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5話 レクレス


俺達は子供達をレクレスまで送って、すぐにナデアの後を追うことにした。

極細化学物質感知センサーを使い、ナデアの体から出た微小の化学物質、つまり臭いを追う。

レクレスは俺から見たら何とも原始的な集落だった。まず、驚いたのは機械が少しもないことだ。俺の故郷、グリジオンは全てが機械で制御された星だったし、他の星も全てが機械ということは無くても、それなりに機械化が進んでいた。この世界はどうやら科学技術に関しては二千年は遅れているようだ。






ナデアを追っていると、どうにも周囲の視線が集まっている気がしてならない。


「周りから注目されているようですね。」


フィオルは気に入らないのか、こちらを見ている人たちを睨み返していた。


「仕方ないさ、俺達は新参者だし、外見が人間そっくりらしいからな。

まぁ、俺にはここにいる人達との違いが分からんけど。」


俺は今まで数多くの知的生命体に接触してきた。その中には俺達に似たような外見を持つ奴からまったく似つかない異形の生物まで数多く存在した。

それに比べれば、尻尾があったり耳があるのなんか違いの内に入らないと思うのだが。まぁ、それは俺達の価値観なので何とも言えない。


「後は、フィオルが綺麗だからじゃないか?」


俺が冗談まじりでそう言うと


「隣のカオル様の顔がスケベだからじゃないですか?」


と、かなり真面目な顔で返されてしまった。若干お腹の下あたりを手で抑えているのが何とも痛々しい。

昨日は本当にやりすぎたな、反省反省。止める気は無いけどね。









*****


それは一瞬のことだった。俺達は相も変わらずナデアを追っていた訳なのだが、いきなり俺の視覚の隅に何かが映った。

音響立体図はまだ発動中だったにも関わらず音響立体図には何も映っていなかった。


音速より速いのか!?


確かに音速より速く動ければ音響立体図には映らない。しかし、まさかそんな奴がいるとは思わなかったからこれは想定外だった。


ここまでの思考を刹那で終わらせ、俺は仕方なく生命エネルギーで賢者の石からエネルギーを取り出す。なぜなら、視界にちらりと入ったそれが刃物のような何かを持っていたからだ。

俺は今出せる最高速度でフィオルと襲撃者の間に入った。



「やめろ。」


その一瞬が過ぎて俺は襲撃者に脇腹に刺さされながら、襲撃者を遥かに凌ぐ速度で襲撃者を排除に向かったフィオルの毒の剣を襲撃者の首ギリギリのところで握って阻止していた。


「か、カオル様?」


「フィオル、この者を敵と決めつけて殺すには些か気が早いだろう。」


襲撃された時点で敵だと思う者もいるかもしれないが、俺達がそれをしてしまうと下手したらこの星が消えてしまう。

俺はしばらくはここに腰を据える気でいるのだから消えてもらっては困る。




脇腹に大きな穴を開けた状態で俺はフィオルに言い聞かせる。フィオルは俺のことになるとやりすぎる事が多いので困ったものだ。

今も俺が止めなければこのレクレス全体が腐敗していただろう。


「貴様、何故俺を助けた?」


俺の後ろから困惑した声が聞こえた。どうやら俺を襲った襲撃者のようだ。

振り返ってみると、そいつは額から角が生えた男だった。



「ごめん俺達は急いでるから。

あ、ちなみに俺達はナデアの友達で人間じゃないよ。」


俺はそれだけ言い残し、腹に刺さっている剣を引き抜いて本心状態のフィオルの手を引いて再び走り出した。こんなことをしている暇はないのだ。




*****


「ここか。」


臭いを追って辿り着いたのは他の家よりも随分と大きな木製の建物だった。


「私はどうすれば………」


未だにさっきの事を引きずっているフィオル。このままでは使い物にならない。


「フィオル、後で罰を与える。だから今はこれからのことに集中しろ。」


俺達の間では、悪いことや失敗をすると、罰を受けて償うというのが暗黙の了解となっている。逆に言えば罰を受ければ、その失敗は赦されるということだ。


「……分かりました。どんな罰でも受けます。」


さて、今夜はどんなプレ……ごほん、罰を受けさせようか、今から胸が高鳴るぜ。






扉を開けて屋敷に入り、ナデアを探す。

臭いを辿っていくと、他の部屋の扉と比べて装飾が高価そうな扉に辿り着いた。おそらく、ここが屋敷の家主の部屋のだろう。


「………………」


扉を開けると、そこは重くて暗い雰囲気に包まれていた。たくさんの人がベッドを周りにいて、泣いていた。屋敷中の人間がこの部屋にいるのだろう。道理で途中で誰にもすれ違わなかった訳だ。


「貴様、何者だ!?

何故、人間がここにいる!!

