(10)正規軍
軍隊と冒険者の違いとして真っ先に挙げられるのが装備の違いがある。
これは、相対する敵の違いの為でもある。
人対人が主になる軍隊では、剣での攻撃を防ぐために重い金属製の装備をしているのがほとんどだ。
一方で、素早い攻撃で体当たりなどを仕掛けてくるモンスターを相手にする冒険者の場合は、軽い防具を好む者が多い。
勿論これは一般的な話であって、全てがそうであるわけではない。
軍で軽い装備をしている者達もいるし、冒険者で重装備をしている者も当然いる。
エイレンの町に現れた正規軍はというと、まさしく重装歩兵といった王道の装備だった。
それだけに鎧を剣で貫くなどほぼ不可能と言って良いのだろう。
当然ながら人対人を想定した装備になっている。
彼らは普段は検問所の警備などを行っているのだが、脱走犯とかが出た場合はどうするんだろう、と考助は場違いなことを考えていた。
「聞いているのか、貴様!」
その声で考助は我に返った。
改めてその声の主を見た。
二個小隊からなる軍に囲まれてもはや逃げられないと確信しているのか、尊大な態度になっているアミディオだった。
考助がアミディオを見るのは初めてだったが、いかにも貴族といった印象を受ける男だった。
体格が良くあるように横に広がっているわけではない。
むしろ痩せていると言って良いだろう。
ただ、その態度が如何にもテンプレといった感じなのだ。
先程から考助に向かって吠えている言葉も如何にもといった感じだったので、ついつい聞き流してしまっていた。
「ええと・・・・・・。それで、なんでしたっけ?」
考助の態度に、周囲で様子を窺っていた者達から笑い声が聞こえて来た。
その返答に青筋を浮かべたアミディオは、それ以上の説明を諦めた。
「分かった。もういい。所詮、知恵のない冒険者という事だな。・・・・・・おい、さっさと捕まえろ」
アミディオは、自分の横にいたこの正規軍の隊長に指示を出した。
「いいんですか? 一応先ほど、抵抗権を宣言していましたが?」
抵抗権というは文字通り、不当な捕縛などの場合に対して、力で対抗することを認める権利の事だ。
本当の悪人も使って来るのでやっかいだが、これが無いとむやみやたらに貴族の特権を振りかざす者がいるために設けられている。
「フン。構うものか。それともこれだけの数を揃えて捕まえられないとでもいうつもりか?」
「かしこまりました。おい、お前ら。油断するなよ?」
隊長のその言葉が合図となって、正規軍が考助達を捕縛しようと動き出した。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「来たか」
「来たわね」
「来たわよ~」
「すっごい、重たそう」
正規軍が向かって来るのを見て、考助達はそう感想を漏らした。
一番最後のはワンリである。
「まあ、精一杯抵抗させてもらいましょうか」
「そうですね~」
「それじゃあよろしく」
その考助の言葉を合図に、以前のようにミツキとピーチが動き出した。
「・・・・・・む? 二人だけだと・・・・・・っ!? 一人で対峙しようとするな! 複数人で囲め!!」
流石に隊長の指示は素早かった。
ミツキとピーチにそれぞれあっさりと数人の兵士が沈められたのを見た直後に、的確な指示を出してきた。
全身鎧で覆っている兵士を冒険者たちのように気軽に沈められないのか、二人ともある程度の苦労はしている。
勿論、魔法を使えばそんな苦労もしなくて済むのだが、場合によっては事故が起こる可能性があるために使用を控えているのである。
「おい。行くぞ」
二人を囲んでも大して効果が無いと分かった隊長は、周囲の部下に声を掛けて動き出した。
「お、おい! どこへ行く!? 私を守れ!」
後ろの方から馬鹿な言い分が聞こえて来たが、無視をした。
何人かの部下を護衛として置いてある。
何より、そんな命令に従う必要はないのだ。
自分達に出されている命令は、あくまでも冒険者たちを捕縛することなのだ。
ミツキとピーチが多くの兵に囲まれている間に、何人かの兵士が考助のところまで向かってきた。
二人共、その動きは把握しているが、敢えて考助の所に行こうとはしていない。
あくまでも自分たちは兵士を引きつける役目だと考えているのだ。
ガチャガチャと音を立てて、考助のすぐ目の前に隊長を含めた数人が寄って来た。
