(7)更なる発展へ(その4)
神能刻印機の更新と転移門の設置について話をしたサラーサが次に話したのは、シルヴィアの息子であるルカについてだった。
「ルカ様、ですか?」
とは言え、いきなりルカの名前を出されてもよく意味が分からない者がほとんどだ。
ここにいる者は、商人部門の人間なので、巫女であるシルヴィアとの接点はほとんどないのだ。
ましてや彼女の子供たちは、商人部門と深く関わりがあるわけではない。
なぜこの場でルカの名前が出て来たのかがよくわからなかったのだ。
「ええ。知っている方は知っていると思うけれど、ルカ様は考助様の実の息子です」
サラーサがそう言うと、シュミットへと視線を向けた者が何人かいた。
ルカが考助の息子だと知らなかった者が確認したのだ。
それに答えるようにシュミットも深く頷いた。
フローリア女王の子供たちが考助の子であることは、公然の秘密に近い状態になっているが、シルヴィアの子供たちについてはそこまで広まっていない。
知っている者は知っている、といった程度だろう。
そもそもシルヴィア自体がラゼクアマミヤでは重要な巫女ではあるのだが、あくまで巫女としか思われていないのだ。
政治的に影響力を持っているわけではないので、さほど重要視されていないのだ。
勿論、考助の子供となればある程度の影響力を持つことは出来るが、女王であるフローリアの子供たちほどではない。
そんな微妙な立ち位置にいるルカの名前を出した理由が分からずに、シュミットがサラーサに問いかけた。
「ルカ様がどうかされたのですか?」
シュミットはルカのことを見知ってはいるが、だからと言ってクラウンの商人部門の会議に関係があるとは思えなかったのだ。
「ええ。シュミットは知っていると思うけれど、ルカ様は魔法陣に関して抜きんでた力があるわ」
「そうですね。その話は私も知っています」
「その才能をさらに伸ばすために、考助様がルカ様に対して直接指導することが決まりました」
そのサラーサの言葉に、シュミットが思わず目を瞬いた。
それがもし本当のことなら、確かに商人部門にとっては大きなニュースになる。
「・・・・・・なるほど。そういう事ですか」
サラーサが言った一言で、シュミットは彼女が言いたいことを一瞬で理解した。
「この場で発表することをコウスケ様は・・・・・・?」
「勿論知っているわよ。あの方が直接関わっていることで、許可を得ていない事を私が話すはずがないでしょう?」
「それもそうでしたね」
断言するサラーサに、シュミットは同意して頷いた。
二人の会話に周囲は完全に置いて行かれている。
考助が魔道具に関して、ルカという子供に指導することが、どうクラウンに影響するのかがよくわかっていないのだ。
この場に居るのは海千山千の商人たちとはいえ、自分達が持っているルカの情報が少なすぎるために、判断することが出来ないのだ。
「・・・・・・あの、どういうこと何でしょうか?」
一人の問いかけに、シュミットがゆっくりと話始めた。
「先程サラーサ様が話した通り、ルカ様には魔法陣に関して才能がある、はずです」
シュミットがあえて断言していないのは、ルカがまだ成人していない子供のためだ。
今後どのように化けるか分からないため、敢えて言葉を濁したのである。
その思いをくみ取ったのか、何人かが頷いていた。
「ところが、コウスケ様がルカ様を教育するとなると話が変わってくる可能性があるのです」
ここで意味が分からずに首を傾げる者達が出た。
親が子供を教育することは、何も不思議なことではないからだ。
勿論、その親が現人神であるという特殊な状況ではあるが、別に神が自分の子供を教育してもおかしいことは無いだろう。
「コウスケ様が教育を始めるという事は、ルカ様の才能を認めたという事になります」
そこで何人かがハッとした表情になった。
シュミットの言いたいことがわかったのだろう。
「ルカ様も将来、あの方と同じような魔道具を作り出す可能性がある、と?」
気付いた者の内の一人が、そう問いかけてようやく他のメンバーもシュミットが言いたいことを理解したようだ。
「そうですね。・・・・・・ただ、勘違いしてほしくないのですが、コウスケ様はあのような方ですから、単に親として教えたがっているだけという可能性もあります」
「そうよねえ」
苦笑しつつ言うシュミットに、同じように苦笑しながらサラーサが同意した。
考助と直接対面したことのある参加者も納得したような表情になっていた。
「・・・・・・この件については、先走りは厳禁とします。特に工芸担当は、先走ってスカウトしようとしないように」
「は、はい」
工芸担当と言っても複数人の担当者がいるので、その担当者たちが返事を返した。
「だからと言って、みすみす他の商会に取られるのも惜しいですからね。監視と牽制は忘れないようにしてください」
シュミットの言葉に同意するように何人かが頷いている。
「ただ、余りやりすぎると、今度は保護者が出てくる可能性がありますから注意してください」
「あの・・・・・・? 保護者というと?」
「まあ、ある意味で現人神よりも神らしい存在です」
それ以上は言えない、という表情をしたシュミットに、管理層の会議室でコウヒやミツキを見たことがある者達が、真顔になっていた。
具体的に誰とは言わないが、言わなくともわかることもあるのだ。
当然管理層に行けるのはトップクラスの者達だけなので、彼らの表情を見て他の者達もこれ以上は触れてはならないのだと察したのであった。
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「それにしても、コウスケ様が直接指導されるという事は、どれくらい期待できるのでしょうね?」
何となく固まってしまった空気をあえて壊すように、シュミットがサラーサへと問いかけた。
サラーサもこの空気が良い物ではないと感じていたので、そのあからさまな話題転換に乗っかった。
「さあ? でもイスナーニが言うには、魔法陣に関してだけは、いずれ自分を抜くかもしれないと言っていたわね」
「・・・・・・そこまで、ですか」
イスナーニは考助の片腕になれるほどの魔道具の開発が出来る人材だ。
そのイスナーニを抜くとなると、とんでもない才能と言えるだろう。
「勿論、今のままの伸びで成人するまで成長できれば、と言っていたけれどね」
「それはまた、ずいぶんと厳しい条件ではないですか?」
子供の頃に才能があると言われていても、大人になって普通の人、というのはこの世界でも変わらない、良く聞く話なのだ。
「そうかもね。だからこそ、考助様が直接指導することになったのでしょう。恐らく」
納得できるその理由に、出席者達が頷いていた。
子供の内から高い壁を見せて、成長し続けることを望んでいると理解したのだ。
もっとも、飽きやすいというのも子供の特徴だ。
どうやって現在持っている興味を持続させつつ才能を伸ばしていくかが重要になってくる。
その辺は、指導を行う考助の腕の見せ所と言えるだろう。
「コウスケ様が、どういう指導を行うのか、是非とも間近で見てみたいですね」
何気なく言ったシュミットの呟きに、サラーサがからかうように返答した。
「あら。直接頼んでみたら?」
現在のシュミットは、管理層への出入りは会議室までしかできないことになっている。
それ以上を求めるとなると、考助を中心とした家族の中に入り込まなくてはならなくなる。
「・・・・・・そんな勇気はありません」
げんなり、といった表情になったシュミットが返した答えが、いろんな意味で全てを物語っていると言えるかもしれないのであった。
ルカの話でした。
ルカが将来魔術具の開発をして行くとなるとクラウンに関係してくるので、敢えて今章の流れに組み込みました。
「更なる発展へ」ですが、もう一話続きます。
最後が一番大きい変化です。
作者的には。