何故、クレシア様を殺した人間がここにいるんだ!!」


まるで感情を爆発させるかのように、俺に気付いた男が怒鳴り散らす。


「おいナデア、そいつがクレシアさんか?」


俺はそいつを無視してベッドで突っ伏しているナデアに話かけた。


「貴様、人間がナデア様に気安く話かけるな!!」


「みんな、静まってくれ。

その者は私の命の恩人だ。それにそいつは人間にそっくりだが人間ではない。」


ナデアは立ち上がり、俺のもとに歩いてくる。

目元は赤く腫れ上がり、その表情は精気を感じさせない。俺の知っているナデアとはまるで別人だ。


「すまない、放っておいてしまって。用事は……無駄に終わってしまった。

クレシア様は先程、息を引き取った。」


ナデアの目からはとめどなく涙が流れ出ている。


「ついさっき死んだのか?」


「あぁ、解毒剤を処方する時間もなかった。」


よっぽど悔しいのか、顔を歪めて、苦しそうだ。



「よし、取引をしよう。」


「取引?」


「クレシアさんを助けてやるから、宿と飯をただで提供してくれ。」


俺の言ったことがうまく理解できないのか、ナデアはなかなか反応を示さない。


「え?頼む、もう一度言ってくれ。」


「だから、クレシアさんを助けてやるって言ってるんだよ。」


今度こそ理解できたのだろう。その瞳に希望の光が輝きだした。


「で、できるのか?」


「俺の科学をなめんなよ。」


"俺の科学"といったのにはちゃんと理由がある。

俺は進化する機械として作られた訳だが、その進化のスピードが制作者の遥か上を行っていた。そのため、俺が使う科学は科学技術開発の最先端であるグリジオンですらオーバーテクノロジーに指定する程だ。

確かに、グリジオンの科学技術ならクレシアはもう手遅れだろう。だけど、俺なら、俺の科学ならまだクレシアを助けられる。


「嘘だ!!」


またもや、扉の近くにいた男が叫ぶ。さっきから煩いな、この男。


「黙れ。」


それはナデアの静かで、穏やかな言葉だったが、なぜだか逆らえないような力を持つ言葉だった。


「じゃ、みんなには一度、出て行って貰うよ。

で、部屋の中を絶対に見ないこと。」


それは絶対条件。これからすることを誰かに見せたくはない。


「分かった。ただし、私は立ち会わせて貰う。」


ナデアの瞳にはそれだけは譲れないという確固たる意志が現れていた。


「別にいいけど、誰にも言うなよ?」


「分かっている。」


いきなりの前言撤回。仕様がない、美人には弱いんだ。









そしてナデアの誘導で部屋の中には横たわっているクレシアと俺とフィオルとナデアだけという状況になった。

余談だが、横たわっているクレシアは肌の色が濃くてかなり綺麗な人だった。胸はフィオルよりも大きい。



「さて、少し急がなくちゃね。

フィオル早速、毒だけ抜いちゃって。」


「分かりました。」


フィオルは一度クレシアに向かって腕をかざし、すぐに戻した。


「終わりました。」


「相変わらず、原理が全く分からないな。」


流石は超能力。ミステリアスだ。俺でもあんなに早くはいかない。

ナデアは俺達の後ろで驚いてはいるが、疑問や質問を口には出さない。始める前にそういうのは後にしてと言ってあるからだ。


「次は俺だな。」


俺が今からするのは禁技。賢者の石のエネルギーを使用するオーバーテクノロジー。神の域に足を踏み込む禁じられし技。故に用いられるのは神器。


「【死を無視する祈り(クレイジーグレイ)】」



右腕が銀色に輝き、形が変わる。そして半液体のようになった俺の右腕は最早その原形を留めてはいない。これが【死を無視する祈り(クレイジーグレイ)】。俺の体を媒体とした神器だ。

生み出された【死を無視する祈り(クレイジーグレイ)】でクレシアを包み込む。

機械に、科学に許された限界を軽く超えるその力はクレシアの体の損傷を瞬く間に直していく。

足の健が繋がり、目が直る。体中の細胞を蘇らせ、エネルギーを与える。

一番厄介な脳の損傷も、残っていた脳細胞を解析し、そのパターンを割り出して最適な状態で修復していく。それはまるで、額縁のあるパズルをピース1つを手掛かりにして残り全てを自作したピースで完璧に完成させるような困難なものだ。不可能のように思えるこの作業を俺の科学は可能にする。






*****


「よし、終わった。」


時間にして10分程だろうか、クレシアの体は完全に元に戻った。


「ほいよっと。」


俺は最後の仕上げとばかりに指を鳴らす。それを合図にクレシアの心臓が動き出し、呼吸を開始した。


「まさか、まさか本当にクレシア様は助かったのか?」


未だに信じられないという風に、しかし期待に満ちた顔で、ナデアはクレシアのもとに駆け寄った。

ナデアの頬は今度は嬉し涙で濡れていた。



「よか、った…な…」


あ〜、やべぇ。生命エネルギーを思ったよりも使いすぎた。塞いどいた傷口も開いたみたいだ。

開いた傷口からは銀色の液体、俺の生命エネルギーが漏れ出しており、案外危険な状況だ。

俺はそのまま倒れ、意識を失った。


「カオル様!!!」


意識を失う寸前、フィオルの悲鳴のような声が頭に響いた。












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