(4)農業
第十四層は、小鬼人達がいる階層になっている。
加護を与えたゴブリンの何人かが進化を果たしていたが、その中でも一人が鬼人頭になっていた。
驚いたことに、言葉さえ操れるようになっていたので、ある程度の意思疎通も出来るようになった。
そのことを確認してから、色々とあったために時間が取れず、ゴブリンたちの様子を見に行くことが出来なかった。
久しぶりにゴブリンたちの様子を見に行こうと、考助はミツキを伴って第十四層へと訪れることにした。
第十四層へと着いた考助が一番最初に驚いたのは、以前来た時には鬼人頭に進化していた個体がさらに進化していたことだ。
いや、進化していること自体は特に問題はない。
もしかしたらと期待していたので、それはいい。
鬼人頭になった時もかなりの変貌を遂げていた個体だったが、今回さらに大きな変貌を遂げていた。
頭の角が無ければ、ほとんどヒューマンと見分けがつかなくなっていた。
種族もまた<鬼人頭>から<童子>へと変わっている。
そこまではまだ予想できる範囲内だ。
いや、勿論十分驚くに値するのだが、進化するのであればそれくらい変わってもおかしくはないだろう。
それよりも何よりも、目の前に傅いている個体を見て、考助は全く予想していなかったある事実に驚いていた。
「ようこそいらっしゃいました」
以前来た時よりもはるかに流暢になっている挨拶も、ほとんど頭に入ってこなかった。
「あの・・・・・・どうかなさいましたか?」
「あ、ああ。・・・・・・ガボって、女の子だったんだ」
「? そうですが?」
不思議そうな顔をしてこちらを見てくる童子だったが、そのスタイルは完全に女の子のそれだった。
顔は以前会った時よりも、さらに可愛らしくなっている。
普通に街を歩けば、声を掛けてくる男はいるだろう。
とはいえ、以前会った時の面影は残っているので、全く違っているという事はない。
逆に、前に会ったときに何故気づかなかったと思う考助であった。
流石に女の子に、ガボという名前は無いだろうと思い、ソルという名前に改名をした。
きちんと改名できるかどうかは分からなかったが、ソルが名前を受け入れるときちんとステータス表示の名前も変わったので、大丈夫なのだろう。
逆に、本人が嫌がれば変わらなかったのか知りたかったが、今回はソルが素直に受け入れてくれたので、確認は出来なかった。
最初から予想外の事が起こったが、ソルに案内されるままにゴブリンたちの集落を案内された。
そう。拠点ではなく集落だ。
以前来た時は、考助が塔の機能を使って用意した物しかなかったのだが、明らかに建物などが増えていた。
勿論簡素なつくりの住居(?)なのだが、それでも個別の生活空間があるというのは、大きな進歩だろう。
それだけではなく、何人かのゴブリンたちは、道具を使って何かを作ったりしている。
考助がそれらの物を与えたわけではないので、独自に道具を作り使い始めているのだ。
「使っている道具は、全部ソルが考えたの?」
「いえ、まさか。仲間たちが考えたのです」
そう言って、何人かの個体を指さした。
その全てが、進化をしている個体だった。
指された個体の中には、こちらに向かって礼をしてくる者までいた。
あまりの変わりように驚く考助だったが、頭の別の部分ではある構想が浮かんでいた。
それは、もしかしたら農業を教えたら生産し始めるんじゃないか、ということだった。
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ちょっとした用事があったため、一度管理層に戻ってからすぐさまシュミットのところへ行った。
勿論、農業で使う種芋を手に入れるためだ。
そんな物を何に使うかとシュミットは首を傾げていたが、考助が塔で色々やっていることは知っていたので、何も言わずに手続きをしてくれた。
種芋自体はすぐに手に入るということだった。
何しろイモは、第五層で栽培している主力の商品だ。
種芋を切らしていることなどあり得ないだろう。
生産部門に使いをやった後、しばらくはシュミットと雑談をしていた。
特に新しい魔道具なども無かったので、ここ最近のクラウンの様子などを聞いた。
そんな話をしていると、生産部門からフーリク自らが種芋を持ってやって来た。
持ち回りになっている生産部門の現在の部門長は、フーリクなのだ。
種芋を届けるためだけにわざわざ部門長が来るはずもない。
考助が来ていると知ってわざわざ出て来たのだ。
今の考助は、何かの権限を持っているというわけではないが、それでも塔の支配者であることは変わりがない。
塔の中に本部を置くクラウンの部門長として、来ていると知っていれば、顔を見せるくらいはするのだ。
その後は、フーリクを交えて多少の会話をした後で、種芋を持って管理層へと戻るのであった。
種芋を手に入れた考助は、すぐに第十四層へと向かった。
「・・・・・・これは?」
「種芋。ごく簡単に説明すると、それを土地に植えて育てるとイモが出来る」
あっさり説明した考助だったが、それを聞いたソルは目を白黒させていた。
勿論それだけの説明で足りるとは思っていなかったので、きちんと最初から説明をした。
「・・・・・・という事は、自分で食べ物を作ることが出来るというわけですか?」
「まあ、そうだね。色々と管理とかの手間はかかるけど」
フーリクとの雑談の中で、今回持ってきた種芋の育て方もきちんと教えてもらった。
ただし、考助が付きっきりになるわけにはいかないので、説明をした後はゴブリンたちに判断してもらうことになる。
その管理の手間をきちんと把握して、作業することが出来るかどうかは、まだよくわからない。
ただ単に土地を耕したところに種芋を植えて育ってくるのを待つだけでは、今までと変わらない。
きちんと生産の管理をすることが出来るかどうかが大事なのだ。
その後、ソルは別の者を呼んで種芋の管理をさせることにしたらしい。
後から確認すると、仲間の中でも特に植物に詳しい者ということだった。
ただ、詳しいと言っても農業をしたことなどあるわけではないので、かなり戸惑っていたようだった。
ちなみに、種族は既に大鬼人になっている個体だったので、ある程度の知恵はあった。
そうでなければ、どこどこに何が生えていて、しかも食べることが出来るということまで覚えることなど出来ないだろう。
最初は、小さな畑を考助自身が作って、どういう感じで植えるかまでは教えた。
後は、定期的に確認しに来るだけにしておいた。
考助自身が、あまり詳しくないというのもあるが、自分自身で経験を積んで行かないと駄目だと判断したためである。
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結論から言えば、ゴブリンたちは無事に芋を育てることが出来るようになった。
といっても一発で成功させたわけではなく、最初は半分以上を駄目にしてしまった。
それでも何度か収穫を繰り返すうちに、コツのようなものを掴んだらしい。
その頃になると、考助は一切口出しすることなく生産できるようになっていた。
考助としても、まさか本当に成功するとは思っていなかったので、これはゴブリンたちの努力の成果だろう。
芋を定期的に生産できるようになったため、ゴブリンたちの生活も安定することになる。
結果として、ゴブリンたちは安定した生活を手に入れることが出来たため、その数を急激に増やしていくことになるのであった。
ゴブリンは、農業を覚えた!
ちなみに、安定的に芋を生産できるようになるまでには、二年以上かかっていますw
しかし、数が増えるのはいいですが、そのあとで人口問題が出てくる気がするのですが、どうするのでしょうか?w




