(8)階層見学後編
続いて一行がやって来たのは第八層だ。
第五層と似た環境であるのと、普段から慣れ親しんでいる狐達が多くいるためだ。
その狐達に会わせたいと考えたのだ。
「おー。狐がいっぱいだ!」
そんな狐達に一番反応したのは、フローリアの次男のリクだった。
考助に気付いて寄って来た狐達に向かって喜んで突進していく。
勿論、驚いた狐達は近寄って来たリクから一斉に離れて行く。
「うー! 逃げるなよ!」
悔しそうに地団太を踏むリクに、考助は笑いながら助言をした。
「ははは。いくらなんでも突然向かってきたらびっくりするだろう? しゃがみながら近寄ってくるのを待ってごらん」
その考助の言葉に、リクだけではなく他の子ども達もしゃがみ始めた。
普段から狐達が傍にいるので、恐れなどは全くないようだった。
ちなみに、普段子育てをしている狐達は、人化したまま遠巻きに見ていて手助けをする様子は見せていない。
狐達の間にもルールがあるのか、あるいは別に意味があるのかは分からない。
今回はワンリも付いてきているが、同じように様子を見ているだけだった。
子供たちがしゃがんだままで、一番小さいルカが飽きてくるのでは、と思い始めたころになって、ようやく狐達の中から子供たちに近づいてくる個体が出て来た。
考助は、狐達が興味津々で様子を見ていたので、放置されることは無いだろうと読んでいたが、ようやくといった感じである。
「ひゃん!」
一番最初に狐と触れ合えたのは、ココロだった。
ココロは、狐が近寄ってきてもジッとしたままだったのだが、その狐がココロの頬をペロンと舐めたのだ。
舌の感触に思わず声を上げたのだが、狐は驚きもせずそのままココロの頬をペロペロと舐め続けた。
「くすぐったいよ~」
ココロはくすぐったそうにしながら狐の首筋を撫で始めた。
普段から子育て役の狐が傍にいるので、何処を撫でたら嫌がるのかは習得済みだ。
勿論、撫でて喜ぶポイントと嫌がるポイントに個体差があることは理解している。
赤ん坊のころからの経験が生きているようだった。
最初の狐の前例が出来ると、後はあっという間だった。
元々ここにいる狐達は、子供たちに興味があって残っているのだ。
特に危険(?)が無いとわかると、すぐさま残りの子供たちの元へと寄って行く。
すぐに子供たちのはしゃぎ声が上がることになるのであった。
そんな子供たちの様子を見つつ、考助は隣に近寄って来たワンリに話しかけた。
「この分なら大丈夫かな?」
「うん。皆も安心しているみたい」
ここに子供たちを連れて来たのは、眷属たちが考助の子供にどういう反応を示すかを知りたかったためだ。
人化できる狐達が喜び勇んで考助の子供を子育てしてきたためにさほど心配はしていなかったが、それでも人化できない眷属たちがどういう反応を示すかは分からない。
もし何かの用事で眷属たちがいる階層に来ることがあっても、いきなり襲われることはないだろう。
「ちゃんと僕の子供だってわかってるの?」
「勿論。匂いとかでね」
考助の血縁だと分かっていても絶対に襲われないという保証は無かったのだが、この様子を見る限りでは大丈夫そうだ。
今いる狐達がいれば、子供たちも敵ではないと他の今来ていない狐達にも理解させることが出来るのだ。
「この分だと、他の階層の狐達も大丈夫かな?」
「もし子供たちだけで行くことがあれば、私達がついて行くから大丈夫だよ」
「そうか。それなら安心だ」
ワンリの言葉に、考助も安心したように頷くのであった。
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ひとしきり子供たちにモフモフさせた後は、別の階層へ移動した。
次は狼達のいる階層だ。
ナナがいれば狼達が畏まって(?)しまうので、今度はわざと一緒には付いてきていない。
別の階層で待機してもらっている。
その工作が功を奏したのか、第七層である事件が起こった。
「・・・・・・おお?!」
偶々考助の隣にいたフローリアが驚きの声を上げた。
