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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2部 塔のあれこれ(その4)

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(3)本作り

祝! 一周年!!
 そういえば文字を覚えたのはいつだっただろうか、と作業中のはずのセシルはどうでもいいことを考えていた。
 作業が丁度ひと段落して、少しだけホッとした時に余計な考えが思い浮かんだのだ。
 奴隷商館にいた時には自分の名前が書ける程度の知識は与えられた。
 基本的に女の奴隷の仕事は、内勤に当たることが多い。
 そのため多少でも文字を覚えていないと引き取り手がいないために、ある程度までは覚えさせられたのだ。
 そのままクラウンに雇われることになり、受付として働くようになり業務に支障がない程度の文字は覚えることが出来た。
 ただし、その努力は神殿の管理という役目を与えられたことによって、一旦は不要な物になってしまった。
 神殿の管理と言っても基本的には掃除がメインなので、書くべき書類もほとんどない。
 あえて言うなら衣食住に使うための帳簿の管理くらいだった。
 その後は、何の因果か精霊術に適性があることがわかり、冒険者と活動することになったことによって、益々文字を使う職からはしばらく離れていた。
 下手をすればこのまま文字と関わりのない生活になるのかとも思われたのだが、さらに変化が訪れた。
 何かの気まぐれを起こしたのか、ある日突然考助がやって来て精霊術に関わる本を書いてみないかと言って来たのだ。
 本などほとんど関わることが無かったセシルは当然断った。
 同じく傍にいたアリサは、それ以上に拒否をしていた。
 一冊のまとまった本となると、それなり以上の高価な価値がある。
 紙そのものが高い物であるのだから当然だ。
 ところがそんな思いを余所に、考助は「大丈夫大丈夫。二人が誰かに精霊術を教える立場になって書いてもらえればいいから」とあっさりと言い放った。
 きっちりとアリサと二人で断ったはずだったが、考助が去った後には大量の紙とインクとペンが残されていた。
 セシルから見た考助は、普段は押しが強くないのにいざとなると強引に物事を進めることがある。
 今回はその典型であった。
 残された道具を見てアリサと二人で顔を見合わせた時には、既に諦めた表情になっていた。
 おそらく自分も似たり寄ったりの顔になっていただろう。
 強引な所がある考助だが、結果が駄目だったとしてもまずは試してみるというのを基本に動いている。
 流石に三年以上の付き合いになるとその程度の事は分かってくる。
 例え二人が挑戦して失敗しても笑って許してくれるだろう。
 そんなことを考えて、二人でため息を吐くのであった。

 セシルが今行っていた作業と言うのは、その注文があった本の作成だ。
 いきなり高価な紙に書くのはためらわれたので、何度もアリサと話し合ってどういうふうに書くかを決めて行った。
 書く内容もある程度決まり、二人で分担して書き始めた時にはひと月が過ぎていた。
 時間がかかりすぎだと思わないでもないが、初めて作業のために色々戸惑ったのだ。
 そういった紆余曲折があって、ようやく文章を書くことに慣れはじめたころには、既に本も形になりつつあった。
 流石にそこまで来ると、不安よりも喜びの方が大きくなってくる。
 自分で書き上げた物が、本という形となって見えるのだからある意味当然だろう。
 そして今、セシルとアリサは書き上げた本の最終チェックを行っているのである。

「・・・・・・ふー」
 セシルの眼の前でチェック作業をしていたアリサが、大きなため息を吐いた。
 いまアリサがチェックしているのは、セシルが書いた部分になる。
「どうだった?」
「うん。一通り見終わったけど、問題ないかったよ。そっちはどう?」
「え? もう見終わったの? ごめん、私はもう少しあるからちょっと待ってて」
「分かったよ」
 どうやらぼんやりと考え事をしている間に、相方はさっさと作業を終わらせてしまったらしい。
 余り待たせるのも悪いので、セシルは作業に戻るのであった。

