(8) 称号持ちが増えた結果
狼二匹が、神名の入った称号を得てから数日たったある日。
変わらずゴーレムの作成に勤しんでいた考助の元を、今度はワンリが訪ねて来た。
見たことの無い少女二人を連れて。
「お兄様、私の姉妹が神の称号を得たみたいだけど、何かした?」
最初から考助の事を疑ってかかっていた。
「・・・待って。ワンリまでそういう事を言う?」
地味に落ち込んでしまった考助である。
たまたま傍にいたシュレインとフローリアが遠慮なしに笑っていた。
「こらそこ。笑いすぎ。・・・ああ、ワンリ。気にしないで。別にワンリが悪いわけじゃないし、しかも多分今回は、間違いなく僕のせいだし」
二人が笑っているのを見て、自分が何か悪いことを言ったのか気にするワンリの頭を、考助がそう言いながら撫でた。
「それで? その二人、姉妹って言ってたけど?」
「うん。私と同じ狐でお兄様の眷属。・・・なんか神様のお告げを得たとか言っていたから連れて来たの。人に変化できたのもそのおかげみたい」
ワンリの言葉に、彼女の後ろに控えていた少女二人が、コクコクと頷いた。
「なるほど、ね」
ワンリの言葉を疑うわけではないが、念のためスキルのチェックもしてみた。
固有名:キリカ
種族名:大天狐
固有スキル:狐火LV7 噛みつきLV5 回避LV8 察知LV7 言語理解(眷属)LV3 神力操作LV4 天の怒りLV6 水魔法LV4
天恵スキル:変化LV4 念話LV3
称号:考助の眷属 水霊神のお気に入り
固有名:フウリ
種族名:大地狐
固有スキル:狐火LV7 噛みつきLV8 回避LV6 察知LV7 言語理解(眷属)LV4 神力操作LV5 地の怒りLV5 火魔法LV3
天恵スキル:変化LV4 念話LV3
称号:考助の眷属 火霊神のお気に入り
しっかりと称号に、<○○神のお気に入り>と付いていた。
今度は水と火なので、これで四種類コンプリートしたことになる。
以前の時に、遠慮しなくていいとはっきり言ったので、こうなることはある程度予想していた。
狐の眷属に付くとは思っていなかったが、眷属のどれかには付くだろうと考えていたのだ。
「・・・おいで」
未だワンリの後ろに隠れるようにして、考助の前に出てこない二人に、考助が声を掛けた。
この世界に来る前だったら通報されてるかも、とか余計なことを考えていたのだが。
幸いにもそれの考えは誰にもばれなかったのか、キリカとフウリの二人はおずおずと考助の方へと近づいてきた。
その二人をワンリと同じように、頭を撫でてあげた。
考助にしてみれば、単にワンリと同じようにしているだけのつもりだったのだが、その二人にとっては嬉しいことだったらしい。
少し照れたようにはにかんで、されるがままになっていた。
しばらくそれを続けていると、二人が甘えるように考助に抱き付いてきた。
「・・・完全に懐いたな」
「さすが、コウスケだの」
傍で見ていたシュレインとフローリアが何か言ったのだが、考助は聞こえなかったふりをした。
「それで? この子達はこれからどうするの?」
考助は、ワンリにそう聞いた。
そう問われたワンリは、虚を突かれたような表情になった。
ワンリにしてみれば、考助が何か指示してくるだろうと思っていたのだ。
「お兄様が決めないの?」
「いや。ワンリが決めると良い。まあそんなに悩まずに好きにしていいよ。新しい階層に移すとかだったら事前に相談してほしいけど」
考助がそう言うと、ワンリは悩むように考え始めた。
「別に慌てて考える必要はないよ。特に急ぐわけではないんだから。ゆっくり考えて決めると良い」
「わかった」
ワンリはコクリと頷いた。
「なんだったら他のお姉様たちにも聞いてみたら?」
「おー。いつでも相談に乗るぞ?」
「そうね」
シュレインとフローリアも快く同意した。
別に考助の言葉が無くても、ワンリが相談しに来た場合は、即相談に乗っただろう。
別にそれは、シュレインとフローリアに限ったことではない。
