1.貴族の令嬢と護衛のメイド
揺れる馬車の中――向かい合う二人の少女の姿があった。
一人は黒を基調とした衣服に白いエプロン――いわゆるメイド服に身を包んでいる。
肩にかかるくらいの灰色の髪、そんな髪色と同じ色をした瞳――少女、リオ・ルーエンは目の前にいる少女を見つめていた。
長い金髪は少しウェーブがかかっていて、瞳の色は宝石のように美しい碧色。
緑を基調とした衣服は彼女が通っている魔術学園が指定しているものだが、身に纏う衣服は学生服であっても気品を感じさせる。
少女の名はフィーナ・ヴェルター――ヴェルター家の令嬢であり、リオはそんな彼女に仕える従者だ。
「! 止まって!」
不意にフィーナが窓の外を見ながら、馬車を操る御者に向かって声を掛けた。
すぐに馬車が止まると、フィーナは外へと出て行く。
「お嬢様――」
リオが声を掛けるが、そのままフィーナは駆け出した。
リオは小さく溜め息を吐きつつ、その後に続く。
フィーナはというと、何やら泣いている小さな子供のところへと向かっていた。
どうやら迷子のようで、フィーナはしゃがんで子供と視線を合わせて話す。
「大丈夫? 迷子になっちゃったの?」
「……うん」
「じゃあ、お姉さんが一緒に探してあげるねっ」
「でも、知らない人についていったらダメってお母さんが……」
「お母さんとの約束が守れて偉い! じゃあ、お姉さんとしばらくここで待とう? その間にお友達になれるといいな」
「……それなら、いいよ」
フィーナが優しく声を掛けると、子供は落ち着いた様子を見せた。
そうして、フィーナは子供の手を引いて、すぐ近くにあったベンチに座ろうとする。
これは彼女のいいところでもあり、同時に悪いところでもあった。
「いきなり飛び出すのは危険ですよ」
そんなフィーナに対し、リオは小声で話しかけた。
――子供には聞こえないように苦言を呈する。
勝手に飛び出した上に、子供と一緒にいる約束までしてしまうとは。
フィーナは申し訳なさそうな表情をしつつも、
「でも、泣いていたから……」
そう、言い訳するように答えた。
泣いていたから――単純な理由ではあるが、それが彼女の行動原理。
「お人好しもいいところですね」
リオが淡々とした口調で言うと、フィーナは苦笑いを浮かべていた。
子供が泣いているのを目撃したからといって、馬車を止めて飛び出すような令嬢もそうはいない――だが、フィーナはベンチに座ると、リオの顔を見つめて言う。
「でも、何かあったとしても――リオが守ってくれるよね?」
随分と調子のいいことを言ったものだ、とリオは呆れた表情を浮かべた。
守ってくれるからといって、勝手なことをしていい理由にはならない。
けれど、彼女の言葉に間違いはなく――リオは頷く。
「それがわたしの仕事ですからね」
その言葉を聞いて、フィーナは嬉しそうにしていた。
あまり帰りが遅くなるのは問題なのだが――結局、迷子の母親が迎えにくるまで、リオも付き合うことになる。
リオにとって、フィーナが守るべき存在――ただ、それはあくまで仕事の一環。
貴族の令嬢と護衛のメイド――二人はそういう関係にあった。




