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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 塔へ色々な種族を受け入れよう
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(3) エルフの里

引き続き世界樹の話です。

 セントラル大陸より北にあるアーゼン大陸。

 そのアーゼン大陸の北部に、ケイドロイヤ大森林と呼ばれる森林地帯がある。

 冬の間は深い雪に覆われる環境と、その環境に耐えうるモンスターが出現するおかげで、未だ人の手がほとんど入っていない場所だ。

 だが、例外的にただ一か所だけ人類種の手が入っているところがある。

 それが世界樹を中心にして里を作っているエルフ族がいた。

 世界樹の恩恵か、その周辺だけは厳しい寒さの影響をほとんど受けずに暮らせる程度の環境になっている。

 雪が降らないわけではないが、周辺に比べれば少なくなっているのだ。

 その地域を利用して、エルフたちははるか昔より集落を作って暮らしていた。

 広く深い森林とその厳しい自然が天然の要塞となり、他の種族の影響を退けてきた。

 干渉がなかったわけではないが、外的要因で致命的な影響を受けることはなかったのだ。

 だが、その里も全く問題がないわけではない。

 いくつかある問題の中で一番の問題は、出生率の低さである。

 エルフの長い寿命による弊害や役目を終えようとしている世界樹の影響など、理由は色々言われているが、今もって正しい答えを出せずにいた。

 それ以外の問題も含めて、現在の里は何となく閉塞感のようなものに包まれていた。

 だが、その閉塞感を吹き飛ばすような、新しい風が今、エルフの里に吹こうとしていた。


「・・・神聖な世界樹に近づきたいなど、どういうつもりじゃ?」

 先ほどから繰り返されているやり取りに、考助はため息を吐いた。

 考助たちは、いつもの三人プラスセーラとゼパルを合わせた五人でエルフの里を訪れていた。

 この里に来た当初はよかったのだ。

 ハイエルフであるセーラとゼパルがいたおかげか、友好的とはいえないまでも敵意を見せるわけでもなく、普通に話は進んでいた。

 塔の中に生まれた新たな世界樹。その世界樹の管理のためにエルフたちの手を借りたい。そのためにエルフたちを塔の中に移住させたい、等々。

 ゼパルを中心にして、多少の細かい条件を含んだ話し合いが進められていたが、里の代表者達は特に反発もなくむしろ興味を持って話に参加していた。

 ところが、である。

 考助含む一行が、里の中心にある世界樹に近づきたいと話を切り出したとたんに、その空気が一変した。

 曰く、里の世界樹は神聖なもので里人でさえ近づけない。ましてや余所者を近づけさせるわけにはいかない。

 曰く、ハイエルフである二人はともかく、それ以外はダメである。

 とまあ色々言い訳を付けて、考助たち三人が近づくのを拒否してきたのである。

 昔からエルフたちが大事にしてきた世界樹に、近づいてほしくないという理屈も分からなくもないので、考助もいい加減諦めようとしていたその時だ。

 彼らが話し合いをしていた部屋に、バタバタと慌てたように入ってきた者がいた。

「何事じゃ・・・!? 今はお客人との大事な話の最中じゃぞ?」

 部屋に入ってきた者が、エルフ側の中央にいるその言葉を発したエルフへと何事か耳打ちをした。

 それを聞いて、その代表者は顔色を変えた。

「・・・どういうことじゃ?」

「私にも詳しいことは・・・しかしそれが巫女様のご意思でして・・・」

「・・・むむ」

 腕を組んでしばらく考え込んでいたその代表者は、スッとその場に立ち上がった。

「お客人、申し訳ないが、私はしばらく席を外す。先の件ももう少し返答をお待ちいただけないか?」

「はあ、それは構いませんが・・・」

 ゼパルとセーラが顔を見合わせて、自身を見てきたので考助はそう答えた。

「ありがたい。・・・お前たち、わしが戻ってくるまで移住の件について、詳しく聞いておくのじゃ」

 その代表者は、そう言って部屋から出て行った。

 残された者達は、首を傾げつつも移住に関しての話を再開するのであった。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 塔への移住について色々詰めていると、しばらくして先ほど出て行った代表者が帰ってきた。

「お待たせした。聖域への立ち入りが認められたので、一緒にいらしていただきたい」

 戻ってきていきなりのその言葉に、会場がざわついた。

 主にエルフ側の方で。

「静まらんか。巫女様のお告げじゃ。この者達を聖域へお連れするようにとのことじゃ」

 ざわついていたその場が、一気に静まった。

「色々言いたいことはあるじゃろうが、聖域までご同行いただけないか?」

「はあ・・・こちらの世界樹を近くで見せていただけるのでしたら、願ってもないですが・・・」

 いきなりの方針転換に戸惑いつつも、考助はそう返事を返した。

 それを聞いてその代表者はほっとした表情を見せた。

「では、ご案内しますので、付いてきてください」

 そう言われた考助たちは、その代表者の後に付いて行くことになった。


 聖域へ到着した考助たちを出迎えたのは、一人の女性エルフだった。

 残念ながら考助では、エルフの年齢を見分けることはできないので、見た目では二十歳前後にしか見えない。

 そして、どういうわけだか、シェリルと名乗ったその女性エルフは、所謂日本の神社の巫女服を着ていた。


(まさか、異世界でこの服を見ることになるとは・・・)


