(10) サポート一号
管理層のくつろぎスペースにメンバー全員が集まっていた。
みんなが集まっているのは、夕食が終わったときに、考助が集まるように言ったからだ。
こうして集まってもらったのは、以前より製作していたゴーレムが完成したためである。
考助・イスナーニ・コウヒ・ミツキの四人の合作でできたゴーレムが、皆の前で頭を下げていた。
「ハジメマシテ。補佐要員一号デス」
言葉はたどたどしかったが、その動きはほとんど違和感がなかった。
それを見た一同は、全員が絶句をしていた。
前回の実験機でさえ度肝を抜かされたのに、今回はさらに上を行っていた。
どう考えても、技術レベルが既存のものをはるかに飛び越えている。
「えっと、フローリア。ゴーレムってこんなんだっけ?」
コレットに問いかけられたフローリアは、呆然として答えられないようだった。
もっとも、その様子を見るだけで、答えているようなものだったが。
「フローリア・・・大丈夫か?」
シュレインが、そのフローリアの目の前で手をパタパタと振った。
「・・・・・・ハッ!? な、何かありえないものを・・・」
フリーズから起動したフローリアだったが、補佐要員一号が視界に入ると再び動きを止めた。
「こら。いーかげんにせい」
シュレインがポコリと、フローリアの頭を小突く。
「な、ななな、あれは何だ!? ありえないだろう!!!?」
指を指して驚くフローリアに、それ以外の者達は逆に冷静になれた。
「フローリア、ありがとう。あなたのおかげで逆に冷静になれたわ」
「そうですわね」
「誰かがあわててると、逆に自分が冷静になれるというのは、本当のことだったの」
ほかのメンバーから冷静な突込みが入ると、さすがにフローリアも自分の慌てぶりが恥ずかしくなってきたのか、顔を若干赤くして深呼吸をし始めた。
「ふう、はあ。・・・お騒がせした」
「まあ、気持ちはよくわかりますから、あまり気にしないでください~」
「そうしよう」
フローリアが落ち着いたのを見て、一同は改めて補佐要員一号を見た。
何度見てもありえない。
フローリアを除けば、ゴーレムを実際見たことがあるものなどいない。
だが、目の前にいる彼女(?)は、既存のゴーレムをいろんな意味で飛び越えているのはすぐにわかった。
「一応聞くが、これはゴーレムなのか?」
一番ゴーレムを知っているフローリアが、そう聞いた。
「もちろん、そうだよ。基礎理論は、もともとあったものを使っているからね」
「基礎理論は、か」
「そう基礎理論は。・・・って、ちょっと待って。今回に関しては、確かに僕も噛んでるけど、大部分はコウヒとミツキのせいだよ?」
考助の言葉に、全員の視線が二人に集中した。
「思った以上に楽しくて、ついはりきってしまいました」
「夢中になれるものがあるって、いいものよね」
コウヒとミツキの言葉に、全員がため息を吐いた。
この二人が関わったのなら普通にありえると思ったのだ。
「何というか・・・さすがね」
代表してコレットがそう言った。
「ありがと。・・・でも、確かに私たちもやらかしてるけど、ここまで進化しているのは考助様のせいよ? 私たちが貢献しているのは、素材の部分だけ」
コウヒやミツキが、考助の望む素材を集めてきたからこそこれほどのゴーレムができたのだ。
今回考助とイスナーニがやったのは、いろいろなアイデアを出しただけだ。
素材の収集や加工は、コウヒやミツキが担当していた。
勿論、コウヒやミツキが新しい理論を出したりしたのだが。
結局のところ製作組の全員がやらかしたことになる。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
そのやらかして完成したゴーレムは、サポート一号と名づけられた。
名前に関しては異論が出まくったのだが、ゴーレムは今後も増やしていく予定だと考助が言うと、みんな押し黙った。
考助のことだから数体だけではすまないと悟ったのだろう。
ちなみに、人によって一号だったり一号さんだったりそれぞれの呼び方で呼んでいる。
サポート一号という名前で呼んでいるのは誰もいなかったりする。
そんなサポート一号の仕事は、召喚獣たちへの餌用の召喚陣の設置と決められた。
もともとそのつもりで作っていたので、それができなければ意味がない。
