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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 旅(フロレス王国編)
336/1358

(5)冒険者

 フロレス王国がある東大陸の特徴として、親貴族子貴族というものがある。

 呼び名はそれぞれの王国によって変わるのだが、考え方は一緒だ。

 爵位というものは、国王が直接与えるのだが、爵位持ちの貴族はかなりの数になるので、全てを国王が管理することは難しい。

 そのため、力が弱かったり爵位が低い貴族が、より強い貴族に管理されるというものだ。

 基本的に新たに爵位を授けられた貴族たちは、どこかの親貴族の子となる。

 複数の子貴族を抱えた親貴族はそれだけで力を持つことになる。

 勿論、親貴族が力を持ちすぎる危険性はあるのだが、それは王の采配次第という事になるのだ。

 親貴族も子貴族も自分の相手を選ぶことは出来ず、王が決めることになる。

 大体は、親貴族の土地の周辺にいる弱小の貴族がその子貴族になったりするのだ。

 国が興ったばかりの頃は、中央の力が及びにくい辺境に、王の信頼の厚い貴族を配してその周辺の貴族たちを制御するという方法が取られていたのだ。

 ただし、年月が進んで代を重ねるごとに、王と辺境の力のバランスが崩れたりするので、当然いい面だけではない。

 その点、フロレス王国は、この制度を上手く利用しており、少なくとも今までは上手く統治して来たといえるだろう。

 

 ここで考助が、アキレスにした質問が重要になってくる。

「俺は、隣の領でも徴収されたぞ」

「俺もだな」

 考助達のやり取りを見ていた冒険者たちが、興味を持ったのか話に割り込んできた。

 彼らにしても、訳の分からない税というのは、不満の種だったのだろう。

 あるいは、自分たちも払ったんだから、きちんと考助も払えと言う意味なのかもしれない。

 勿論考助としては、聞ける話ではない。

 何故なら。

「そうですか。という事は、下手をすると親貴族も関わってるという事になりますね」

「・・・・・・何が言いたいのでしょうか?」

 これだけ言っているのに、一歩も引かない考助に疑問に思ったのか、アキレスが眉根を寄せた。

「税に関わっている貴方の事ですから知っているかと思うんですが・・・・・・」

 考助はそう前置きをして話し始める。

「冒険者という立場は、いざというときの戦力として確保するために、税に関して一般市民より優遇されています」

「何を当たり前の事を・・・・・・?」

 そう語りだした考助に、アキレスは今更何を言い出すのかと訝しげな表情になる。

「そして、そのことについては、少なくともこのフロレス王国では、国ひいては国王によって保障されています」

「・・・・・・・・・・・・」

「それも当然で、他の国と違って重い税を掛けると、下手をすると冒険者たちが流れてしまう可能性があるからです」

 実際、過去には冒険者に税を掛けてしまったがために、他国に冒険者が流出してモンスターの氾濫を抑えきれなかったという国が存在していた。

 その事から、各国では冒険者にはなるべく税を掛けないようにしているのだ。

 ついでに、税を掛けないという国も過去には出て来たが、最終的には国力がある国が有利になるという事で、ある程度の税は掛けるように現在では統一されている。

 このため少なくとも東大陸では、冒険者たちの税は同じはずなのである。

 ・・・・・・建前上では。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助の話に不穏な物を感じたのか、アキレスが話を遮った。

「貴方が多少知識があるのは分かりましたが、何が言いたいのでしょうか?」

 そんな事は知っているといいたげに、アキレスは考助を見て来た。

「貴方が先ほどおっしゃった活動税というのは、国で決められた税なのですか?」

 これが、考助が食い下がった理由だった。

 考助の言葉に、周りで聞いていた冒険者たちがざわつき始めた。

 どうもおかしい、という事に気付き始めたようだった。

 ちなみに、考助がここまで確信をもって話をしているのは、きちんと裏付けが取れているからである。

 何しろいつでも連絡を取れる元王女のフローリアがいるのだ。

 ついでに、この宿に戻った時に、元王子のアレクとも話をしている。

 少なくとも今回の件に関しては、考助の方が一枚上手だったのだ。

 そんな事も知らずに、アキレスは呆れたような表情になって反論して来た。

「先ほども言ったであろう? この税に関しては、領内で決められているものだと。先程そちらの者達が言っていた他の領内に関しては、同じであろう」

 既に食堂内にいる冒険者たちは事の成り行きを固唾をのんで見守っている。

 気持ちとしては考助の応援をしたいが、領主の代表として来ているアキレスの言い分も分からなくはないという事だろう。

 