フローリアの視線の先には、一匹の狼をモフッているリクの姿があった。
微笑ましい光景だが、フローリアがそこまで感激している理由が分からずに、考助は首を傾げた。
見ると、他のメンバー達も一様に驚いている。
「そこまで驚くこと?」
狐達の反応を見れば、狼達も子供たちに懐くことはある程度予想できたはずだ。
だが、フローリアたちは思った以上に驚いている。
しかも、他の子供たちもリクと同じようにモフッているのだが、驚いているのはリクに対してだけだった。
そんな考助に、フローリアは首を左右に振った。
「やはり気づいていなかったのだな」
「? 何に?」
「狼たちは、考助が許した者達にある程度までは懐いてくれるが、ある境界線を超えることは絶対に許さないんだよ」
フローリアの言葉に、ピーチが説明を追加して来た。
「具体的に言うと、私達にお腹を見せて撫でさせてはくれないんですよ~」
「え!? そうなの?!」
普段からナナのお腹を撫でまくっている考助は、全くそんなことに気付いていなかった。
だが、一匹の狼がリクに対してお腹を見せて甘えまくっているのを見ると、疑わしげな目になった。
「・・・・・・どう見てもお腹を見せて甘えまくってるように見えるんだけど?」
「だから驚いているのだ。現に、他の子達の狼達はお腹を見せることはしていないだろう?」
そう言いつつフローリアは、リク以外の子供たちにも視線を向けた。
フローリアの言う通り、リクが撫でている狼以外は頭や体を好きに撫でさせているが、お腹まで見せている狼はいなかった。
ついでに記憶をたどってみるが、ナナをはじめとして狼の眷属たちが女性陣にお腹を見せて甘えているところを見たことは無かった。
「言われてみれば、確かに・・・・・・」
「だろう? だから皆が驚いているのだ」
フローリアの言葉に、周りにいた女性陣が頷いている。
「リクは持っているかもしれないわね。まあ、子供の事だからすぐに他に興味を移すかもしれないけど」
「持っている? 何を?」
「勿論、テイマーとしての力よ」
コレットがそう言って、視線をリクへと合わせた。
釣られて考助もリクへと視線を向ける。
「まあ、それだけで断言はできないし、今言った通り子供だからまだ確固たる力としては定まっていないでしょうけどね」
「そうなのか」
「もし本気で知りたいのであれば、神々にでも聞いてみれば?」
「いや、しないからね」
コレットがからかうような表情になっているのを見て、顔をしかめる考助。
神の力で人の未来を決めてしまう事を考助が嫌っている事を知っていてからかったのだ。
考助としても、からかわれているのがわかっているので、本気になどしない。
「まあ、先の事はともかく、今はリクも楽しんでいるのだからいいのではないか?」
楽しそうに狼をモフッているリクを目を細めつつ眺めながらフローリアがそう結論付けるのであった。
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その後は、ミアの要望に従って色々な階層を訪問した。
どんな眷属がいるのかを他に漏らさないためにも、眷属たちの階層に訪れたのは狼と狐がいる階層だけにしてある。
その二種類だけなら、テイマーが普通に連れている種族なので話が広まっても大した影響はないと考えたのだ。
当然ながら、何が起こってもおかしくはない上級モンスターが出る階層には行っていない。
もし行くことがあるとすれば、子供たちが十分に成長してからと前もって決めていたのだ。
子供たちは、普通は見ることの出来ない色々な環境を見て回ったためか、十分にはしゃぎまわっていた。
管理層へと戻って来た子供たちはそのためか、すぐにお昼寝タイムへと突入した。
もっとも、時間的にはお昼寝と言っても夕方近かったのだが。
いろんな階層を見たいと言っていたミアは、どんな夢をみているのか満面の笑みを浮かべて幸せそうに寝入っていたのであった。
とうわけで、子供たちの階層見学でした。
そろそろ色々と役割分担が決まってきそうですね。