「諦めて大人しく捕まるといい」
「いやー。すいませんね。そう言うわけにも行かない事情がありまして」
隊長の言葉に、考助が笑顔を浮かべてそう答えた。
正規軍が動いたとなると、もはや一冒険者と一貴族の対決、というわけには行かなくなっているのだ。
それを狙ったというのもあるのだが。
「そうか。では、こちらも・・・・・・むっ!? 回避!!」
隊長の指示に、側近たちが回避行動を取ろうとしたが遅かった。
付いてきていた部下の半数以上が、それの体当たりをくらって倒されてしまっていた。
着ているのが重い鎧だけに、一度倒されてしまうと起き上がるのに苦労するのが欠点なのだ。
「魔狼だと・・・・・・!?」
隊長は、部下たちを倒したナナを見て、眉を顰めた。
重装の兵士たちが最も倒すのに苦労するのが、こういう狼のような素早い動きをするモンスターなのだ。
その体躯は今まで見て来たどの魔狼よりも大きい。
とは言え、先ほどの体当たりを考えても鈍重なはずがなかった。
「しっかりと、身を固めて・・・・・・むっ!?」
「あ、残念」
部下に指示を出そうとした隊長だったが、自身に攻撃が来たのを見て其方の対処をすることになった。
攻撃を仕掛けた者を見ると、先ほどまで考助のすぐ隣にいた女の子だった。
すぐに対処しようとした隊長だったが、その女の子が突然不思議な行動をとった。
いきなり膝をついて、手を地面に置いたのだ。
「・・・・・・何の真似・・・・・・何と!?」
思わず呆気にとられる隊長を尻目に、ワンリはさっさと狐の姿に変化してしまった。
「そうか。変化できる類の物だったか。残念だが・・・・・・むっ!?」
隊長がワンリに攻撃を仕掛けようとする前に、別のところから指示が飛んできた。
「ワンリ、そいつの相手はしなくていい! 周りからお願い!」
そう指示を出したのは考助だった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「余計な手間を省いてくれて感謝すべきかな?」
隊長が考助のところまで近づいて行きそう問いかけて来た。
対する考助は曖昧な笑顔を浮かべた。
「いやー、どうかな? 安心するのはまだ早いと思うけど?」
考助はそう言ってさっさと控えていた妖精に指示を出した。
「む、なんと、精霊使いか。これは苦労するな」
決して倒せないとは思っていない言葉だった。
ちなみに隊長は考助が使役しているのを精霊だと思い込んでいる。
まさか妖精なんていう伝説の存在を扱うとは夢にも思っていない。
大きな力を持つ精霊とは言え、決して無敵というわけではない。
特に人に使役される精霊は、存在できる限界というものが存在するのだ。
・・・・・・少なくとも隊長が伝え聞いた常識では。
「・・・・・・改めて名前を聞いてもいいか?」
ひたすら攻撃をしているにも関わらずに、全く途切れさせずに妖精を召喚し続ける考助に、隊長は一度攻撃を区切ってそう聞いてきた。
「一応ここでは、コウと名乗っているよ」
「ここでは、か」
明らかに偽名です、と言わんばかりの返答に、隊長は苦笑するしかできなかった。
もっとのその顔はフルフェイスの兜で覆われているために確認することは出来ないのだが。
「そういうこと。それに、もうそろそろこんな茶番も終わるよ」
「何? むっ!?」
隊長が再び驚きの唸り声を上げた。
戦闘が起こっている場所から少し離れた場所で、大規模な魔力が動くのを感じたのだ。
「魔法陣、だと・・・・・・!?」
既に魔法が起動してしまっているので、止めることも出来ない。
さらに魔力を感じた直ぐ後に一瞬魔法陣が現れたと思った次の瞬間には、その魔法陣は消え去って全てが終わっていたのだ。
自分達に対する攻撃の魔法ではないことに安堵した隊長だったが、その魔法の結果に驚くことになった。
魔法陣が消え去った後には、十人ほどの人間が残されていた。
そしてその現れた者達が、この騒ぎを結末へと導くことになるのであった。
さて、現れたのは、いったい誰なんでしょうかー(棒)
注)国王ではありませんので、あしからず
「まあ、精一杯抵抗させてもらいましょうか」
↑このセリフを
「ミツキさん、ピーチさん、懲らしめてあげなさい」
と置き換えると・・・・・・?
まんまですねw




