(12)証拠
レナルド王子が自分の所に近づいてくるのを見たアミディオは、逃げ出したい気持ちに襲われていた。
しかし、足がいう事を聞かず動いてくれない。
周りの護衛達は、そもそも何が起こっているのかさっぱりわかっていないようだった。
そもそも王子の顔を直接見知っている者など、貴族でもない限りはほとんどいないのだ。
今のところ名前が挙がっているのは、筆頭魔法使いのオーケだけである。
その名前は一般にも知られているが、これまた顔を知っている者などほとんどいないだろう。
突然現れた者達が何かを指示して正規軍の戦闘行為が止められた、というのが客観的に見ることが出来る事実である。
その中でも、冒険者たち側のリーダーへの跪きの行為が際立って目立っていたが、周りで見ている者達はまさかそれが王子であるとは思ってもいないだろう。
アミディオが現時点で攻められる点があるとすれば、それらの事実だけなのだが既にそんな気は失せている。
レナルド王子が、一冒険者に対して跪いてみせたあの光景が、それほどまでに衝撃的だったのだ。
「あ、あの。軍が撤収していますが、どうされるんで?」
アミディオの傍にいた私兵の一人がそう聞いてきたが、その言葉は耳に入ってこなかった。
王子たちが近づいてくることで、今後の自分の運命を考えることで手一杯になっているアミディオなのであった。
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レナルド王子は転移魔法で一緒に来た部下を引き連れて、アミディオの所へと向かった。
考助は一緒に付いてきていない。
ここから先は、貴族と王家としての話し合いになる。
税に関しては、王家としては既に結論が出ているのだ。
冒険者の税に関しては、王家が一任をされていて貴族が口を挟む余地はないと。
活動税と言う名の税は、王家としては認めることが出来ないのである。
遂にアミディオの眼前まで来たレナルド王子が口を開いた。
「アミディオ子爵。申し開きはあるか?」
いきなりの詰問に、余裕を失っているアミディオが逆に多少の落ち着きを取り戻した。
たかが一冒険者よりも貴族である自分の言い分を全く聞かないのは無いだろうという思いがそうさせている。
先程の王子が膝をついている光景を見ているはずなのに、そう考えてしまうのは貴族としての矜持がそうさせたのだ。
「も、申し開きとはどういう事ですか? 私は脱税をしようとする冒険者を捕らえようとしただけですが?」
アミディオがそう言った言い訳も確かに間違ってはいない。
何しろ、正規軍を動くことになった命令書の理由がそうなっているのだから。
とっさに出て来た言い訳としては最適のものだろう。
アミディオは、命令書を盾に正当な理由があるという事を主張することにしたのだ。
「脱税・・・・・・ね」
それに対してレナルド王子は、冷笑を返した。
「では聞くが、納めるべき税をきちんと納めている者が、どうやって脱税するのだ?」
その問いにはアミディオとしては、命令書の存在が有利になる。
「その言い分はおかしくはないでしょうか? 税を納めていないからこそ、こうして命令書が出て正規軍が出てくることになっているのでは?」
自分としてはその命令通りに動いているのだ、と通すしかアミディオとしてはレナルド王子の追及を躱す方法はない。
「命令書、か・・・・・・。当然その命令書とやらはあるのだろうな?」
「も、勿論です・・・・・・!」
アミディオは懐へと手を入れた。
そこには、正規軍を動かした命令書が入っている。
まさか使う事になるとは思っていなかったのだが、何かのために持ってきていたのだ。
起死回生の一手になると考えて、慌ててそれを取り出す。
それが罠だとも知らずに。
「ほう。これが命令書か。確かに本物のようだな」
「も、勿論ですとも! 偽物ではありません! そんなはずないじゃないですか!」
命令書自体は本当に本物なのに、わざわざ大声を出して強気になるアミディオ。
だが、その命令書が本物であることが、レナルド王子にとっては重要なのだ。
レナルド王子は、命令書に書かれた署名をしっかりと確認した。
これで、その署名をした貴族も今回の件に噛んでいると証明が出来たことになる。
「成程、確かに本物だな」
「そうですとも!」
レナルド王子の相槌に、アミディオは大きく頷いた。
命令書を手にしたレナルドは、ニコリと笑った。
レナルドとしては、これが欲しかったのだ。
次のレナルド王子の言葉に、アミディオは凍り付くことになった。
「では、これは不正の証拠として頂いておこう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
呆気に取られるアミディオを余所に、レナルド王子はその命令書をアルミンへと手渡した。
渡されたアルミンもそこにある署名を確認したうえで、一度頷いた。
「確かに、しっかりと署名が入っていますな」
アルミンはすぐさまその命令書をオーケに手渡す。
渡されたオーケもしっかりと署名を確認した。
「確かに」
オーケは、一度頷いてからすぐに命令書をレナルド王子へと戻した。
それらのやり取りを見たアミディオは、ようやく今までのやり取りの意味を理解した。
自分は嵌められたのだと。
レナルド王子たちにとっては既にアミディオが不正をしていることは確定事項で、後はそれ以上の繋がりがあるのを確認したかったのだと。
そしてまさに今、レナルド王子の手元にある命令書がそのための証拠の物となる。
何しろその命令書には、軍を出すよう指示している署名が入っているのだ。
これ以上の証拠となるような物は無いだろう。
今更ながらに気付いたアミディオだったが、今更取り返すわけにもいかないのであった。
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流石にこの段階に至っては、アミディオも嵌められたということが理解できて顔面蒼白になっていた。
「い、一体いつから・・・・・・。いや、それ以前に、あれは・・・・・・あいつは何者だ?」
茫然自失といった雰囲気を纏ってアミディオが呟いている。
アミディオにしてみれば、跳ねっ返りの冒険者を懲らしめるつもりで打っていた手が、いつの間にかレナルド王子の策略にはまっていたのだ。
実際はそんなことはないのだが、考助のことがわかっていないアミディオにしてみれば、レナルド王子が全て仕掛けたと考えてもおかしくはないだろう。
「さて・・・・・・そろそろ私がここに来た意味も理解できただろう? 大人しく罰を受けるといい。どんな内容になるかは、追って連絡する」
「・・・・・・」
茫然としたままのアミディオに、レナルド王子が冷たく最終宣告を告げた。
アミディオにどんな罰が下されるかは、今回のこの件をもっと掘り下げ無いと駄目だという事は分かっている。
アレク経由で聞いた考助の話では、他の領でも同じようなことが行われているという話だった。
アミディオとその親貴族を起点にして、どの貴族が関わっていたのかを調査していくのが、王家としての最終目的なのである。
この冒険者の税の問題に関しては、王家として手加減するつもりは一切ないのだ。
この段階で、流石に言い逃れをする気も失せたアミディオは、一つだけどうしても確認をしたいことがあった。
「一つ。一つだけ教えてくださいませんか?」
「・・・・・・なんだ?」
「あれは、あの冒険者は一体・・・・・・?」
全てがあの冒険者から始まっていた。
しかもレナルド王子が膝を屈した相手である。
只者であるはずがないと考えての質問だった。
「それは私の口から話していいのか判断がつかないな」
それだけで、かなりの重要な人物だという事は分かる。
「そうです、か」
アミディオは、最後にそう呟いてガクリと肩を落とすのであった。
考助の正体をばらす方向でも考えていたのですが、結局止めました。
このあとアミディオが考助の正体を知れるかは・・・・・・読者の皆様のご想像におまかせします。




