(5)戦闘開始
斥候が持ち帰った情報を元に作戦が立てられた。
ただし、作戦と言っても基本的に冒険者は商隊の護衛に回り、モンスターの集団に攻撃を加えるのは考助達の役割だ。
ちなみにこの作戦を立てたのは、ガゼランでバートは最後まで反対していた。
それもそうだろう。
本来の実力がわかっていないバートがそんな無茶な作戦に賛成する方が逆に驚く。
ガゼランがその作戦を話したときに、強固に反対してたバートを見た時の考助はそんなことを他人事のように考えていた。
ちなみに、考助はその作戦を聞いてやっぱりな、と思っただけだった。
はっきり言えば、商隊さえなければさっさとつぶしに行っていたかもしれない。
だが、勝手に個別に行動して別個で商隊を襲われるよりは、きちんと作戦に従った方がいいと判断したのだ。
先にリーダー種だけでも討伐しに行こうかという事も考えたのだが、それもやめておいた。
考助達の本来の実力は、既に普通の感覚からは突き抜けている所にいる。
自分達が動けば簡単に氾濫を止めることができるが、それはあまりよくないことだと考えたのだ。
それは、考助自身が国家の頂点に立たなかったのと同じ理由である。
何でもかんでも考助達を頼りにしてしまうと、自分たちがいないときに立ち行かなくなってしまう。
それは避けた方がいいのだ。
ただし、今回のように直接脅威となるものが目の前に現れた場合は別だ。
わざわざ商隊が全滅するのを待つ気はない。
考助達が手を出さなければ、そうなる可能性の方が高いと分かっているのだから、自分たちが出張るのは当然だと思っているのだった。
かと言って、全てを商隊のメンバーが知らないうちに片づけてしまうのも間違っている。
結果として、モンスター達がこの商隊を襲うのが確定した段階で、考助達が動くことになったのである。
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作戦自体は簡単だ。
モンスター達が動くのを待って迎撃する。それだけだ。
勿論細かい話で、どのタイミングで考助達が動くとかはあるが、冒険者たちは今いる場所を動かずに待つという事になっている。
作戦立案の時に、商人たちからは北の街を目指した方が良いのではないかという意見も出たが、すぐさま却下された。
理由は単純で、背後を狙われる可能性があるためだ。
そうなった場合は、いくら考助達でも犠牲もなしに守りきるのは難しい。
考助達がモンスターを討伐すると言ってもどうしたって漏れは出てくる。
冒険者達はその漏れたモンスターを処理する役目なのだ。
北の街に近づけば、北の街からの増援と合流できるのではという話も出たが、それも先ほどの理由と同じで却下された。
合流できればいいのだが、ことはそう簡単ではない。
何しろ、合流する前にモンスター達が襲ってきた場合は、先ほども言ったように背後を襲われてしまうのだから。
バートが「誘い込まれた」と言ったのには、そう言った意味もあるのだ。
結果として、考助達がモンスターを討伐、護衛の冒険者は商隊の守りをメインにして漏れて来たモンスターを討伐するという事になったのである。
その考助達は、商隊から少し離れた場所に陣取っていた。
商隊が現在拠点を置いている場所は、平原になっている。
対してモンスター達がいる場所は森になっているのだが、考助達はその平原と森の丁度境目あたりにいるのだ。
基本的に森から出て来たモンスターを叩くつもりなのだ。
大きな魔法を使うつもりなので、他の冒険者がいると巻き込んでしまう可能性があるためだ。
更に、理由がもう一つある。
「ここで待ち構えるのですか?」
考助達と共に、レイラが付いてきているのだ。
バート自身は護衛隊の指揮で忙しい。
だが、考助達の実力を掴み切れていないバートが、御目付け役(?)としてレイラを付けることを条件にしたのだ。
彼女自身もかなりの実力者なので邪魔になるとは言わないが、彼女一人が増えたところで大した変りがないという事も事実だ。
要するに、この機会に考助達の実力を見定めようという意図が丸見えだった。
バートもレイラもそれを隠すつもりはないのか、あけすけな態度を見せている。
考助としてもこうなった以上は、特に隠すつもりはないので気にしてはいないのだが。
「まあ、そうですね。大量のモンスターを森の中で相手するのは骨が折れますから。ある程度平地に出るまで待ちます」
「そう」
レイラも特に反対するつもりはないのか、素直に頷いた。
完全に任せているのか、それとも試しているのかは微妙な所だが。
考助達が陣取ってから数時間後。
「・・・・・・来たか」
既に森は静まり返っている。
嵐の前の何とやら、と言う状態だった。
今回偵察で分かっているのは、二百という数のモンスターだった。
氾濫の例に洩れず、複数種類のモンスターが確認されている。
そのモンスター達が、商隊に向かって押し寄せてくるのがはっきりと分かった。
「それじゃあお願いね」
考助が、傍にいたコレットとピーチに声を掛けた。
「わかったわ」
「はいは~い」
「ナナも頼むよ」
「ワフ」
考助がナナに話しかけて首筋を撫でると、ナナは尻尾を一振りしてから森へと入って行った。
ちなみにナナは、神獣モードにはなっていない。
目立ちすぎるというのもあるが、ナナが本気を出すとモンスター自体が逃げ出しかねないためだ。
リーダー種に統率されているとはいえ、確実に格上のナナが実力を出すとモンスター達がその統率から外れるかもしれない。
それはそれで厄介なことになり兼ねないのだ。
そして、考助達に付いてきているレイラは、戦闘開始と同時にあり得ない光景を目撃することになる。
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「リーダー、来たぜ!」
森からモンスターの集団が出て来たのを確認した報告が、バートに届けられた。
報告を受けたバートはすぐさま確認に走る。
様子を見ると、確かに森からモンスターの集団が出てきている。
「? あいつらはどうした?」
森からモンスターが出てきているのは見えるが、戦闘が起こっている様子はない。
「まさか、逃げたんじゃ・・・・・・」
傍にいた冒険者の一人がそう呟いた。
それはない、と言おうとしたバートだったが、反論する材料もないため黙ったままだった。
もしそうであるなら、一緒に付いて行ったレイラは処分された可能性もある。
勿論そのことに気付いていたバートだが、立場上その場から離れることは出来なかった。
内心で焦るバートを余所に、状況は変化していく。
森から出たモンスターの数が五十を超えようとしたその瞬間、ドッカーンという爆発音が聞こえて来た。
当然、爆発の様子も見えている。
その様子に、周囲の冒険者たちは唖然とした表情になっていた。
いくら魔法や聖法を使っても今見せられた規模の爆発などお目にかかることなどできない。
それこそ超一流と言われている者であれば別だが。
しかも、それが一度だけではなく、同じようにある程度の数が森から出てくるのを待って二度三度と爆発が続いた。
「・・・・・・嘘だろ?」
隣にいた冒険者がそう呟いた。
立て続けにこれほどの爆発を起こせる者など聞いたことが無い。
先程の超一流と言うのも次の呪文を放つために、ある程度の間隔を空けないといけないのだ。
「なるほどな・・・・・・」
バートは呻くようにして納得の声を上げた。
ガゼランが彼らに任せるわけだと理解できたのだ。
いくらそれだけの規模の爆発が起こせるとはいえ、撃ち漏らしなしに倒せるわけではない。
「森方面からモンスターの集団、二十!!」
すぐに護衛隊でも戦闘が開始されるのであった。
爆発を起こしているのは、コレットの精霊魔法です。
ナナは森の地形を生かして孤軍奮闘しています。
考助とピーチの活躍は次回。




