閑話 切実な問題
ハクを連れて管理層へ戻った考助だったが、ハクは概ね他のメンバーたちには受け入れられていた。
概ね、というのは、考助が色々と説明に追われて、色々と搾り取られてしまったということによる。
矛先が主に考助に向いていたので、ハクに向けられることはなかった。
流石にこの状況で、仲間はずれとかは勘弁してほしかったので、考助は胸の中でホッとしていた。
他のメンバーにしてみれば、今更一人増えたところで、という思いだったのだが、出自が問題になったのだ。
何しろハク本人が、考助を父親呼びしているのだ。
流石にそれは無視できないことだった。
それも考助から話を聞いて、ある程度納得した。
残念ながらある程度、という微妙なニュアンスは考助には伝わっていない。
それもまた考助らしいという事で、女性陣の間では放置されている。
だが、ハクの存在によって女性たちの間では、ある問題が表面化していた。
考助には気づかれないように、真剣な議論がされていたのだ。
シュレイン、シルヴィア、コレット、ピーチ、フローリアの五人の代表として、シルヴィアが適任という事になった。
適任と言うより、シルヴィアしか出来る者がいなかった。
何がというと、交神が出来ることとなる。
そのシルヴィアは、かなり緊張した面持ちで交神を始めた。
『シルヴィア、どうしました? 今日はいつもより張りつめているようですが?』
交神相手はいつものようにエリサミール神だ。
そのエリスは、シルヴィアの様子がいつもと違っているのに気付いていた。
顔を見合わせているわけでもないのに、この辺は流石神だとシルヴィアはさらに緊張した。
『聞きたいことがあります』
『なんですか?』
シルヴィアは、逡巡した後、エリスに問いかけた。
『私達に子供が出来ないのは、偶然ですか、必然ですか?』
この問いが、女性陣の間で取りざたされた問題だった。
そういう行為をするようになってからまださほど時間が経っているわけではない。
だから別に子供が出来ていなくても不思議ではないのだ。
とは言え、考助を相手にした場合、ある問題が横たわっている。
それは、考助が「現人神」であるということだ。
果たして神と人や亜人たちで子供を授かることが出来るのか、その答えを持つものは誰もいなかった。
そもそも現人神など初めての出現なのだから、答えを得られるわけがない。
だからこそのシルヴィアの出番であり、交神での神からの答えを期待したのだ。
緊張した感じで答えを待つシルヴィアに、エリスはあっさりと答えを示した。
『偶然とも言えるし、必然とも言えますね』
だがその答えは望んだものではなかった。
実に曖昧な物だった。
『どういう事でしょう?』
『事情があって直接答えることは出来ないけれど・・・そうね。教会の巫女であった貴方は、神との間にできた子についての話も知っているでしょう?』
何とも遠回しな回答に、シルヴィアは戸惑った。
『それはもちろん知っていますが・・・?』
『そこから答えを得ることが出来るでしょう』
それはまさしく神託だった。
同時に、これ以上の詮索は無用と言う意味も含まれている。
『貴方たちが正しい答えを得られるよう願っています』
それを示すかのように、その言葉を最後にエリサミール神との交神が途切れた。
残されたシルヴィアは、大きくため息を吐いた。
直接の答えはもらえなかったが、指針としては十分大きな成果があったと思ったのだ。
むしろあそこまで直接的な答えをもらえるとは、思っていなかった。
早速、今聞いた話を仲間たちにすることにした。
全員その回答を待っている。
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「神との間にできた子供の話ね」
シルヴィアから話を聞いて、コレットは大きくため息を吐いた。
雲をつかむような話だと思ったわけではない。
むしろ話が多すぎて、調べるのに手間がかかると思ったのだ。
アースガルドの世界では民間伝承から神話に至るまで、神と人や亜人の間に子供が出来たという話は、そこかしこに存在している。
そもそもそれぞれの種族の祖が、ある神を元に端を発しているという話になっている。
そう言う意味では、種族それぞれにそう言った話が伝わっていると言ってもいい状態なのだ。
「神話や神が関わる話は、それこそ教会の本分ではないのかの?」
シュレインが、シルヴィアにそう話を向けた。
