3話 第十層の現状と思いつき
考助とコウヒは現在、第十層に来ていた。
召喚陣を配置するようになってそれなりの日数が経っているが、自然発生しているモンスターに変化がないかどうかを確認しに来たのだ。
召喚陣は基本的には狐達の討伐用として配置はしているが、それ以外の場所にも設置している。
そもそも召喚されたモンスターがどういう行動を起こすかも確認したかったためだ。
「うーん・・・やっぱりモンスターのレベルが平均的に上がってるな」
「進化・・・とまではいかないまでも、集団をまとめるようなリーダー的な存在も出ているようです」
「という事は、連携とかも?」
「どうでしょう? 種族的な物もあると思いますが・・・それらしい指揮をしている集団もあるようです」
そう言いながらコウヒは、向かって来るモンスターを討伐していた。
「うーん・・・狐達は大丈夫かな?」
「それは問題ないでしょう。そもそも進化している個体の数が多いですから」
「そうか。・・・でもこれで、ある程度モンスターのレベルアップの原因も見えてきたかな?」
まずは眷属用ではない召喚陣を設置してモンスターを召喚すること。
召喚されたモンスターが討伐されることが条件かどうかは確認できない。何しろ召喚モンスターは全て倒されているからだ。
北東の塔のレイスの進化から考えても、考助は召喚モンスターがモンスターのレベルアップや進化に関わっていることは確信している。
考助自身は、これも神の一員になった恩恵かなと思っているのだが、実はそんなことはない。
神になる前から似たようなことをしているのだが、考助はそれには気づいてはいない。
ここまで考えて、一つ疑問が浮かんでくる。
塔の外のモンスターたちはどうなっているのか、ということだ。
そこまで考えた考助は、首を振った。
そもそも自然発生しているモンスターは、その発生条件すらわかっていないのだ。
普通(?)に子をなす場合もあるし、分裂を起こす場合もある。
よくわからないのは、突然その場に発生するということもあるのだ。
これに関しては、考助は何かが召喚を行っているのではないかと睨んでいたりする。
残念ながら召喚だという痕跡だったり証拠のような物を見つけたことはないのだが。
「召喚・・・ですか」
「ああ。誰かは分からないけどね。もしかしたら世界そのものが行っているのかもしれない」
「・・・神々は?」
「さあ、どうだろう? 聞いてみたら答えてくれると思うけど、僕はやってないと思うな」
「なぜでしょう?」
「直接の干渉ができない神々が、そんなことをしているとは考えにくいから」
考助の答えに、コウヒはジッと考えるような表情になった。
「だとすれば、誰が?」
「さあ? まあ、そもそも召喚と言っているけど、既存の物とは全く違っているのは確実だよね。そもそも召喚と呼んでいいのかもわからないし」
考助としては、その場で都合よく生命がパッと誕生することが考えづらいために、召喚としてこじつけているところもある。
それを自覚した考助は、頭を振って考えることを止めた。
「駄目だな。推論ばっかりで、全然意味がない話になっているね。この話はここまでにしておこう」
「はい」
そもそもは、塔のモンスターが進化していることの原因を調べるために、第十層を用意したのだ。
それに関しては、ほぼ答えが出そろったと言ってもいいだろう。
召喚陣から出現したモンスターが鍵になっていることが分かっただけでも十分な成果だ。
勿論それ以外にも条件はあるのだろうが、それを全部確認するのは不可能だ。
普通に進化がされるモンスターもいるのだから、それを一々確認していくわけにもいかない。
長い間かけた実験になったが、ある程度の成果が出たので、考助としては十分である。
今までの実験はこれで打ち切りにすることにした。
理由は単純で、周辺の塔を手に入れたので、これからいくらでも新しい塔で実験できるからだ。
今後の第十層は、狐達の為の階層にする予定だ。
第十層の大体を見終えた考助とコウヒは、管理層へと戻ったのであった。
