6話 大きな衝撃
マルコは周囲の雰囲気を感じて、逆に冷静になることが出来た。
少なくとも今の状態は、コラム王国にとっては、良くない状態だ。
完全に周囲の隊員たちは、あの爆発にのまれてしまっている。
提督である自分が、周りと同じような反応をしてしまえば、今後の交渉に影響を与えてしまう。
例え虚勢であっても、すぐに立て直すことが出来たのは、自分でも奇跡だと思った。
そんなことを一瞬で考えて、表情に内心を出さないように出来たマルコは、流石の一国の提督まで上り詰めている人物と言える。
何故か同じように驚いた表情を見せているコロラドに、先手を打って声を掛けようとしたマルコだったが、残念ながら相手の呟きに止められてしまった。
「いやはや。流石にこれは、想像以上ですよ?」
その呟きを聞いたマルコは、思わず動きを止めてしまった。
更には疑問の声を上げるのを止められなかった。
「・・・・・・何?」
マルコの疑問の視線を受けて、コロラドは肩を竦めた。
「許可を得ているので話しますが、先程のあれは大陸を中心とした一定の範囲内でしか使えないそうです」
「・・・そんな話を私にしていいのか?」
思わずそう聞いてしまったマルコに、コロラドは深くため息を吐いた。
「普通に考えれば駄目なんでしょうがね。あそこはいろんな意味で、普通ではありませんから」
コロラドが言う「あそこ」というのが、どこを指しているのかは言うまでもないだろう。
「貴方達が足止めされているあの結界にしても、今回の攻撃にしても塔の持っている力だそうです」
「なるほど。だから一定範囲内でしか使えないということか?」
普通に考えれば重要事項である内容をペラペラ話すコロラドに、なぜか敵であるはずのマルコも素直に聞いている。
後から思い出したマルコにしてみれば、何故この時は素直に話を聞いていたのか首を捻ることになるのだが。
「まあ、今の場所が限界かどうかは分かっていませんがね」
「是非ともその辺のことは教えてほしい物だが?」
「流石にそれは・・・と言いたいところですが、本当に知らないんですよ。塔に関しては、我々もアンタッチャブルな所がありますので」
色々諦めたように溜息を吐くコロラドに、マルコは思わず同情の視線を向けてしまうのであった。
一応現状仮とは言え、敵対している者同士のやり取りである。
当然、先ほどの様な雰囲気を続けるわけにもいかず、前のような雰囲気に戻った。
といっても二言三言言葉を交わして、コロラドが旗艦から去って行った。
コロラドが、今この場で追い込むことをしなかったのは、勿論指示があっての事だ。
むやみに追いつめても逆に駄目になるのは目に見えているので、きちんと本国と連絡を取って対応をする時間を与えたのだ。
勿論マルコの方もその辺は理解している。
その上で、コロラドとの一回目の対話を終えたのだ。
次に会うのは、島の上でと確認を取った上で、コロラドは自分が乗ってきた商船へと戻って行った。
その姿を見ながら、マルコは内心でため息を吐いていた。
今起こったことをどう本国へと伝えたものかと、憂鬱な気分になったのであった。
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マルコの報告は、当然ながら(?)最初は受け入れられなかった。
そんなはずはないと、一蹴されたのだ。
とはいえ、流石に集団催眠にかかっているわけでもないのに、全員が同じ光景を見たのだから否定するのが難しかった。
最初から廃船に仕掛けが施されていたのではという意見も出たが、それはマルコがコロラドから聞いた話で否定した。
マルコが職を賭して真実だとそれらの話を報告したのが大きかった。
無理にこれ以上の滞在を続ければ、艦隊そのものが無くなってもおかしくないという報告も影響している。
勿論、何の防御もしていないただの廃船に当てた攻撃と、防御魔法を張れる魔法使いたちが乗っている艦隊とは受ける被害は違うだろう。
だからと言って、そんなものは何の慰めにもならない。
