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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その4)
382/1358

(2)サキ

 第八層にある百合之神社の傍で、サキが短剣を持って素振りをしていた。

 奴隷であるサキが塔にある神社の管理要員として来てから既に四年近い歳月が流れている。

 来た当初は十二才だったのだが、現在十五才、もう少しで十六才になろうとしていた。

 体つきも含めて完全に大人の女性として一歩踏み込もうという雰囲気を漂わせている。

 そんなサキが短剣で素振りをするようになってから、三年近くなる。

 ある事件が起こってから自分から申し出て剣を習い始めたのだ。

 その事件というのは、サキを含めた三人組が休暇を利用して第五層を訪れた際に、彼女たちの持つカードを狙って襲われたのだ。

 サキたちが仕事に慣れてからある程度時間が過ぎてから、決められた範囲の転移門を自由に使えるというカードを渡された。

 そのカードを使ってサキたちはある程度自由に第五層に出入りしていたのだ。

 ところが、その頻度が多くなれば、当然それに目を付ける者が出てくる。

 本来であれば、ヴァンパイア達が出入りしているような特別な転移門を使って出入りすればよかったのだが、サキたちは敢えて普通の冒険者たちが利用している転移門を使っていた。

 特別な転移門を使って、特別視されることを嫌ったのだ。

 だが、それが逆に仇となった。

 勿論、考助達はそのことで問題が出ることは懸念していたが、敢えてサキたちには伝えなかった。

 これに関しては、本人たちが気づかないと意味がないと考えたのだ。

 その隙を突くように、事件が起こったのである。

 幸いにして大事には至らなかったが、本人たちはその時にようやく自分たちが持っているカードが大切な物だと気付いた。

 そのためサキは自らの身を守ることを含めて強くなることを望んだのである。

 ちなみに、カード自体はサキたち以外には使えないように細工がされている為、実際に取られたとしてもほとんど実害は無い。

 事件が起こってからそのことも伝えられてはいたが、だからといって弱いままでいいとはサキは考えなかったのだ。

 

「頑張っているわね~」

 サキの様子を見に来たのか、ピーチが話しかけて来た。

 ピーチはサキの短剣、というよりも戦闘全般に関する師匠だ。

 サキが戦闘を教わるときに手が空いていたのがピーチだけだったために、ピーチが教えることになったのだ。

 魔法に適性があったミキはシュレインに教わっている。

「あ、ピーチ先生!」

 ピーチが来たことに気付いてサキは笑顔を見せた。

 最初は師匠と呼んでいたのだが、ピーチが師匠と呼ばれるのを嫌がったのでサキはピーチの事を「ピーチ先生」と呼んでいる。

 ピーチも考助の旅に付き合ったりして中々時間が取れないのだが、暇を見つけてはサキの事を気にかけて顔を見せていた。

「腕を上げたかな~?」

「どうでしょう? 相手がいないからよくわかりません」

 第八層で生活していると、自分以外に剣を扱える者がほとんど来ないために自分が腕を上げたかどうかはよくわからない。

 たまにミツキなどが相手をしてくれているが、全く追いついている気がしないため自分の腕が上がったという実感は全くわかない。

 神社の周辺に出てくるモンスターを相手にする以外は、基本的に素振りだけをやっているので自分の実力もよくわかっていないのだ。

「そうね~。それじゃあ、久しぶりに私が相手をしましょうか」

「はい!!」

 懐から同じような短剣を取り出したピーチに、サキは元気に返事をするのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「うあー。ただいまー」

 ヘロヘロといった様子で、サキは百合之神社へと戻って来た。

 ピーチとの模擬戦で限界まで動いたのだ。

 実はピーチが終了を告げた直後は、全く動けなくなってパタリとその場に倒れてしまっていた。

 ようやく動けるようになって、神社まで戻って来たのだ。

 すぐ傍で見ていたピーチがケロリとしているのを見て、まだまだ駄目だと実感させられてしまった。

「お帰りなさい~」

 疲労困憊しているサキをエリが出迎えた。

 エリは、サキやミキと違って戦闘を教わったりはしていない。

 性格的に無理だと自分自身も分かっていたので、代わりに料理を何とミツキから教わっている。

 どういうわけか、ミツキもエリに教えを請われた際に、それを快諾していた。

 何か感じるものがあったのかもしれない。

 不思議に思った考助が一度だけ聞いたことがあるのだが、笑顔だけみせて明確な答えは返ってこなかった。

 それ以降は誰も聞こうとはしなかったので、何故ミツキがエリに料理を教える気になったかは誰にも分からないままである。

 とにかくミツキに料理を教わるようになったエリは、その腕をメキメキと上げていった。

 結果として、サキやミキはいつも美味しい食事を食べることができる。

 ただし、新しい料理に挑戦したと実験台に使われることも多々あるのだが。

 

「何かあったの?」

 ヘロヘロのサキの様子に、エリが首を傾げている。

「先生と会って模擬戦やった」

 エリは、それだけで何があったのか理解した。

「あらあら。あなたもなのね」

「・・・・・・も? ということは?」

「ミキもさっきまでシュレインさんにしごかれていたわよ。今は共通スペースでグロッキーになっているわ」

 共通スペースというのは、普通の家で言う所の居間のような場所だ。

 私室ではなく三人で遊んだり休んだりする場所をそう呼んでいるのだ。

 ちなみにこの共通スペースは、セシルとアリサも同じように呼んでいたりする。

 

「あら~? じゃあ、シュレインもここにいるの?」

 サキに付いてきていたピーチが首を傾げつつ聞いてきた。

「あ、はい。今は・・・・・・「おや。ピーチも来たのか」」

 共通スペースにいると言おうとしたエリだったが、共通スペースから出て来たシュレインに阻まれた。

「はい~。空き時間が出来たので、サキの様子を見にきました」

「吾も同じだの」

「私がいない間もきちんと訓練しているようで安心しました~」

「それも同じだの」

 穏やかに会話を続ける二人に、サキが多少ふくれていた。

「訓練はしているけど、全然上達しているとは思えないんだけど」

 これは完全にサキの誤解だ。

 周りにいるのがピーチを筆頭にして、基準のおかしい者達ばかりなのでサキの感覚が可笑しくなっているのである。

 ついでに、共通スペースでグロッキーになっているミキも同じような誤解をしている。

 冒険者として活動でもしていれば周りのレベルで必然的に自分のレベルがわかるのだが、どちらかと言えば自衛のために剣術や魔法を覚えているサキやミキは他の場所で剣や魔法を使う機会がないのだ。

 以前、セシルやアリサと同じように冒険者となるか確認したこともあるのだが、本人たちはそれを拒否した。

 あくまでも本業(?)は神殿の管理だと割り切っているのである。

 

 では、現在のサキやミキのレベルがどれくらいかというと、そろそろ中級冒険者レベルになれるかどうかと言った所だ。

 もっとも、冒険者として活動するためにはある程度の経験も必要になるので、セシルやアリサの時のようにとんとん拍子でランクアップは出来ないとピーチは見ている。

 そう言う意味では、セシルやアリサがいかに規格外だったかがよくわかるだろう。

 二人の場合はユリという特殊な存在の力添えがあったことも大きいのだが。

 とてもではないがそんなレベルにはなれるとは考えていないサキは、端から冒険者として有名になろうとは考えていないのであった。

お久しぶりのサキの登場です。

ミキも出そうと思っていたのですが、名前だけの登場になってしまいました><

セシルとアリサはどうしましょうか。

特にやっていることは変わっていないので、敢えて出す必要もないと思うのですが・・・・・・。

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