 考助は、アキレスに視線を向けながら、その実冒険者たちに向かって言い放った。

「という事は、領主たちは国王に逆らっているという事になりますね。貴族の背任罪は重いと聞きましたが、大変ですね」

 流石にこのセリフにはアキレスも驚いたのだろう。

 慌てたような表情になった。

「ば、馬鹿な・・・・・・! なぜアミディオ様が王に背いているという事になるっ!!!?」

「ですから先ほども言いました。冒険者の税に関しては、国王が決めていると。冒険者に関しては、勝手に領主が徴税出来ないはずなんです」

 ちなみに考助はこの話を確信をもって話している。

 何しろこの国の元王子であるアレクから聞いた話なのだから。

 ただし、こういう事が起こることを予想してきたわけではなく、入国するにあたってどんな税がかかるのかを前もって聞いていたのだ。

 この言葉に、冒険者たちは完全に考助の言いたいことを理解したのだろう。

 未だ半信半疑のところはあるが、それでも考助の言い分は通っていると感じているのだろう。

 アキレスを連れて来た男たちは、予想外の展開に慌てた様子になっていた。

 子猫を追いつめたつもりが、実際は大虎に手を出してしまったという気分なのだろう。

 

 考助に相対しているアキレスはというと、完全に表情を失っていた。

 怒り出すわけでも焦るわけでもない。

 どちらかと言えば、覚悟を決めたという表情だった。

「わかりました。あくまでアミディオ様に逆らうというわけですね」

「何故逆らうということになるのか分かりません。こちらとしては、正当な言い分を主張しているだけですが?」

 アキレスの視線を感じながら、考助は涼しげな表情でそういい返した。

 そのアキレスも淡々とやり取りをしている感じになっていた。

「そうですか。わかりました。では、貴方のその言い分とやらを、私もアミディオ様に伝えるとしましょう」

 アキレスはそう言って、引き連れて来た男たちと共に、食堂から出て行った。

 アキレスが言った裏の意味を、考助もしっかりと理解している。

 要は、領主の権力を使ってお前程度などどうとでも出来ると言いたいのだ。

 多少知識がある一冒険者の扱いなど、それで十分なのだ。

 普通で考えれば、だが。


 そのアキレスの言葉をしっかりと察している冒険者もきちんといた。

 普段から着族の護衛などしていると、彼らの特殊な言い回しを理解できるようになっていくものだ。

「おい。大丈夫か? 奴ら必ず報復に出てくるぞ?」

 その冒険者の言葉で、理解していなかった者達もようやく理解できたのだろう。

 そこかしこで息を飲む様子が見られた。

「まあ、大丈夫でしょう。何より、この後彼らが何をしてくるか、楽しみではありませんか?」

 考助はにっこりと笑ってそう言った。

 その考助と、周りにいる女性陣の様子を見て、心配してくれた冒険者も破顔した。

「はっはっはっ。こりゃ、完全にお前さんの方が上手だな。俺はお前さんの方に賭けさせてもらおう」

 それは、いざとなったら考助の側に立つという宣言だった。

 場合によってはこの土地にいられなくなると言うのにこういう事を言えるのは、土地というものに縛られない冒険者ならではといえる。

 その冒険者に引きずられたのか、様子を窺っていた冒険者たちも楽しげな表情になっている。

 考助の言い分が通れば余計な金を払わなくて済むという実利も当然あるが、言葉の通り「冒険者」という気質も大きく関係しているのだろう。

 少なくとも表面上では、この時点でこの食堂にいる冒険者たちは考助の味方になったのであった。

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