 異世界のしかもエルフが、巫女服を着ているということに、多少の違和感を感じつつ考助はシェリルの話を聞いていた。

「ご足労ありがとうございます。本来であれば、わたくしがお迎えに上がらなければならないところ、このような形になり申し訳ありませんでした」

 シェリルは他のエルフたちと違い、明らかに考助をメインにして話をしていた。

「ええ、あれ? ・・・いや、そもそも無理を言ったのは、こちらの方だと思うんですが・・・?」

「本来であればそうなのでしょうが、貴方は別です」

 はっきりと考助の顔を見てそう言うシェリルに、考助は戸惑いを隠せなかった。

「このような場所で長々と申し訳ありません。わたくしと一緒にお入りください。・・・ドルジェ老もご一緒に」

「儂もか・・・!?」

 ここまで考助たちを案内してきたドルジェと呼ばれたエルフは、驚きつつもシェリルに言われるまま一緒に聖域へと入って行った。


 そもそも聖域とは、世界樹を覆っている結界のことである。

 外からは世界樹が確認できないように、かなりの大きさの結界で出来ているのだ。

 ついでに言えば、エルフたちはさらに、その結界を囲むようにその外側を柵で覆っている。

 その聖域に入るということは、結界の中に入ることであり、当然今まで見えてなかった世界樹が姿を現すことになる。

 シェリルに案内されて結界の中に入った考助たちは、世界樹のその姿を目にすることになった。

「・・・へえ。これはまた見事ね」

「まさしく世界を支える存在の一つ、ということでしょうか」

 さすがのコウヒとミツキもその存在感に魅入られている。

 そして、肝心の考助はというと、最初は世界樹の姿に圧倒されていたものの、今は別のことに気を取られていた。

 その左目ははっきりと、大樹の足元にいる女性の姿を捉えていた。

「・・・ようこそおいでくださいました。・・・すみませんが、こちらへ来ていただけますか?」

 考助は、女性に言われるがまま、近づいて行く。

 言われるまでもなく、考助にはその女性がどういう存在かはわかっていた。

「手をお借りしていいですか? ・・・その前に、皆様に見えるようにしましょうか」

 その言葉と同時に、考助だけに見えていた女性が全員の前に姿を現した。

 いつもは声を聴くだけだったシェリルもその姿を見て驚いている。

 それもそうである。

 以前リストンが考助たちに語ったように、世界樹に宿る妖精の存在は、エルフ達にとっては伝説的な存在なのだから。

 こうして人前で姿を現すことなど、ほとんどと言っていいほどないことなのだ。

 他の人の反応を見て初めて、考助は女性の姿が見えていなかったことに気付いた。

 それはそれとして、考助は言われた通りに、右手を女性に向かって差し出した。

「・・・そのまま幹へ触れてください」

 そして、考助の右手が世界樹の幹へ触れた瞬間、世界樹全体が淡い光に包まれた。

 それを見ていた全員が息を呑んだが、考助はそれどころではなかった。

 幹に触れた手を通じて、何かが流れ込んでくる感じを受けたのだ。

「・・・・・・これは?」

「私が、かつて世界樹として役割を果たしていた時の力です。私にはもう必要ありませんから、あの子に渡してください」

「しかし、それは・・・・・・」

 目の前にいる世界樹の妖精は、微笑みを浮かべて考助の言葉を遮った。

「・・・いいのです。私の世界樹としての役目は、もう既に終えています。これからは、普通の大樹として存在していくことになります」

 そう告げる妖精は非常に穏やかな表情をしていた。


「・・・わかりました。ただ、この樹の枝を一振りもらえませんか?」

「? ・・・構いませんが、それをどうするのですか?」

「確かに、これから先、この樹はただの大樹として生きていくのでしょう。ですが、あなたは違いますよね?」

「・・・・・・それは・・・」

「この樹が世界樹ではなくなるということは、その妖精であるあなたの存在もなくなってしまうということ。でもそれではあまりに寂しいです。せっかく知り合えたのに。なので、その枝に宿ってもらおうかと思いまして」

 先程の世界樹から得た力の中に含まれている知識に、そうしたことができるというのがあったから思いついた方法である。

「ですが、さすがに枝のままでは長くは持たないでしょうから、あの子のそばに植えようかと思います。その方法でしたら、あなたもあなたとして存在し続けることができるでしょう?」

 そう言って笑う考助に、妖精はしばらく言葉を失い、続いて頭を下げた。

「・・・・・・感謝します」

 万感の思いを込めて、考助にそう言った後、今度は、今までの話を聞いて涙を浮かべている巫女服のエルフへ視線を向けた。

「・・・シェリル、聞きましたね。これからのこと、頼みましたよ」

「畏まりました」

 シェリルのその返事を聞いた後、妖精は完全に考助の前からも姿を消した。


「じゃあ、僕らももう戻ろうか。いつまでもこのままの状態だとまずいだろうし」

 そう言う考助の腕の中には、いつの間にか一本の枝が抱えられていた。

「畏まりました。彼らとの話し合いは、私にお任せください」

「私は考助様と戻るわ。あ、あと、セーラかゼパルのどちらかもついてきてね。事情が分かってる人がいないと、どこに植えていいかもわからないし」

 ミツキの言葉に、セーラとゼパルも頷いた。

 あっという間に話をまとめた考助たち帰還組は、結界から外へ出てミツキの転移で、塔へと帰って行った。

 今までのやり取りをただ茫然と見ていた里のエルフであるドルジェは、シェリルから詳細を聞くことになり、ようやく事の重大さを理解できたのである。


 これによりエルフの里も今までとは違った方に大きく舵を切らざろう得ないことになり、結局その役目から里のエルフたちの何割かが塔へと移住することになったのである。

長くなりました。ですが、これで一応エルフ移住と世界樹の話は一区切りです。

次は吸血姫の話です。

・・・村はどうなった・・・。


2014/6/6 誤字脱字訂正

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