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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ
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(2)サリーの結婚

 ラゼクアマミヤ王国が出来てから既に二年。

 リリカは今日も元気に神殿の清掃作業に勤しんでいた。

「あら? リリカ、どうかした? さっきと違って元気ないんじゃない?」

 同じく神殿を清掃していた年配の女性が近寄って来た。

 実はリリカは、先ほどまで神殿にある一室に呼ばれていたのだ。

 誰に呼ばれていたかというと、勿論シルヴィアである。

 いつもの通り突然現れたシルヴィアが、清掃作業をしていたリリカに近寄ってきて話があると言って来たのだ。

 その話を終えて今戻って来たのだが、シルヴィアから聞いた話で少し混乱していたらしい。

 女性は、その微妙な変化に気付いたようだった。

「あ、うん。大丈夫。元気がないんじゃなくて、少し考え事してただけだから」

「ああ、なんかシルヴィア様に呼ばれてたからねえ」

 神殿の清掃活動の常連たちの間では、シルヴィアとリリカの関係に関しては既知の事実になっている。

 リリカはシルヴィアと年も近いせいか、話し相手としての立ち位置に収まりつつあるのだ。

 最初は相談相手として認識されていたのだが、その噂はリリカが思いっきり否定したためすぐに消え去った。

 代わりに広まったのが、話し相手、ということになる。

 これに関しては、否定する材料が無いので、リリカも放置している。

 実際、シルヴィアに呼ばれてする話というのが、世間話程度の話なので間違ってはいないのだ。

 頼りにされているというのには自意識過剰だと思っているが、自分と話をして少しでも気が紛れればいいと思っている。

 少なくとも先ほどシルヴィアに呼ばれるまではそう思っていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シルヴィアから話を聞いて以降、どうしても掃除に手がつかなかったので、結局そのまま宿に戻ってきてしまった。

 宿の自室に戻って先ほどの話の事を考える。

 それでも、どうしても考えがまとまらず悶々としている所に、部屋の外から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 パーティリーダーのサリーだった。

「リーダー? どうぞ、入ってきていいですよ」

 リリカがそう声を掛けると、ガチャリと音がして部屋の中にサリーが入って来た。

「寛いでいる所、済まないね」

「いえ、良いんです。丁度、別の事をして気を紛らわそうと思ってましたから」

 悶々とした気分を落ち着かせるために、外をうろつこうかと考えていたので、嘘ではない。

「そうか・・・・・・」

「?」

 それだけ言って押し黙ったサリーに、リリカは首を傾げた。

 ざっくばらんな性格をしているサリーが、こういう態度をとることは非常に珍しい。

 それだけに、リリカはサリーが話始めるまで待つことにした。

 そんな思いが分かったのか、サリーがようやく口を開いた。

「・・・・・・突然だが、リリカに話というか、相談があってな」

「うん」

「実はな。とうとう私も結婚することになってな・・・・・・」

 話された言葉が、何となく重苦しい雰囲気だったので、リリカは一瞬何を言われたのか分からなかった。

 だが、サリーの言葉が理解できるにつれて、その表情は笑顔になった。

「よかったじゃないですか! ・・・・・・って、あれ? 良くなかったんですか?」

 喜んではいるが、どこか浮かない表情を浮かべるサリーに、リリカは首を傾げた。

「いや、まあ。結婚自体は、年貢の納め時というか、物好きがいたもんだから丁度いいと思ったんだが・・・・・・」

 そう言って口を濁すサリーだったが、リリカはそれをニマニマしながら聞いている。

 何しろサリーの相手についてはリリカも何度か会ったことがある。

 その時はかなりいい雰囲気だったので、もしかしてもしかすると思っていたのだが、その予想は当たっていたようだった。

「と、ともかく、今日話したいのは、それだけじゃなく別のことだ!」

 リリカの表情に気付いたサリーが、慌てたようにそう切りだした。

 