とりあえず固定化している作業分だけを教え込んで、数日様子を見ることにした。
召喚陣は召喚陣なので、設置する数を間違えれば大惨事になったりするので油断はできない。
結論から言えば、特に問題なく指示通りの作業を行っていた。
さすがに自分で考えて作業を行うというのは無理なので、最初にやるべきことをすべて教えなければいけないが、これくらいの負担は当然だろう。
それよりも召喚陣設置の負担が消えることのほうがメリットが大きい。
各塔の制御室は、アマミヤの塔の管理層に集まっているので、転移門を通る必要もない。
今のところ全ての塔への召喚陣設置だけでサポート一号の予定が埋まったわけではないが、今後はさらに召喚獣たちの階層を増やす予定なので、いずれ埋まってしまうだろう。
そうなれば当然二号の製作も必要になってくるのだが、これに関しては考助は心配してなかった。
すでにコウヒとミツキが、二号の製作に取り掛かっているからだ。
二号に関しては、考助はタッチしないつもりでいた。
一号が完成したことで、アマミヤの塔の管理を再開するつもりだったし、何より二人がやる気を出しているのでそれを楽しみに待つことにしたのだ。
イスナーニも別の道具の作成に取り掛かるといっていたので、後は二人で作成していくことになる。
考助が「二人だけでつくるゴーレムがどんなものになるのか、楽しみにしているよ」と言ったとき、コウヒとミツキ二人の顔が面白いことになっていたのだが、幸か不幸か考助は気づけなかった。
当然その時周りにいたメンバーたちは気づいていたのだが、その顔を見た全員がまたやらかしてくれるんだろうな、というのが共通の考えになった。
コウヒとミツキの二人は、考助に関しては、自重という言葉が存在しないのだ。
こうして一体のゴーレムが塔の管理のサポート要員として加わることになったのだが、このゴーレムの加入が塔の管理において大きな意味を持つことになる。
何度も言うが、固定の作業を他の者に任せられるようになるだけでかなりの時間の節約になるのだ。
この時間的な縛りがなくなったおかげで、さらにいろいろなことができるようになる。
金銭的な意味でもゴーレムを使うことによって発生していないことが大きい。
少なくとも、塔の管理という意味においては、いいこと尽くめのゴーレムだったが、コウヒとミツキが作るゴーレムが今後さらに大きな影響を与えていくのはまだ先の話である。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「ねえ、フローリア。少しいいですか?」
「どうした?」
「あのゴーレムの存在が外にばれたらどうなります?」
サポート一号がお披露目されてから数日たったある日、シルヴィアがフローリアに尋ねた。
「どうもこうも・・・答えなくてもわかるだろう?」
「わかりますが、具体的に聞きたいのですわ」
あのゴーレムがとんでもない存在だというのはわかる。
だが、実際どれくらいの影響を与えるのかをきちんと知っておきたいのだ。
ちなみに、この場にはシュレインとピーチ、コレットもいた。
「なるほどな。・・・うーん、といってもな」
しばらく腕を組んでどういうべきか考えていたフローリアだったが、ちょうどいい例を思いついた。
「聖職者の目の前で、その交神具を使って見せるくらいじゃないかな?」
「・・・・・・よくわかりましたわ」
人によっては喉から手が出るほどほしがる物ということだ。
しかもあのゴーレムは、交神具と違って使うものを選ばない。
どんな人間でも使うことができるのだ。
存在が広まれば、大騒ぎになることは間違いないだろう。
「管理層から出れないようになっているのが幸いだの」
シュレインの感想に、全員が頷いた。
誰かが一緒に転移門を通れば別だが、自発的に通ることはできないのだ。
「とりあえず管理層だけで動いている分には問題ないのだから、これ以上考えるのは止めましょう」
コレットの言葉に、全員が同意した。
だが、この見込みの甘さをこの場にいた者たちが痛感することになるのは、そこまで遠い未来ではないのであった。
というわけで、今回は考助ではなくコウヒとミツキがはっちゃけました。
たまにはこういうのもいいのではないかと思いますw