女性陣は基本的に、ワンリに対して甘いのであった。
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考助が新しい神名称号持ち二名を愛でているその頃。
一人の女神が悲鳴を上げていた。
「ひー。考助、なんてことしてくれるのよ」
悲鳴の主は、ジャルだった。
考助が呟いた「遠慮しなくていい」という一言で、その対応に追われているのだ。
本来であれば、神名のついた称号を与えるのは、そうそう気軽に出来るものではない。
ステータスという概念は、考助がこの世界に初めて持ち込んだものだが、加護やそれに類似した物を与えるということは、昔から行われていた。
対象の生物が色々な条件を満たすと、その神が加護だったり今回のお気に入り、といった物を与えることが出来る。
そういった物を管理していたのがジャルだったのだが、今まではさほど仕事量としては多いものではなかった。
そもそも女神たち自身が、加護や祝福を与えられる存在を見つけることが少なかったのだ。
だが、今回に関しては話が全く違っている。
普通の加護は、神がほとんど一方的に与える者なのだが、今回は加護や祝福を与えることによって、考助と繋がりを持つという意味合いがある。
何とも打算的なので、本来であれば認められるものではないのだが、それを考助が認めてしまった。
本人が許可した以上、周りがとやかく言えるわけもなく、担当のジャルが悲鳴を上げることになったのだ。
ちなみに、考助はそうした打算的な目的は今のところ何となく察していると言ったところだ。
前回の訪問で女神達の事情も聴いているので、その辺からなんとなく察しているのだ。
まさか裏でジャルがこんな目に遭っているとは考えてもいないのだが。
ジャルの役目は、女神達の申請から加護や祝福を与えるのに条件を満たしているのかを審査することだ。
考助のおかげで、あり得ない程の申請がジャルの元へと届いていた。
今までは一日一件届けばいい書類が、今は机の上に山となっていた。
「しょ、書類審査だけで、一日が終わりそう・・・」
「今まで働いてこなかった分のつけが来たようですね」
エリスの無慈悲な言葉に、ジャルがガバッと身を起こした。
「それについては、断固抗議します!」
「・・・ホウ」
「あ、いや、はい。・・・書類減らさないとならないので、仕事します」
一瞬エリスに睨まれたジャルは、その視線から逃れるように書面へと視線を落とした。
いくら現実逃避をしていても、書類の山は減らないのだ。
ちなみに、エリスがここにいるのは、ジャルが現実という名の書類の山から逃げないようにするための監視なのだが、ジャルはそれには気づいていない。
エリスとしてもこんなことをするつもりはなかったのだが、他の女神達に書類から逃げないように監視してほしいと懇願されて、ここにいたりする。
今いる場所は、エリス達の共通の執務室の為、ジャルは全く疑ってはいなかった。
かといってエリスも安心しているわけではない。
今目の前にいる女神は、脱走のプロなのだから。
今はまだ何とか大人しく仕事をしているが、もし逃げ出そうとした場合は、最終兵器を用意していた。
ちなみに、最終兵器は最後まで使われることは無かった。
エリスが監視の役目をしていたことに気付いているスピカが、それが何かを聞いたとき、スピカの顔が引きつったのだが、幸か不幸かジャルがそれを知ることは無かったのであった。
最終兵器と大袈裟に言っていますが、単に「考助にばらします」という一言を言っただけですw
考助の眷属に与えられるはずだった称号が、ジャルのサボりで与えられられなかったとしたら・・・という話になります。
ちなみに、書類審査に通っても即称号を与えられるというわけではなく、ついでに書類審査も九割以上は没と言う狭き門だったりします。
考助がはっちゃけたのに、いまだ狐二匹にしか付いていないのも、そう言う理由です。
2014/8/18 フウリが地属性になっていたのを火属性に訂正しました。




