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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 スミット王国

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(8)現人神

 神殿の中はガランとしていた。
 一般の参拝客が全くいないので、わざわざ人払いをしているらしい。
 不思議に思って周りを見回したクリストフに、リリカが補足してくれた。
「今日はコウスケ様がいらしておりますので、入殿をお断りしていましたから」
 お断りするといっても、扉の前にお断りの立札を立てて鍵をかけていただけだ。
 この神殿が建ってから初めての事態に、しばらくの間は人が集まっていたがそれもすぐに収まった。
 逆に普段が神職によって管理されていないために、そういう事もあるのかと思われたのだ。
 もっともその辺の事は、お客様であるクリストフ達にとっては関係ない事情なのだが。

 一行は、美貌の巫女に案内されながら神殿の奥へと向かう。
「こちらの部屋に現人神がいらっしゃいます」
 シルヴィアがあるドアの前に立ってそう言った。
 普通の神殿であれば神殿長などが使う部屋に当たるのだが、この神殿においては普段使われることはない。
 この辺りの清掃をしているのは、クラウンで雇った奴隷たちだ。
 といってもクリストフたちにとっては、こういう機会でも無い限りまず訪れることがないので知ることは無いだろう。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 扉を開けて入った部屋には、昨日もあったコウという者が待っていた。
 すぐ傍にはフローリア女王ともう一人の女性が立っていた。
 しかももう一人の女性は、シルヴィア以上の美貌の持ち主だった。
 ただ、そこまで行くと触れてはならないような美術品でも見ているような感覚になってくるのだ。
 その主であるはずの現人神は、立ってクリストフ達を出迎えていた。
 そうしていると、ごく普通のどこにでもいそうな人間にしか見えない。
 一見しただけで、神の一柱であると言われて信じる者はいないだろう。

「ようこそお待ちしていました。突然お呼び立てして申し訳ありません」
 現人神から飛び出して来た言葉に、クリストフ達は戸惑った。
 思わず案内して来たシルヴィアやリリカを見てしまった。
 クリストフ達の態度に意味することに気付いたシルヴィアは、肩をすくめて答えた。
「こういう方なのですわ。慣れてください・・・・・・とは言いませんが、この場ではこう言うものだと思ってください」
 シルヴィアの言葉に、クリストフはコクコクと頷いた。
 彼らが戸惑ったのも無理はない。
 本来であれば、神が今の考助のような物言いをすることはほとんどないのだ・・・・・・と思われている。
 考助が知る実際の女神達は気さくな性格なのだが。

 そんな彼らにようやく気付いた様子に一瞬困ったような表情になった現人神だったが、座るように促して来た。
 普段使われない部屋なのだが、しっかりと応接用のソファーやテーブルは用意されている。
 シルヴィアが神殿で対応しないといけなくなった時用に用意してあるのだ。
 クリストフは勧められるままに、ソファーに腰を下ろした。
「それで、もう一度クトゥールを振る舞ってほしいという事でしたが・・・・・・」
 クリストフがそう切り出すと、現人神は嬉しそうな表情に変わった。
「ええ。そうなんです。あの時は満足な道具も用意できていなかったですよね?」
 現人神の言葉に、クリストフは思わず目を瞬いた。
 確かに言う通り、ラゼクアマミヤの王城でクトゥールを振る舞ったときは専用の道具が無かったので、他のもので代用していた。
 今回は、イエズに神託が届いた際に申し訳程度にもう一度クトゥールを飲みたいと申し出があったので、きちんと道具も用意してきていた。

「お湯の用意はありますか? 私が入れようと思います」
 クリストフがそう申し出ると、現人神が驚いたような表情になった。
「王太子自らですか?!」
「ええ。クトゥールは我が国の特産品ですからね。王族であれば誰でもクトゥールが入れられるように教育されるのですよ」
 クリストフがそう言ったが、これは誇張でもなんでもなく事実だ。
 現に、国内の有力者を招く茶会などでは、国王自らクトゥールを入れることなど珍しいことではない。
 感心するような表情になった現人神は、じっとクトゥールを入れるクリストフを見て来た。
 流石に見て言いるのが現人神であるので多少の緊張はしたが、上級貴族相手に入れることも珍しくないクリストフは染みついた動作でクトゥールを入れた。
 出来上がったクトゥールをすぐに現人神へと差し出した。
 受け取った現人神は、目を閉じて味を堪能するようにクトゥールを口にした。

