(6)クトゥール
クトゥールの準備は、クリストフが連れて来た補佐役が行うことになった。
入れ終わるのを待つ間は、ラゼクアマミヤの高官たちと実務的な話し合いになる。
といってもスミット国側で来ている主なメンバーが、クリストフとレメショフだけなので今までの内容と大きな変更があるわけではない。
今回話し合った主な内容は、レメショフが貰ったカードについての扱いについてだ。
それに関しても、今までの話し合いでほとんど決まっている内容なので、今回はほとんどが確認だけで終わった。
そんなことを話しているうちに、クトゥールの準備が終わった。
本当であればクトゥール専用の道具があるのだが、残念ながら道具までは用意していなかったので別の物で代用して入れたと前置きをしてからクトゥールを振る舞った。
専用の道具でない分、味が多少落ちているが、それでも十分美味しいといえる出来だった。
「うーん。これこれ! ・・・・・・やっぱりいいなあ」
クトゥールをみて驚いていたコウという者が、嬉しそうな表情で飲んでいた。
それだけで、クトゥールを飲みなれているのがわかる。
現に、ラゼクアマミヤの他のメンバーは微妙な表情になっていた。
これがクトゥールを初めて飲んだ時の顔だというのはわかっているので、すぐにクリストフがフォローを入れようとした。
ところが、先にコウが笑いながら的確なフォローを入れた。
「アハハ。最初は飲みなれてないと渋く感じるかもね」
コウの言葉に、フローリア女王が頷いた。
「・・・・・・渋いと思うんだが、これは薬なのか?」
「うーん。薬として飲んでたところもあると思うんだけど、どうなんでしょうか?」
コウが首を傾げつつ、クリストフの方を見た。
話を振られたクリストフは、同意するように一つ頷いた。
「そうですね。我々の国では通常の飲料として飲まれていますが、他の国では薬湯の扱いになっている所もあります」
「なるほどな」
フローリア女王が相槌を打ちつつ、もう一度クトゥールを口にした。
初めて口にしたときよりは慣れているようだったが、やはりその渋味には首を傾げているようだった。
「場合によっては、砂糖などを入れて味の調整をする者もいます。・・・・・・我々はそのまま飲みますが」
クリストフの追加の情報に、コウも同意するように頷いた。
「飲みなれると砂糖とか入れるのは変な感じがしますからねえ。でもどうしても渋味が駄目と言う人もいますから、そういう人は入れるというのも聞いたことがあります」
「なるほど」
もう一度味を確かめるようにクトゥールを飲んだフローリアは、ニコリと笑って話を続けた。
「まあ、私はともかく、こちらのコウが気に入ったようなので、取引してもらえるかな?」
「それは勿論。喜んで」
思わぬ申し出に、クリストフは笑顔になってフローリア女王にそう返すのであった。
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クトゥールの取引をすると言っても、大口の取引ではなく王家で買取を行ってコウに渡すという事になった。
予想通りと言えば予想通りなのだが、コウと言う者以外には、クトゥールの味は受け入れられなかったらしい。
逆にコウという者が、あれだけ慣れた感じで飲んでいるのが不思議だった。
とはいえ、大陸が変われば自分たちと似たような飲食物もあったりするので、さほど不思議には思わずにあっさりと話し合いは終わった。
そして現在クリストフは、レメショフと共に先ほどまでの話し合いの要点をまとめていた。
これからレメショフは、大使館に常駐することになる。
突然の呼び出しなどがあった場合に、どういった対処をするのか詰めておく必要があるのだ。
勿論、こちらに来る前に決めているので、大幅に変わることは無いのだが、それでも細かいところで調整が必要になる者はいくらでもあるのだ。
「・・・・・・では、この場合は国に確認を取るという事でよろしいでしょうか?」
「ああ。そうだな」
大体の作業を終えたところで、クリストフとレメショフは一息つくことにした。
そのタイミングを待っていたのか、傍に控えていた補佐役がクリストフに話しかけて来た。
「クリストフ様、よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「イエズが、話したいことがあると別室でお待ちです」
「イエズが?」
イエズと言うのは、今回の訪問団に同行している神官だ。
こうした訪問団には大抵一人は神官や巫女が付いてくるのものなのだ。
だが、その神官が何の話があるのかは分からない。
本日の話し合いでも特に信仰に関わるような内容は無かったはずだ。
「分かった。すぐ行こう」
首を傾げつつ、クリストフはイエズの元へと向かった。
イエズの顔を見た瞬間、クリストフは何かあったと察して表情を引き締めた。
「どうした? 何があった?」
「・・・・・・報告するかどうか迷ったんですが、言っておいた方が良いかと思いまして報告することにしました」
その前置きに、クリストフは訝しげな表情になった。
イエズはあくまでも神官なので、クリストフに対する報告義務はない。
だが、教会に所属する神官とは言っても、教会自体が国と繋がっていることは往々にしてあることなのだ。
スミット国もその例に当てはまっている。
「なんだ?」
「あのコウと言う者ですが・・・・・・」
「うむ」
「・・・・・・恐らく神です」
イエズがその言葉を発してからしばらく間が空いた。
「・・・・・・・・・・・・何?」
「神だと言ったのです。アマミヤの塔の管理者は現人神と言う話なので、恐らく現人神ではないかと」
イエズの報告に、クリストフが固まった。
確かにアマミヤの塔を攻略した者は現人神だという話だった。
だが、その現人神は話に出てくるだけで、本人(神?)が出てくるという事は聞いたことが無かった。
塔の中に町が出来た当初や塔が攻略された当初は姿を見せていたという話もあるが、現在ではそう言った話は皆無になっているのだ。
「なぜ、わかった?」
「一瞬ですが、神威を感じました」
イエズは真面目に修行をしている神官で、神の気配である神威を感じ取ることが出来たらしい。
そう言ったことに関しては、クリストフは全くの素人なのでイエズの感覚を信じるしかない。
「・・・・・・どうされますか?」
「どうすると言われてもな・・・・・・向こうから接触して来たならともかく、そうでないのなら放っておくしかあるまい?」
下手に突くと逆に大きな騒動になり兼ねない。
向こうが正体を隠して「コウ」として接触して来た以上、不用意にこちらから藪をつつくつもりはない。
「そうですか」
「くれぐれも余計な真似はするなよ?」
「承知しました」
クリストフの念押しに、イエズは丁寧に頭を下げた。
神官の中には、自分の出世を願って暴走する者もいるが、イエズはそう言った点ではある程度信用できる。
それくらいの付き合いはあるのだ。
「それにしても神か。ある意味で納得できるな」
独り言に近いクリストフの呟きだったが、イエズは聞き逃さなかった。
「クトゥール、ですか?」
「ああ。我が国以外に生産している所があるとは聞いたことが無かったんだが、神域とかであればあり得るだろう?」
「では、クトゥールは神の飲み物ですか?」
イエズがわずかに笑ってそう言った。
「どうだかな。もしそうであるなら是非とも宣伝してほしいものだ」
イエズの冗談に、クリストフは肩をすくめてそう答えた。
勿論、神が人のために動くことなどほとんどないという事が分かった上での返答である。
「ともあれ、あの者が本当に神であるかどうかは置いとくとして、あの者からクトゥールが広まってくれればいいが、な」
出来ることならクトゥールを産業として広めたいクリストフは、わずかな願いを込めてそう言うのであった。
考助は緑茶を手に入れた!
作者はやってみようとは思わないんですが、緑茶に砂糖を入れるのはどうでしょうね?w




