新たなる門出、増えた「家族」
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
8月の澄み渡る青空の下、ひよりの新たな生活が始まろうとしていた。
今回の引っ越しは荷物がそれほど多くないこともあり、また「息子の城をこの目で見ておきたい」という父・慶一郎の強い希望で、彼が自らレンタルした小型トラックで荷物を運ぶことになった。
出発前、三上家の玄関先に荷物を積み終えたところで、ひよりは一呼吸置いて家族を呼び止めた。
「みんな、出発する前に紹介したい人がいるんだ」
ひよりが視線を送ると、トラックの影から一人の男が歩み出た。
「この人は涼。俺の頼れる副官だ。初めて『招集』のスキルを使った時から、ずっとついてきてくれている、俺の大切な『家族』なんだ。他にも仲間はいるけど、一人は後で合流するし、他はまたの機会にね」
鋭い眼光に、鍛え上げられた体躯。
ひよりの副官、涼だ。
彼は三上家の面々を前にすると、その場に崩れるように正座し、深く頭を下げた。
「ボスのご家族の皆様。いつもお世話になっております、涼と申します。これからも微力ながら、精一杯努めさせていただきます。よろしくお願いします!」
地面に額がつくほどの深い礼。慶一郎はその様子をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「なるほど。……涼くん、顔を上げてくれ。ひよりはね、君や他の仲間たちを守りたいという一心で、日々命を懸けて努力をしている。私は親として、ずっとそれを見てきた。そのひよりの想いを君が汲み取ってくれるなら、これからもひよりの傍にいてやってほしい。私の、大切な息子なんだ。頼む」
「……っ! はい! いつまでもお傍にいさせていただきます!!」
涼の声が震える。その横から、小春がひょいと顔を出した。
「ひよちゃんの家族ってことは、もう三上家の家族でしょ? よろしくね、涼兄ちゃん!」
「……え?」
涼の動きが止まった。これまで数多くの荒くれ者の構成員をまとめ上げてきた強面の男。
だが、敬愛するボスの妹から、無垢な笑顔で「涼兄ちゃん」と呼ばれた瞬間、その目から熱いものが溢れ、頬を伝った。
「涼……? 大丈夫か?」
「小春様……! この涼を、兄と……っ。なんでもお申し付けください! お父様、お母様! 私が、この三上家すべてを、命に代えてもお守りいたします!!」
「ははは、元気が良くていいな。涼くん、酒は飲めるか? ひよりの新居で一杯どうだ?」
「お父様、ありがとうございます! 喜んで頂戴いたします!」
「ねぇ、パパ? パパが飲んじゃったら、誰が運転するの?」
華世がふんわりと突っ込むと、小春が笑って続けた。
「また今度みんなで行けばいいじゃん! 神楽坂はお父さんとお母さんの思い出の場所の近くなんだから。ね、ひよちゃん?」
「もちろんだよ。涼、父さんに付き合ってあげて」
「はい! 喜んで!」
.........
トラックは順調に進み、神楽坂近くの新居に到着した。
玄関の鍵を開けて中から出てきたのは、透だった。
彼女は三上家の一行を認めると、居住まいを正して深々と頭を下げた。
「白鷺透と申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。ひよりさん、そして副官の涼たちと共に探索をさせていただいております。これからひよりさんと生活を共にしますが、探索者である前にひよりさんは学生です。ご安心いただけるよう、私が責任を持ってサポートいたします。よろしくお願いいたします」
その凛とした挨拶に、慶一郎は温かな微笑みを浮かべた。
「透さん。これからひよりと、涼くんをよろしくお願いします。……それと、君もひよりが選んだ『家族』なんだよね? ということは、君は今日から三上家の家族だ。遠慮なく、我々を頼りなさい」
「……お父様。ありがとうございます」
「凛ちゃんに透ちゃんに、ひよりには可愛いお友達がいっぱいでお母さん嬉しいわぁ。透ちゃん! 連絡先教えて? 仲良くしましょうねぇ」
華世が弾んだ声で透の手を取ると、透も「こちらこそ、お母様」と穏やかに微笑み返した。
そこに、小春が目をキラキラさせて詰め寄る。
「ひよちゃん、こんな綺麗な彼女いたの!? モデルさんみたい……!」
「彼女じゃないよ! 涼と同じ、大切な家族だよ」
「涼兄ちゃんがいて、ひよちゃんがいて……あ、透お姉ちゃん! 今度一緒に買い物付き合って! 私、実はずっとお姉ちゃんが欲しかったの!」
その瞬間、透の身体が上を向いたままプルプルと震え始めた。
「透? どうしたんだ?」
ひよりが覗き込むと、透は感極まったような顔で天を仰いでいた。
「……こんな可愛い子に、お姉ちゃん……っ。よし、小春! お姉ちゃんがどこへでも連れて行ってあげるからね!」
涼がその横で、深く頷いた。
「透……お前にもわかるか、この胸の温かさが」
「副官もか……。いいものだな、家族というのは。……あ、私も副官のこと、『涼兄ちゃん』って呼ぼうか?」
「やめろ!」
言葉とは裏腹に、涼の口元は緩みっぱなしだった。
「さあ、さっさと荷物を入れてご飯を食べに行こう。人数の増えた三上家で、初めての食事だ」
慶一郎の号令で、作業が再開された。
嬉しそうに重い荷物を運ぶ父と、その背後で一歩も引かずに荷物を持つ涼。
母と小春の間で、楽しそうに談笑しながら小荷物を運ぶ透。
ひよりは、両親への深い感謝を胸に、重い荷物を軽々と持ち上げた。
自分を偽る必要のない、本当の「家族」が結集した場所。
この古い一軒家が、一番温かい拠点になることを確信しながら、ひよりは一歩、新しい家の敷地を踏みしめた。
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