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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その9)
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(8)修行(リリカ)

 考助を主神として祀ってある第五層の神殿は、基本的には夜に一般の者達が立ち入ることはない。

 特に入場制限をしているというわけではないのだが、そもそも他の神殿のように訪れても神職の者達がいないので、夜に来ても仕方がないという事情がある。

 お祈りをするのであれば、昼間のうちにしておくというのが通常のパターンなのだ。

 その人が少ない時間帯を狙って、リリカが神殿を訪れていた。

 巫女としての業務を行うためではなく、個人的に修行を進めるためだ。

 シルヴィアからは色々なアドバイスを貰ったりはしているが、基本的にはこうして個人的に修行に来ているのである。

 ちなみに、夜に女性一人で誰もいない神殿を歩き回っているリリカだが、それを襲おうとするような馬鹿な輩は流石にいなかった。

 外を歩いているならともかくとして、神殿の中に居る者、しかも巫女を襲えば、どんな神罰を食らう事になるのか分かった物ではないからである。

 

 一人もいない神殿は、当然ながら真っ暗闇に包まれている。

 そんな中、リリカは片手にランプの魔道具を持ちながら歩いていた。

 この魔道具は、クラウンが売り出している物なのだが、リリカはシルヴィアから考助が作りだした物だという事を聞いていた。

 クラウンの成長と共に売り出された新しい魔道具は、人々の生活の中に溶け込んでいたりする。

 その中の半数以上が考助が考え出したものだというのだから驚きだろう。

 勿論、そのほとんどは元々あった物を改良したような物なのだが、一般庶民でも使えるような値段設定になっている。

 そのため、そこそこ余裕のある家庭から広まっているのだ。

 中には低所得者層には手が出ないような物もあるが、基本的には一般に売り出されている物がほとんどなのである。

 

 リリカは持っていたランプを床に置き、そのまま祈りの態勢になった。

 そして、ゆっくりと座禅を組んで目を閉じた後は、コウスケ神の神気を感じ取る修行に入った。

 リリカは既に周囲に漂う神気を感じ取ることは出来るようになっている。

 だが、それが誰の神気であるかという事までは感じ取れないのだ。

 リリカは知らないが、先日ココロが考助やクラーラ神の神気をしっかりと感じ取ることが出来たのは、神具を使って交神しているのと普段から身近に考助と触れ合っているためである。

 そもそも漂う神気の気配をこれが誰だれの神気と選り分けて感じ取れる者などほとんどいないのだ。

 それが出来る者は、神託を得られる高位の神官や巫女だったり、加護を得ているような者達なのである。

 リリカ自身は、考助の加護を得てから既に十年以上の時が経っている。

 こうして神気を感じ取ることもベテランの域に達していると言って良いだろう。

 

 そんなリリカが個別の神気を感じ取るように修行をし始めたのは、シルヴィアの何気ない言葉がきっかけだった。

 話の流れで、魔力や聖力のように、それぞれの神の神気にも違いがあると言われたのである。

 きちんと神殿で修行を重ねている巫女や神官であれば、いつかは聞いていたであろう事なのだが、リリカはその話を聞く前に冒険者となっていた。

 シルヴィアからその話を聞かなければ、神気は神気として一括りで考えたままだっただろう。

 そう言うわけで、自分に加護を与えてくれた考助の神気を感じ取ろうと時間を見つけては修行を重ねてきたのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 座禅を組みながらあたりに漂う神気を感じ取るリリカ。

 そこからさらに一歩踏み込んで、考助の神気だけを感じ取るのが目標だ。

 シルヴィアからもらったアドバイスだと、リリカは既に加護を貰うときに考助と会ったことがあるので、その時の気配を見つければいいと言っていた。

 リリカはシルヴィアのように頻繁に考助と会っているわけではない。

 とはいえ、他の神は一度も会ったことも交神したこともあるわけではないので、比較的簡単に区別が出来るかもしれないとも言っていた。

 それらのアドバイスに従って、何とか考助の神気を見つけようとするが、中々上手くいかなかった。

 リリカの元々の認識で、神気は一つの物、という事になっているので、区別するというのが難しいのだ。

 それでも色々な匂いが混じった中から一つの匂いだけを区別するように、神気も区別できるんだと思うようになっていた。

 そう思えるようになったのは、ここ最近のことであった。

 