 落ち着いたサリーの話からようやく本来の話を聞き出せた。

 要は、結婚した後のパーティリーダーをどうするかという話だった。

 サリーやリリカがいるパーティは、元々サリーが作った物だ。

 それ故に、今までずっとリーダーはサリーが務めていたのだが、サリー自体が抜けるとなるとそのリーダーを誰がやるかが問題になる。

「で、私としては、リリカにリーダーをやってもらいたいんだが?」

「そういう事ですか・・・・・・」

 リリカは納得して頷いた。

 この二年でリリカは既に、パーティ内で一番の古株になっている。

 メンバーの入れ替えも何度も行われていた。

 だからこそ、サリーの申し出はある意味で妥当といえるものだった。

 ・・・・・・のだが。

 少し考えたリリカは、首を左右に振った。

「ごめんなさい。辞退させてもらっていいですか?」

 それを聞いたサリーは、一瞬驚いた表情を見せた後で、考え込こんだ。

「・・・・・・理由を聞いても?」

 そう聞いてきたサリーに、リリカは一つ頷いて話し始めた。


「実は今日、シルヴィア様とお話をしたんだけど・・・・・・」

 サリーはリリカが既に何度もシルヴィアと会話を交わしていることは知っている。

「何か言われたのか?」

「うん。私に、シルヴィア様の補佐をしないかって」

 それを聞いたサリーは、呆気にとられた表情になった。

「シルヴィア様にお子様が出来たみたいで、体力的な仕事がつらくなるからその代わりに私に手伝ってほしいみたい」

「凄い話じゃないか!」

「うん。私も驚いた」

 実際、シルヴィアからその話を聞いたときは、たっぷり五秒は呆然としていただろう。

「急な話だったんで、時間をいただいたんだけど、リーダーが抜けるんだったら受けてもいいかなって思ってね」

 そもそもリリカは、サリーがいないパーティに居続けるつもりは無かった。

 リリカが今まで冒険者を続けて来たのも、サリーがリーダーでいたからだ。

「そうか。そういう事なら、しょうがないな」

 そんなリリカの想いを余所に、サリーはシルヴィアの話の事で頷いていた。

 別にリリカとしても、そんなことまでサリーに話すつもりはない。

 何より気恥ずかしいのだった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 結局、パーティは解散することは無かったが、サリーもリリカもパーティから去ることになった。

 流石にいつかの時のように、二人同時に抜けると大変なことになるので、リリカは少しだけ時間を空けての脱退となる。

 シルヴィアに話をしたところ、多少待つのは構わないと言ってくれた。

 彼女が身重になるのはもう少し時間がかかるので、その分の猶予を貰えたのである。

 ただし、時間が空いているときは、シルヴィアの下で手伝いをすることも約束させられた。

 パーティのリーダーには、以前からいたメンバーの一人が選ばれた。

 流石に最初は緊張しているようで、上手くいかない所もあるようだったが、リリカの見立てでは良いリーダーになると見込んでいる。

 そのリーダーの下で冒険者活動を行い、ついにその日を迎えた。

 

「サリー、おめでとう!!」

 純白の衣装に身を包んだサリーが、何人もの人たちにそう声を掛けられていた。

 今、サリーの周りを囲んでいるのは、彼女の結婚を祝福するために駆け付けた友人・知人たちだ。

 集まっている人数からも彼女の人柄がよくわかる光景だった。

 勿論、サリーのパーティメンバーだった者達も集まっている。

 そんなサリーの様子を、リリカは盛大に緊張しながら見ていた。

 何故そんな状態になっているかというと、今回のサリーの結婚式の宣誓をリリカがやることになっているからだ。

 どこからかサリーの話を聞きつけたシルヴィアが、これまたリリカを通さずにサリーを訪ねて話をしたらしい。

 その話を聞いたサリーが、これまた二つ返事で了承してしまった。

 リリカの所に話が来た時には、既に逃げられない状況になってしまっていたのだ。

 ちなみに、その話を聞いて引き攣った表情になったリリカを見たシルヴィアは涼しい顔で、

「折角なんだから、いい経験になると思いなさい。私もちゃんと補佐するから」

 と、のたまわった。

 そのシルヴィアは、現在リリカの横でしっかりと補佐の役をしている。

 この状況もリリカを緊張させる要因の一つだ。

 今にも逃げ出したいリリカだったが、サリーの嬉しそうな表情を思い出すとそんなことが出来るはずもないのであった。

 

 途中何度も失敗しそうになりながらもそのたびにシルヴィアのフォローを受けつつ、何とか宣誓の儀をこなすことが出来た。

 どっと疲れた様子を見せているリリカを、シルヴィアが笑いながら見ていた。

 そんなリリカの元に、一人のお客が訪ねて来た。

 誰かと思えば、今日の主役であるサリーだった。

「あらあら、いらっしゃい。旦那様をほったらかしにしていいのですか?」

「ああ、構わない。リリカに礼を言いに行くと言ったら、よろしく頼むと言われた」

 扉のところでそんな会話をしていたサリーとシルヴィアだったが、すぐにリリカの所にやって来た。

 ぐったりとしているリリカを見て、サリーは笑い転げた。

「やっぱり予想通りだったか」

 サリーは、宣誓の儀式の最中に極度の緊張を見せるリリカに、笑わないようにするのに必死だったらしい。

 リリカは、緊張しすぎでそんなことは全く気づかなかった。

「全く。主役に気を遣わせてどうするのですか」

 頭を抱えるリリカに、シルヴィアがそう小言を言った。

「まあまあ、そう言わないでやってくれないか。私としては、リリカにやってもらってよかったと思っているぞ?」

「そうですか。良かったわね、リリカ」

「あー。はい~。ありがとうございます~」

 いつまでもリリカを弄りそうな二人に、リリカ自身は対応する余裕は無かった。

 

 この日を境にしてシルヴィアの補佐役として、巫女リリカの名前は第五層限定ではあるが、急速に広まっていくことになるのであった。

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