対して、シルヴィアは難しい表情になった。
「本来ならそうなんでしょうが、そもそもその種族の根源に関わる話なので、教会でも迂闊には手を出せていなかったはずですわ」
ある種族の神が、教会によって存在が認められなかった場合は、その種族の根幹にかかわる。
流石にいるかどうかわからない神にまで教会も認定を出せないのだ。
だが、中には種族の誕生に関わっている神でも、教会では存在が公に認められていない神がいたりする。
そもそも教会が認めている神は、ごく一部の神だけなのだ。
「この件に関して、教会は当てにすることは出来ない、ということですね~」
「残念ながらそういう事になりますわ」
シルヴィアの答えに、全員が唸ったが、フローリアだけ一人、他とは違った表情になっていた。
それは、何かを思い出そうとしているような表情だった。
その表情に、ちょうど向かいに座っていたピーチが気づいた。
「フローリアさん、どうかしましたか~?」
「む・・・? いや、何かどこかで見たことがあるような、無いような? 思い出せそうで思い出せないんだが」
先程から何度も首を捻っているが、どうしても思い出せない。
「それは、神の子供についての話ですか~?」
「いや、どうだったろうな・・・?」
「場所はどこですか~?」
「それも・・・いや、そもそも私の行動範囲は城くらいだったから、城だろうな」
何とか思い出させようとしてピーチが色々聞いていたが、フローリアはどうしても思い出せなかった。
「いつぐらいの事とかも思い出せないんでしょうか~?」
「いや、どうだろうな? 恐らく子供のころの事だったと思うのだが」
子供のころ、と聞いたシュレインが、ふと思いついたように提案した。
「だったらフローリアが子供だった時のことに詳しい者に、聞いてみたらどうだ?」
「む? そんな者が・・・あ」
フローリアの言葉に、全員が同じものを思い浮かべた。
すぐにその人物に会いに行くことにしたのであった。
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シルヴィアとコレットの二人で、すぐにアレクに会いに行った。
行政機関の長を務めているとはいえ、塔の管理員である二人はすぐに会うことができた。
「申し訳ありませんわ。どうしてもすぐに聞きたいことが出来たものですから」
「いや。問題ない。そもそも塔の管理者との対応は、私の仕事のうちだからな」
イケメンフェイスをいかんなく発揮して、ニカッと笑ったアレクだったが、生憎二人には通じなかった。
すぐさま本題に入ることにした。
「昔にフローリアが、神との子供についての話について関わったことは無い?」
「神との子供? そう言う話だったら教会の方が・・・いや待てよ?」
アレクもすぐに教会が、そう言った話には深くかかわっていないことを思い出した。
同時にフローリアが、子供だった時のある出来事を思い出した。
「そう言った伝承を集めて回って、本を出版した者が城に来たことがあったかな?」
それを聞いた二人は、思わず唖然とした。
「そんなことで?」
「ああ。いや、出版したのが一冊とかだったら当然、登城とかは無かったんだろうが、その者は生涯をかけて集めた伝承を編纂したらしくてな。最終的には数十冊とかになっていたはずだ」
それはまたそれですごい話だった。
同一のテーマを元に、数十冊も出し続けるという事だけでも稀有なのだ。
「「その人の名前は?」」
「いや、待て。流石に思い出せん。それに確かその人物は登城した数年後には亡くなっていたはずだ」
アレクの言葉に、二人は肩を落とした。
「なんだ、二人の目的はその人物だったのか?」
「どういうこと?」
「たとえ作者が亡くなったとしても、その本は残るだろう? 確か城にも残っていたはずだ」
「あ、そっか。タイトル! そのシリーズのタイトルは?」
勢い込むコレットに、アレクは何とか思い出そうと首を捻った。
「確か・・・『神と神の子供たち』というタイトルだったはずだが」
アレクから本のタイトルを聞き出した二人は、その足でシュミットの元へと向かったのだった。
というわけで、ハクも出たので子供の問題です。
こちらも特に女性陣にとっては、切実な問題だと思います。
半分人とは言え神である考助には、相談できないと思い込んでいます。
だからこそ考助には聞かずに、エリスに直接相談することにしたわけです。