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第十層から戻った考助を、ワンリが出迎えてくれた。
以前の事件(?)以来、こうしてワンリも管理層へと来るようになってきていた。
「コウスケお兄様、お帰りなさい」
「うん。ただいま」
返事をした考助に、ワンリは首を傾げた。
「・・・あれ? 仲間たちの所へ行ってた?」
「うん。第十層へちょっとね」
「ああ、確認しに行っていたの?」
考助が第十層で、何かを確認していたのはワンリも知っている。
「そうだね。でももうそれも終わりにしたから、あとは自由に召喚とかしてもいいよ?」
権限を持っているワンリは、当然召喚陣を設置することが出来る。
ナナほどではないのだが、ワンリも自分で召喚をしたりしているのだ。
「ほんとに? あそこは数が少ないから増やしたかったんだ」
「そうなんだ。ごめんね、こっちの都合で増やしてあげられなくて」
ワンリは慌てて首を振った。
「ううん。別に数が足りないというわけではないの。ただ、もう少し増えた方が安定して狩りが出来るから・・・」
「そっか・・・取りあえずあとはもう自由にしていいから、好きに召喚していいよ」
「わかった」
ワンリは頷いて、その場から離れた。
早速管理室で召喚を行うのだろう。
考助はすぐには管理室には向かわずに、居間もどきのくつろぎスペースへと向かった。
くつろぎスペースには、ピーチとシルヴィアがいた。
二人に用事があったので、ちょうどよかった考助は、二人に話しかけた。
「ちょうどよかった。二人にやってほしいことがあったんだ」
「どうしました?」
「低階層でいいからというか、むしろ低階層でやってほしいんだけど・・・」
先ほど十層で考えた思い付きを二人に話した。
「それは、いつ思いついたんですか~?」
「いや、今さっき。第十層の結果を見て考え付いた」
考助の答えを聞いて、二人は思いっきりため息を吐いた。
「ピーチはともかく、私の所は実現するのは難しいと思うのですが?」
「や、だから、最初は出来る限りでいいよ。最終的には言った通りにしてほしいけど」
「私のところも、言うほど簡単ではないのですが~?」
「難しいのは分かっているけど、広さ的には二人のところが丁度いいんだよ」
「それに関しては、同意しますわ」
ピーチとシルヴィアの管理している塔は、アマミヤの塔と比べると一つ一つの階層は広さが狭くなっている。
先程お願いした実験をするには、アマミヤの塔の階層でするより格段にやりやすい。
「だったら~。フローリアのところはどうするんですか?」
「勿論後で、お願いするよ。北と南は広すぎるから出来ないけどね」
「そういう事でしたら、何とか実現してみますわ。でも神力をかなり使いますわよ?」
「その辺は、必要経費ってことで。・・・まあ、本音はアマミヤの塔の管理が、最近妖精石以外は行き詰まっているから。これがきっかけになってくれればいいと期待してたりする」
ぶっちゃけた考助に、二人は呆れたような表情を見せた。
「それは、成功前提になっていませんか?」
「いや、なってないよ。勿論上手くいってくれればそれに越したことは無いけど、重要なのは途中経過だから」
その中で何か応用できるようなことが見つかれば、万々歳と考助は思っていた。
「まあ、そういう事なら引き受けますわ」
「私も~」
二人に同意されて、ほっと胸をなでおろした考助である。
もし断られれば、考助自身が北西の塔で実験することさえ考えていた。
あとはフローリアにも確認するつもりだが、最悪断られても二人がいるので、自分が手を出す必要はないだろう。
願わくば、フローリアも実験に参加してほしいと思う考助なのであった。
なにか、思わせぶりに書いていますが、基本メンバーたちが塔に関わることで考助のお願いを断ることはありません。
なにせ信じられないくらい短い期間で、塔LVを十まであげた成功者ですから。
・・・普段がどうであれ。