 一口飲んでホッと息を吐き出した現人神が、嬉しそうな表情になった。
「うん。やっぱり懐かしい味ですね」
「懐かしい、ですか」
「ええ。まあ、御存じの通り元人間の私にも色々過去がありますからね」
 少し恥ずかしそうな表情で現人神がそう言った。
 その過去に付いて聞くような無作法な真似は当然クリストフも犯すつもりはない。
「そうでしたか。我々としては、クトゥールを楽しんでいただければ幸いです」
「勿論です」

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 しばらくクトゥールの味と話を楽しんでいた現人神だったが、唐突に話をしてきた。
「ところで、今後の対応はどうしますか?」
 突然の質問に、クリストフは首を傾げた。
 いくらなんでもクトゥールを楽しむだけで呼んだとは思っていなかったが、いきなり今後の対応と言われても分からなかったのだ。
「今後の対応、ですか?」
「ええ。クトゥールに関して、僕が宣伝をしていくのか、それとも今まで通りで行くのか、ですよ」
 現人神が面白そうな表情でクリストフを見て来た。
 それを見てクリストフもすぐに自分が試されているのがわかった。
 普段から海千山千の貴族たちを相手にしているクリストフからすれば、分かりやすい表情だったといえる。
 勿論、わざと見せているという可能性もあるのだが。

 是非とも宣伝してください、といおうとしたクリストフだったが、その言葉を口に乗せることはしなかった。
 実際に現人神がクトゥールを宣伝すれば、爆発的に人気が出るだろう。
 だが、その分反動もすごいことになることは容易に想像できる。
 簡単に言えば、他のライバル商品になりそうな飲み物からの妬みなどだ。
 もっとも、そう言ったことは商売的にはいくらでもあり得ることなので、いくらでも受けて立つことは出来る。
 だが、もう一つ大きな問題がある。
 それは、現人神はこの世界に存在していながら、なるべく人の世とはかかわりにならないようにしているという噂だ。
 この噂が事実であれば、クリストフの答え次第でその原則(?)が崩れてしまうことになる。
 そんな危険を犯すつもりはない。
 何より王太子である自分は、そこまでの大きな決断が出来るほどの権限を持っていないのだ。
 場合によっては、国を傾けてしまう可能性さえあるのだから。

 そんなことを少しの間で考えたクリストフは、笑顔になって首を振った。
「貴方様に喜んで飲んでいただいている。そのことだけで十分ですよ」
「そうですか。それでは、フローリア女王を通して道具一式を頼むことになると思いますが、その時はよろしくお願いします」
「かしこまりました」
 通常の取引であれば、拒否する理由は少しもない。
 クリストフは、快く頷くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「何というか・・・・・・普通でしたね」
 会談を終えて大使館に戻ってからレメショフがそう感想を漏らした。
「そうだな。・・・・・・だが、あの方は紛れもなく現人神だ。例え普段の様子がごく普通の一般の者に見えようとな」
 クリストフの感想に、レメショフは首を傾げていた。
 どうにもごく普通のヒューマンという印象がぬぐえないようだ。
 だが、その印象を優先して今後普通の一般人として対応されては国家の存亡にかかわりかねないので、一応釘をさしておくことにした。
「名前は聞かなかったが、現人神の傍にいた美しい女性がいただろう?」
「ああ、いましたね」
「あれは恐らく代弁者だ」
「なっ・・・・・・!?」
 レメショフが思わずと言った感じでイエズを見た。
「流石の慧眼です」
 イエズもクリストフの言葉に同意するように頷いた。
 対面中のイエズは、冷や汗を流しっぱなしだった。
 わざとなのだろうが、クリストフが代弁者と言った美女から計り知れないほどの力を感じ取っていたためだ。
「あれだけの者を従えてなお普通の態度で居続けられる。・・・・・・とてもではないが只人であるなどとは口が裂けても言えないな」
 クリストフの言葉にレメショフはゴクリを喉を鳴らした。
「まあ、心配しなくともそうそう対面することなどないだろうさ」
「そうですよね」
 あからさまにホッとした空気になるレメショフに、クリストフはフッと笑うでのであった。
これでスミット王国編は終わりになります。
外の国から見たラゼクアマミヤの様子と、お茶の話を書きたかっただけなのに、ここまで長くなってしまいましたw
まあ、番外編という事でたまにはこういうのもいいのではないかと思います。
次は緑茶を手に入れた考助の反応でも書きます。
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