「・・・・・・どう?」
 セシルが紙の束から目を上げたのを見て、作業を終えたのを察したアリサが聞いてきた。
「問題ないわね」
「そう」
 二人で頷きつつ複雑な感情になった。
 ある程度まで完成したという達成感と、これから待っている試練のために緊張もしているのだ。
 その試練と言うのは勿論、書き上げた物を別の者に見てもらう事だ。
 相手は既に決まっている。
 二人に本を書くように言って来た考助もチェックはするのだが、その考助よりも精霊術に対して詳しい者がチェックすることになっているのである。
 それが誰かと言うと、当然ながらコレットだ。
 セシルとアリサにしてみれば、コレットは精霊術の師匠だ。
 そのコレットに書き上げた物を見られるというのは、緊張するなと言う方が無理だろう。

「・・・・・・どうする?」
「どうするも何も・・・・・・持って行くしかないでしょう?」
「そうよね」
 セシルとアリサは二人で同時にため息を吐くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 ユリに頼んで考助に連絡を付けてもらった。
 妖精であるユリは、考助と連絡を取ろうと思えばいつでも取れるのだ。
 勿論不用意にその力を使う事はないが、今回のような場合は別だ。
 その連絡を受けて、すぐに考助が駆けつけて来た。
 当然のように、コレットも付いてきている。

「出来た物はどこ?!」
 既にユリを通して完成度も伝えてあるので、期待している考助が目を輝かせて聞いてきた。
 今更ながらに引っ込みがつかなくなったことを察したセシル。
 諦めて書き上げた物がある場所へと案内した。
「これです」
 一つにまとめた紙の束を素直に考助に差し出した。
「先に読む?」
 渡された考助は、そのまま紙の束をコレットへと向けた。
 だが、コレットは首を左右に振った。
「私は読むのに時間がかかるから後でいいわ。コウスケの方が読むの早いでしょ?」
「それもそうか」
 コレットの言い分に納得した考助は、素直に頷いて渡された紙の束を読み始めた。

 考助はセシルやアリサが驚くほどのスピードでペラペラと紙をめくっていた。
 コレットが考助の方が読むのが早いと言うのも納得できるほどの速さだ。
 もっとも、考助にしてみれば内容を頭に入れているわけではなく、単に文章を読んでいるだけなのでさほど時間がかからないと言うだろう。
 以前にも他のメンバーにそう言ったのだが、それのどこが違いがあるのだと返されたのでそれ以上の反論は諦めた。
 感覚的な物なので、他人に説明するのが難しいのだ。
 それはともかく、考助は紙の束に書かれている物を四時間程度で読んでしまった。
 読み終わった考助は、にっこりと笑ってセシルとアリサに向かって言った。
「うん。良くできてると思うよ。というか、思った以上の出来でびっくりした」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 考助に褒められた二人は、思った以上の高評価に喜ぶよりもまず驚いてしまった。
「まあ、内容が間違っていないかどうかは、コレットがチェックしているから何とも言えないけどね」
 真剣な表情で読んでいるコレットを見て、考助は苦笑をした。
 セシルとアリサも厳しいチェックが入るのはこれからだと気を引き締めるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 結局、コレットはその日のうちに読み切ることは出来ずに、何度かに分けて読みに来ていた。
 当然ながら内容のチェックもされている。
 ただ、大幅に間違っていることが書かれているというわけではなく、ちょっとした言い回しで誤解を受けるのではないかと言った指摘だった。
 全体的にはいい出来だと褒められた。
 流石にその言葉を貰ったときは、苦労が報われたと少しだけ泣きそうになってしまった。

 ちなみに、書き上げることに必死になったセシルとアリサは、この本が後々一般的に公開されると知って青くなるのだが、それはまだ少し先の話である。
セシルとアリサでした。
冒険者家業から離れて何をやらせているんでしょうね?w

最後が「販売」ではなく「公開」となっているのにはきちんと理由があります。
本は高価なので、一般的に広めることは出来ないためです。
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