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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その7)
430/1358

(4)教師の権限(後編)

や、やりすぎた気がします><

 トワが学園の学園長に就任していることは、ごく一部の者しか知らない。

 学園に子供を通わせる親たちには、王家に近しい者だけが就任していると伝えて、王家が学園を重要視している事だけを伝えていた。

 ただし、建国したばかりのラゼクアマミヤにおいては、王家の人間と言うのは非常に少ない。

 厳密に言えば、女王であるフローリアとその夫である考助。

 更には、その子供たち三人が王家の人間と言える。

 フローリアの父親であるアレクは厳密には王家の人間とは言えないのだ。

 とはいえ、わざと王家に近しい人間と曖昧にすることで、正確に読まれないようにはしている。

 そのために、学園長が誰であるかはごく一部の者しか知らされていない状態だったのである。

 何より、学園長代理(・・)についているジル・ビッサが、下級貴族の出であるとはいえ、非常に優秀な人材として知られていたため学園の運営上は特に問題ないだろうと言われていた。

 深読みしすぎた貴族の一部は、フローリア女王本人が学園長で忙しい女王に変わってジルがつけられているのだろうとさえ噂されていた。

 それ故に、ニコ侯爵が押し掛けて学園長を出すように言った際に、トワが出て来たのは二重の意味で驚きだっただろう。

 一つは、本当の意味での王家の人間が学園長に就いていたこと。

 もう一つは、いくら王家の人間とは言えたかが十歳の子供が、学園長という重要な役職に就けられていることについてだ。

 そして同時に、子供が相手なら自分の思い通りになるだろうと、心の中でほくそ笑んでいた。

 目の前にいる子供が、羊の皮をかぶった狼だとは知らずに。

 

 一方のトワはと言うと、十歳の子供らしからぬ思考で、どうやってこれから会話を運ぼうかと考えていた。

 ある程度の方針は、今いる部屋に来る前に案内役の者から聞いていた。

 目の前にいる侯爵は一言で言えば、先日起こった彼の息子への対応に文句を付けに来ているのだ。

 この辺は子が子なら親も親という事だろう。

 ラゼクアマミヤは、クラウンと同じように奴隷の扱いに関しては、粗雑な扱いにならないように厳しく取り扱っている。

 そうは言っても、貴族が奴隷から物を教わるなんて、という思いは貴族の誰もが持っている事だろう。

 先日事件を起こした侯爵の息子が不幸だったのは、彼が入学式に間に合わずに数日遅れて入学したために、学園の教師に対する立場を聞き逃したことだろう。

 そのために、普段貴族の子女たちが考えていたことを、そのままストレートに言動に現してしまったのだ。

 逆に他の生徒たちは、戸惑いつつも最初の注意を聞いていたために行動に示していなかったのだ。

 残念ながら、数日遅れで入学した者への学園側の配慮不足はあったと言えるだろう。

 そして初日の注意事項を聞き逃したために、そのままあの日あったことを父親である侯爵に伝え、こうして侯爵本人が出張って来たという事になる。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 トワは、事前に聞いたその辺りの話を頭の中で考えつつ、どうやって話を持って行くかを考えていた。

 この時点でトワが普通の子供ではない証左であり、妹弟二人が敵わないと思わせる兄としての実力だった。

 ただし、子供らしく首を傾げている姿に、侯爵は完全に騙されていた。

 握手を無視した子供らしい失敗に内心であざ笑いつつ、勧められたソファーに腰を下ろした。

「いや、驚きましたな。まさか学園長にトワ様が付いていらっしゃるとは思っていませんでした」

 本来であれば、立場的にもトワから話すべきことなのに、すっかり子供だと侮りそんなことを無視して侯爵が話し出した。

 それを気にした風もなく、トワは笑顔を浮かべて嬉しそうに話し出した。

「はい。私もそう思ったのですが、母上に大丈夫と言われて、それならと引き受けることにしました」

 頬を上気させてそう言うトワは、侯爵からすれば完全に子供のそれだった。

 隣でそれを見ていたジルは内心で頭を抱えていたが、それを表に出すことは無い。

 ジルの内心を言葉にすれば、「どうすれば、こんな十歳児が育つんだ?!」であろう。

 トワが失敗した時にフォローするために自分がいるのだが、その必要性が全く感じられない。

 

 そんなジルの内心を余所に、二人の会話は続いている。

「ほほう。女王様が、ですか」

「はい」

 女王も身内にはやはり甘いのだなと内心で嘲りつつ、侯爵はそれを表に出すことはしない。

 今の状況は、自分にとっては良い状態だと考えるだけだ。

 目の前の子供を手玉に取って、自分にとっての良い答えを引き出すのが目的なのだ。

「それでは、学園長であるトワ王太子は、先日の話をお聞きになっておりますかな?」

「先日のといいますと、貴方のご子息が起こした騒ぎでしょうか?」

「騒ぎとは異なことを仰る。我が息子が言うには、教師にふさわしくない者に相応の教育をしたという話でしたが?」

「教師にふさわしくない、とは?」

 首を傾げるトワに、侯爵も身を乗り出して話し始めた。

 

