1話 クラウンの現状
第十五章開始します。
セントラル大陸の東西南北の都市に、クラウンの支部を作ると正式に発表されたのは、考助が簡易版の神能刻印機を持ち込んでから半月後の事だった。
四つの都市に同時に支部を立ち上げるのに、半月と言う短い時間で出来るのか疑問に思った考助だったが、それにはワーヒドが一言で答えた。
「もともと検討していたので、あとは実際の手配だけで済んだんです。場所に関しては向こうが勝手に用意してくれましたから」
「・・・それはそれで怖い気がするけど?」
「まあそうでしょうね。ただ、それはどこに作っても同じでしょう」
塔と言うアドバンテージを持っているクラウンは、短期間で一気に成長した。
そのクラウンに対して警戒心を持つのは、むしろ当たり前なのだ。
その辺は考助も分かっているので、咎めるつもりはない。
というより、それくらいの事をしてこないと逆に心配になる。
「監視とかはともかく、裏切りとかは大丈夫なの?」
「そればかりは、予測のしようがありません。全員奴隷を使うとかならともかく、そうでないのなら防ぎようがありませんので」
組織を運営する以上、人を雇わないといけないのはどうしようもない。
ある程度の人数が揃えば、どうしたって問題を起こす者は出てくる。
全員が忠誠を誓う組織など、洗脳されているか、脅されているかのどちらかだろう。
「勿論、クラウンが魅力的な組織になればなるほど、抑えることはできます」
「苦労を掛けるね」
実際に運営をしているのはワーヒドで、考助は時々口を挟むだけなのだ。
「いえいえ。私は楽しんでますし、それに今後は今までよりは、もう少し楽になりますしね」
「え? そうなの?」
「・・・実際に神が関わっている組織など、他には教会くらいしかないですからね」
ワーヒドの言葉に、考助は忘れていたという表情になった。
考助が現人神であると公表されてから、既にそれなりの日数が経っている。
クラウンは考助が立ち上げたということは、当初から知られている。
そのためにクラウンが、神が関わっている組織だと認識されているのだ。
「おかげで、いい人材が集まりました」
そう言って笑うワーヒドに、考助はため息を吐いた。
未だに神という立場でどう立ち回っていいのか分かっていない考助だったが、現人神という肩書が役に立つならそれもいいかと思い直すことにした。
考助は、新支部の人材採用には関わっていないのだが、ワーヒドがそう言うのなら問題ないのだろう。
「まあ、クラウンの役に立つのならいくらでも使ってもらっていいけどね。あまり変なことには使わないでね」
「当然です。お忘れかもしれませんが、貴方は私の主なのですよ? それに、虎の尾を踏む気はありません」
ワーヒドはそう言って、考助に付いてきたコウヒを見た。
「それならいいけどね。・・・それで、新支部はいいとして、ケネルセンの六侯達はどうなったの?」
「例の馬鹿者を排除したので、問題が無いと判断しました。あとは許可さえいただければいつでも受け入れは可能です」
「立場的にはどういう扱いにするの?」
「いっそのこと新しい部門として生産部門を作ろうかと考えています」
いままで農作物関係は、工芸部門にまとまっていたが、一大生産地であるケネルセンが実質傘下に入るために、そう言うわけにもいかなくなった。
それならいっそのこと新しい部門として立ち上げようということになった。
「なるほどね。でも、統括はどうするの?」
「何。最近は組織として安定しているために、統括達はさほど忙しくないのですよ。今まで通りティンに兼任させようかと思います」
今までの考助とワーヒドの話は、統括達も聞いていた。
当然ティンもその場にいたのだが、名指しで指名されたときは、ゲッという表情になっていた。
ついでに周りにいたサラーサやドルは、含み笑いをしていた。
「そう。ティン任せたからね」
「は、はい!」
考助に呼びかけられたティンは、表情を改めて返事をした。
「それで、部門長はどうするの? 六侯達の中から選ぶの?」
「それは、難しいところですね。今までケネルセンは六侯という形でまとまっていましたから、いきなりトップを立てて上手くいくかどうか・・・」
「なるほどね。といっても、いくら転移門ですぐ来れるとはいえ、第五層とは離れた場所で生産するんだからこっちにも人はいるよね?」
「確かに、その通りです。ですので、その辺は六侯達と詰めていく必要があるでしょう」
町ごと丸々傘下に入ったために、しばらくの間は試行錯誤が続くことになるだろう。
「町の人たちの様子は?」
「それも大したことはありませんね。流石にはじめのうちは動揺もありましたが、今は落ち着いています。この辺は、流石六侯と呼ばれているだけのことはあります」
動揺が最低限になるように、六侯達が力を使って抑え込んだのだろう。
別に武力を使ってと言うわけではない。
噂話を意図的に流し込むだけでもある程度の誘導が出来る。
その噂話の中に、フェルキア卿の話も混ざっていた。
考助に対して悪意を見せた場合は、どういった末路になるのかをフェルキアを使って結果を示したのだ。
「なるほどね。・・・それで、第五層の農地開拓は進みそう?」
「それは間違いなく進みますね。流石に長い間開発に関わってきた六侯です。今までとは比べ物にならないですよ」
「そうか。これで食料が増えて少しでも人口が増えてくれればいいけれど」
考助が言っているのは、別に第五層の町に限ったことではない。
大陸全体で人口を増やすことが出来れば、今の大陸の状況を変えることが出来るのではないかと期待しているのだ。
もっともかなり先の長い話になるのだが。
「まあ、それはいいや。それで、ミクセンはどうなっている?」
「それに関しては、デフレイヤ一族の報告を見た方が早いでしょう」
ワーヒドはそう言って、書類を出して渡してきた。
そこには現状のミクセンの様子が書かれていた。
ミクセンの三神殿は、正式に現人神である考助を祀り祈ることを認めた。
といっても現状では考助の神としての功績は、ほとんどないに等しい。
あるとすれば、ようやく冒険者たちにクラウンカードのステータスが考助の恩恵であると認識され始めたくらいである。
ステータスに関しては、冒険者たちには爆発的に広がっているが、一般の社会ではそれほど広がっているとは言えない。
一日に作れるカードの数に限りがあるために、まだそこまで広がっていないのが原因だった。
神能刻印機が二台に増えたとはいえ、未だ待ち状態は解消されていないので、冒険者以外の者達の手に渡るのは当分先になるだろう。
町の中だけで生活していく分には、ステータスなど必要ないので、広がっていくかは未知数とも言える。
結局のところミクセンの町では、さほど大きな変化が起こったわけではない。
だがその書類には、しっかりと他の大陸の教会勢の動きに注意と書かれていた。
かといって考助に何かが出来るわけではないので、放置するしかない。
後は教会勢同士で勝手にやってくれ、といった心境だった。
「ふーん。・・・まあいいや。取りあえず様子見でいいや。向こうから何か言って来たら教えて」
「わかりました」
「とりあえず聞いておきたい事は、こんなものかな? ワーヒドは何かある?」
ワーヒドは少し考えた後首を振り、統括達三人とエクに確認を取った。
四人そろって首を振ったため、今回の話し合いはこれでお開きとなった。
一応塔の周辺の状況を含めた状況報告でした。
次回以降はアマミヤの塔と周辺の塔の状況確認です。