報告前に魔法使いたちにある程度の分析をさせたが、出来たとしても人員を守るのが精いっぱいで、船そのものを守るのは不可能と判断された。
さらに追加するなら、あの後のコロラドとの会談の時の雑談で、呆れたようにあの攻撃は抑えに抑えた状態だと耳打ちされた。
何の冗談だと思わず問いかけてしまったのだが、どうやら本当らしいと返されてしまった。
それどころか、自分も同じ質問をしたのだが、同じ答えが返ってきたとまで言われた。
それが本当かどうかは確認する術がないが、もし本当だとすれば、間違いなく今後セントラル大陸は、他大陸の国家にとっては不可侵の存在になるだろう。
そんな攻撃を防ぐ手段などありはしないのだから。
そんな自分の感情は置いておくとして、マルコはそれらの情報を全て隠すことなく本国へと伝えたのだ。
勿論マルコの報告は、魔法使いを通して伝えられたので、単に今までに知りえた事実だけを伝えただけだった。
それでも与えるインパクトは、とんでもないことになった。
「藪をつついて蛇を出す、か」
コラム国王バームの言葉に、その場にいた者達がピクリと反応した。
マルコの報告を受けて、関係者が集まって緊急会議が開かれているのだ。
「まさか、マルコ提督の報告を信用したのですか?」
そう言ったのは、報告にあるような攻撃兵器の存在を信じていない側の者だった。
ある意味で、現実主義的な所がある者達だが、この場合に関しては厄介になるだけだ。
彼らが見ているのは、あくまでもセントラル大陸の西の街から得られる利益だけなのだ。
艦隊が簡単に全滅するような兵器など信じていない。
「彼の報告を信じずして何を信じる?」
国王の言葉に、その者も押し黙った。
バーム国王は、言葉だけで踊らされるような愚か者ではない。
きちんと現場からの意見はしっかりと聞き入れるタイプの王だった。
むしろ、こういう時は、現場の意見を重用する傾向にある。
その辺は、当然周囲にいる者達も理解している。
「マルコ提督は、きちんと損害と利益を計算できるタイプの提督だ。その彼が、このまま続けても損害が多数になると報告するという事は、実際にそうなんだろう」
バーム国王の報告に、軍の関係者が頷いた。
マルコが自分の保身のために虚偽の報告を上げるようなタイプではないことは、彼らが知っている。
出来ることは出来る、出来ないことは出来ないとはっきり言うタイプだ。
実際にそういったことで、降格しかけたことが何度かあるのは、軍の中では有名な話だった。
「では、西の街は諦めると?」
文官の一人がそう聞いてきた。
「そうは言わん。昔のわが国であれば、あの街からの利益が無くなればつぶれてしまうような国だったが、幸いにして今のわが国は違うであろう?」
国王の言葉に、全員が頷いた。
「では、アマミヤの塔側の意見を受け入れると?」
「要求としては、受け入れがたいという物でもあるまい?」
既に、マルコとコロラドを通して、アマミヤの塔の立場は明白にしてある。
即ち対等な交易関係。
国家としての背景を持たずに、通常の交易の相手として望むという一点だけだった。
いままで、国家としての力を最大限に利用して、生かさず殺さずの状態で貿易をしてきたのだが、その手は使えなくなる。
その分の利益はなくなるが、それでも得られる利益が無くなるわけではない。
手放すのが惜しいという程度には残るのだ。
交易相手として周辺国家に移られてしまっては目も当てられない。
別に西大陸における海洋国家は、コラム王国だけではないのだ。
それくらいなら、アマミヤの塔の言い分をのんでしまった方がいい。
バーム国王は、そう判断していた。
現状では、まだ打診されている段階だ。
正式な通達はいずれ来るだろう。というより、そのための打診なのだ。
どういう形で来るのか分からないが、正式な交渉が始まった段階で、話を受け入れることになるのだろうと考えるバーム国王であった。
あっさりと要求を受けれたバーム国王ですが、攻撃兵器の存在に関しては、いまだ半信半疑です。
この後艦隊が戻って、実際の(魔法使いたちからの)声を聴くことによって、正式に結論を出すことになります。




