとに関しての発言権はさほどでもないのだが、世界樹に関わることに関する巫女の発言権は絶大な物がある。

 それを端的に現した出来事だった。

 

 固唾を飲んで事の成り行きを見つめる里の者達の注目を集めながら、コレットは特に気にした風もなくシオマラを見た。

 そのシオマラは、コレットに向かって一つ頭を下げた。

「申し訳ありません。儀式を始めてください」

 それを見た里の者達は、かろうじて声を上げるのを抑えていた。

 儀式に関わる舞台の上で、巫女であるシオマラが下手に出ることなどまずあり得ない。

 だが、今のシオマラは明らかにコレットの下手に出ていた。

 一方でシオマラの態度に一瞬だけ目を丸くしたコレットだったが、周囲には気づかれずにすぐに一つだけ頷いた。

 シオマラがこうした態度に出た理由にきちんと気づいたのだ。

 これから先のコレットの儀式をやりやすくするためでもあるし、今後の里の事を考えての事だと分かったのだ。

 

 そして、里の者達の注目を集めながら、いよいよコレットの行う儀式が始まることになるのである。

コレットが行う儀式は次回です。

どう言った儀式になるかは、妄想しながらお待ちくださいw

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