 ちなみに、侯爵が息子から話を聞いたのは、奴隷という立場であるはずの教師が学園で教鞭をとっているいるというものだった。

 それに対して自分が立場を弁えるようにいうと、学園側から止められたという事だけだ。

 その際に仲裁に入ったのが、トワだったという事までは聞いていない。

 あるいは、その情報の不足がこの後の二人の話に影響を与えたといえるだろう。

 この時点で侯爵は、何も知らない子供を言いくるめるつもりで話をしていたのである。

 

「何でもこの学園では奴隷身分の者が教師をしているとか。そのような立場の者が、この学園に通う者達に物を教えるというのは、ふさわしくないと思わざるを得ません」

「ふさわしくないのですか?」

 トワは、わざとらしく驚いた表情を侯爵に向けた。

 侯爵には、それが非常に驚いている子供のように見えたことだろう。

 思いきり同意するように、侯爵は頷いた。

「それはそうでしょう。奴隷身分の者達は、十分な教育が受けられていない者達がほとんどですからな」

 侯爵は、既に目の前の相手が王太子であることを忘れつつあった。

 王城でこのような話し方をすれば、批判の視線が侯爵に向いていただろう。

 周りに貴族たちがいないというのが、侯爵のストッパーを外してしまったとも言えるのだが。

 

 侯爵の態度と話の流れに、そろそろかなと見切りをつけたトワが、罠の一言を放った。

「では、そのふさわしくない者に教育を受けると、どのようなことになるのでしょうか?」

「それは勿論、貴族らしくない者が育つといえますな。そうならないためにも即刻学園の教師は、貴族だけでそろえるべきです」

「そうですか・・・・・・貴族らしくない者になるのですね・・・・・・」

「それはもう」

 視線を俯かせたトワに、侯爵は完全に気が大きくなっていた。

 だからこそ、次のトワの言葉に不意打ちを食らうことになった。

 

「ということは、その奴隷に数年間精霊術を習っていた私や私の兄弟たちは、王族として相応しくないと侯爵は仰るのですね」

「・・・・・・・・・・・・はっ?!」

 呆けたように口を開ける侯爵に、トワは気づかなかったふりをしてさらに続ける。

「貴方が言う奴隷の教師であるセシルは、女王である母上の勧めで私達に、個人教師として精霊術を教えてくれていました。ああ、となると私達に教師として勧めた母上も相応しくないと言えますね」

 視線を合わせず話を進めるトワに、侯爵は表情を変えず裏では冷や汗を流しながらその言葉を聞いていた。

 トワの言葉が本当だとすると、先ほど自分が発した言葉は女王に対する反逆罪にさえとられかねない。

 それを実の息子である王太子の前で言ったのだ。

 どう言いつくろおうかと必死に考える侯爵に、今まで俯いていたトワは顔を上げてニコリと笑って言った。

 

「どうすればよろしいでしょうか?」


 そのトワの表情を見た侯爵は、表情を取り繕うのも忘れて一瞬で顔を青褪めさせた。

 この段階になって、ようやく侯爵も今までの会話がトワの望み通りに進んでいたことが分かったのだ。

 普通であれば、たった十歳にしかならない子供が出来る芸当ではない。

 先程の自分の女王に対する認識が、完全に間違いだと否応なく理解させられたのである。

 そして、これまでの会話も次の自分の言葉を引き出すために行われたという事も。

「あ、ああ。いやいや。先ほどの私の言葉は言いすぎだったようだ。例え奴隷でも教師として、ふさわしい者はいるようだ」

 それを聞いたトワは、子供らしくホッと息を吐いた。

 勿論そんな仕草も今の侯爵にはただの演技だと理解できる。

「そうでしたか。では、侯爵がこちらにいらしたのも何かの間違いと言うわけでしょうか?」

「そうですな。息子との話の行き違いがあったようだ」

 侯爵の言葉に、トワも納得したように頷いた。

 白々しい会話だが、こうしたやり取りも時には必要なのである。

 

 最初の頃の勢いを完全に失った侯爵は、結局そのまま場を後にすることになった。

 さっさとこの場から離れようとする侯爵に、トワが最後に言葉を投げかけた。

「ああ、そうそう。言い忘れましたが、侯爵が余計なことを仰ると、私も母上との会話が弾むかもしれません」

 意訳すると、今回のことを周囲に広めたりすると、女王に今回の件を漏らさず報告するという事になる。

 それを聞いたトワを見る侯爵の目は、完全に子供を見るような物ではなかった。

 侯爵はそれに対しては何も言わず、トワに一礼を返してその場を立ち去るのであった。

(前書き続き)だが、後悔はしていない!(きりっ)

世の中には、こんな十歳児が一人くらいいてもいいでしょう。


※実はトワがチートもちの転生者という落ちはありません。

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