(11)戦闘終結
魔法陣の出現は、成り行きを見守っていたアミディオもすぐに気が付いた。
アミディオ自身はさほど魔法に精通しているというわけではない。
ごく普通に一般的な魔法が使える程度だ。
だが、そのアミディオでさえ感じ取れるほどの大規模な魔法の規模だったのだ。
その魔法陣が消えた後には、十人ほどの人影が現れた。
「ま、まさか・・・・・・」
アミディオは、その中に見知った者がいるのを確認した。
実際にはその周囲にいる幾人かは知っている者達だったのだが、その人物に気を取られて確認が遅れてしまった。
その人物がこの場に来ることは、さほど不思議ではない。
何しろ、このエイレンの町に向かっているという情報があったからだ。
だからこそ、その人物が来る前に今回の件を収めようととわざわざ正規軍まで手配したのだ。
それがまさか、転移魔法を使って来るとまでは考えていなかった。
そもそも転移魔法はそうそう簡単に使える魔法ではない。
しかも魔法陣から出現した人数を移動さえるとなると、かなりの腕が必要になる。
それを可能にしたのが、今もその人物の傍にいる老人とそのほかの魔法使いたちなのだろう。
その老人とは、フロレス王国の筆頭魔法使いであるオーケ・ユーホルトその人であり、アミディオが今回の件を急ぐ結果となったのがそのオーケに指示を出しているフロレス王国第二王位継承者であるレナルド王子であった。
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「我が名はフロレス王国筆頭魔法使いオーケである! 双方、戦闘を控えよ!!!!」
戦場にオーケの声が響き渡った。
当然ながら魔法を使って拡声しているのだ。
その名前に反応して、正規軍の攻撃がやんだ。
ミツキやピーチも追撃することはしない。
考助を攻撃していた隊長も魔法陣を確認した時点で、攻撃を止めていた。
突然の大物の登場に、辺りで様子を窺っていた者達が騒めいている。
その騒めきの中心になった集団は、争いが収まったのを確認した後、移動を開始した。
考助がいる方に。
これを見て慌てたのがアミディオだった。
来るとすれば当然自分の所だと思っていたのに、たかが冒険者の方へ何故行くのだと。
最初はそう考えていたアミディオだったが、軍と敵対している方にまず向かったのだろうと都合の良いように考えなおした。
戦っているのが正規軍と冒険者であるならば、当然正規軍の味方をするだろうと思ったのだ。
その甘い考えは瞬時に打ち消されることになるのだが。
考助のところへと移動したレナルド王子一行の中で、鎧に身を固めた者が隊長に向かって指示を出した。
「隊長、剣を収めて控えていろ」
「はっ!」
疑問に思いつつも隊長は、すぐさま指示に従った。
何しろそう言って来た相手は、正規軍ナンバー2のアルミン・シェーファーだったからだ。
軍において、上官の命令は何を置いても優先しなければならない。
すぐに傍にいた側近に、戦闘していた隊員たちをまとめるように指示を出し始めた。
隊長ともう一人の部下だけを残して、部下たちは隊員たちの方へと駆け出して行った。
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先程までの喧騒が嘘のように静まり返っている。
既にミツキやピーチも考助のところへと戻ろうとしていた。
様子を窺っていた者達の中には、先ほどの筆頭魔法使いの発言を疑っている者もいる。
それも当然だろう。
突然魔法陣から現れたと思った後の発言なのだ。
すぐさま信じるだけの判断材料が無い。
だが、慌てた様子を見せているアミディオや、すぐさま指示に従った隊長の様子を見て、あるいは本当なのではと考え始める者もいた。
そして、当然思い浮かぶのは、そんなお偉いさんがこんな所に何しに来たのだ、ということだった。
そんな中、この場にいる者達を驚かすことが起こった。
魔法陣から現れた集団の中の若い男の一人が考助に近づいて行き、いきなり膝を屈したのだ。
もっともそれが誰かは分かっていない聴衆達は、それにはさほど驚かなかった。
それに慌てたのが、筆頭魔法使いを名乗ったオーケであり、その言葉を聞いて聴衆たちは驚いたのだ。
「レナルド王子! このような場で、そのようなことをおやめください!!」
オーケは器用にも小声で怒鳴るという技を披露した。
流石に、この場でこのような格好をしているのが王子だと知られるのはまずいと自制したのだ。
レナルド王子の事は当然、フロレス王国の国民であればだれでも知っている。
何しろ現国王の息子の長男であり、現フロレス王国第二王位継承者なのだから。
当然ながら第一王位継承者はレナルド王子の父親であり、現国王の息子であるマクシム王太子だ。
レナルド王子と呼ばれた青年は、膝を屈したまま考助に対して口上を述べた。
「初めてであるにも関わらず、このような場になってしまったことをお詫び申し上げます」
「ああ、いや、それは良いんですけどね。そちらの方が卒倒しそうなんだけど、大丈夫?」
いきなり跪かれた考助は、苦笑いしつつ老人に視線を向けた。
そこには青くなってすぐにも倒れそうなオーケがいた。
「オーケ。そう思うのであれば、このような場でその名を言うのは如何なものか?」
レナルド王子は、そんなオーケを笑いながら諌めた。
「し、しかし・・・・・・!!」
なおも言いつのろうとするオーケの耳元に、レナルド王子が口を近づけて何かを囁いた。
それを聞いたオーケが、もうこれ以上は青くならないだろうという顔を一層青くさせた。
すぐ傍にいたアルミンも顔色を変えている。
軍人である彼は、表情を変えないことでも有名なのだが、その彼が見事に表情を動かしていた。
彼らも考助が何者であるかまでは、きちんと聞いていなかったのだ。
勿論それなりに名のある人間であることは察してはいたのだが、まさか人間ですらないとは思っていなかったのだろう。
「も、申し訳・・・・・・!」
いきなり膝を突こうとしたオーケを考助が遮った。
「ああ、もうそれいいから。それよりも今は、こっちをさっさと終わらせませんか?」
流石にうんざりした表情になった考助が、アミディオを示してそう言うのであった。
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離れた場所からその様子を見ていたアミディオは、混乱の極みに合った。
何しろ自分の所に来ると思っていたレナルド王子が、たかが冒険者を優先したうえに、人前で膝まで屈したのだ。
大きな戦争などで命を失わなければ、国王の座は間違いないと言われているレナルド王子だ。
現在のフロレス王国に置いてレナルド王子が膝を屈する相手など、現国王と次の国王と言われているレナルド王子の父親であるマクシム王太子くらいだろう。
つい先ほどまではそう考えていた。
だが、現実にはそのレナルド王子がなぜか膝をついている。
先程まで自分が敵対していた相手に向かって。
少し離れた場所にいて声が全く聞こえていないアミディオにとっては、今目の前で繰り広げられている光景は理解の外にある出来事だ。
「な、なっ、ななっ、なぜっ!?」
そんな言葉しか発することが出来なくなっていた。
残念ながらその醜態に気付いているのは、彼の護衛として残っていた数人の兵だけだった。
その兵たちも上官の指示に従ってその場を離れ、ついにはその場には彼と彼の私兵だけが残されることになるのであった。
というわけで、王子が登場しました。
レナルド王子がオーケに囁くまで考助がフロレス王国に来ているのを知っていた王国関係者は、レナルド王子以外には国王とレナルド王子の父親であるマクシム王太子だけです。