 初めて会った時の考助の気配を思い出しながら、ゆったりと神気に身をゆだねる。

 そんな中リリカは、どこか懐かしいような、それでいてごく身近に感じられるような気配を感じた。

 まさかと思って、その気配をより強く感じ取るようにしてみる。

 物理的に動いているわけではないのだが、自分の存在をより感じ取った場所へと近づいていくといった、何とも言葉にしづらい動作なのだ。

 それでもこの十年以上の修業で、そうした感覚は磨かれている。

 慌てずゆっくりとその気配へと近づいてみた。

 もう少しでその気配に触れることが出来る、とリリカが感じたところで、突然リリカの頭の中で音にならない言葉が聞こえて来た。

 

『おめでとう。ようやく上手く・・・・・・。・・・・・・てたら、シルヴィアに・・・・・・ように』


 聞こえてきた言葉は途切れ途切れだったが、間違いなく何度か聞いたことのある考助の声だった。

 同時にリリカは、これがこれが神託かと理解できた。

 もっときちんと聞き取れないかとさらに深く集中してみたが、残念ながらそれ以上考助の声が聞こえていることは無かった。

 それを残念に思いながら、それでもようやく目的を達成することが出来た達成感でいっぱいだった。

 流石にこれでは修行が意味をなさないなと考えて、その日は打ち切ることに決めた。

 いつもよりも早い時間だが、今の状態で進めても逆に駄目になってしまう可能性もある。

 とにかく、初めて聞けた考助の神託を胸に、神殿に設けられた一室に戻って就寝するリリカなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 翌日。

 リリカが執務の為、城の執務室を尋ねると、既にシルヴィアが来ていた。

 まだ業務を始めるには時間が早かったため、早速昨日の成果を話すことにした。

「シルヴィア様、昨日ようやくお声を聞くことが出来ました」

 誰の声かは言うまでもない。

 リリカが加護を貰っているのは、考助からだけなのだ。

 それを聞いたシルヴィアは、パッと顔を輝かせた。

「あらあら、本当に?!」

「ええ。残念ながら、祝ってくださった言葉と、シルヴィア様のお名前しか聞き取れませんでしたが」

「初めての神託で、それは十分ですわ。・・・・・・あら? ちょっと待ってくださいね」

 シルヴィアが、突然空に視線を向けたかと思うと、会話を打ち切った。

 リリカもこうしてシルヴィアがたまに神託を受け取っている事を知っているので、口を挟むことはしなかった。

 

 交神が終わったシルヴィアが、突然リリカに向かってこう言って来た。

「リリカ。今日は大きな業務もございませんから、早速向かいましょう」

「え? ええと、向かうというのはどちらに?」

「勿論、管理層に決まっているではありませんか」

 そう言ってにこやかに笑ったシルヴィアだったが、リリカは突然のことに混乱している。

 何がどうなって、勿論なのかが分からない。

 しかも向かう先が管理層という事は、当然ながらコウスケ神がいる。

 リリカは今まで一度も管理層に行ったことは無い。

 あることは知っているが、リリカにとっては神域に近いような存在なのだ。

 いきなりそこに行くと言われても、驚くことしかできない。


「かか、カンリソウですか?! な、なな何故、突然、そんなことに?!」

 慌ているリリカにシルヴィアが笑みを浮かべながら、リリカにとってはさらに衝撃的な答えを言った。

「コウスケ様がお呼びなのです。それとも、お断りしますか?」

 シルヴィアはそう言って、若干意地が悪い笑みを浮かべた。

「お断りなど出来るはずありません! あっ、えっと、でも?!」

 現人神からの直接のお誘いだ。断ることなど、出来るはずもない。

 だが、それだとリリカにとっての神域に足を運ばなくてはならない。

 それはそれで非常に恐れ多いことだ。

 

 結局、混乱したままのリリカをシルヴィアが巧みに誘導して、リリカは管理層へと初めて足を踏み入れることになった。

 当然のように、そこには考助が笑顔で待っていたので、更に混乱したリリカが大いに慌てて、後々までシルヴィアにからかわれることになるのは、また別の話なのであった。

修行リリカ編でした。

最後は締まらなかったですがw

十年という長い年月がかかっていますが、ごく普通のことです。

というよりも、通常はこんなことが出来るようになるのはごく一握りで、更に年月がかかります。

リリカも順調にチートへの道を進んでいますねw

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