世田谷ダンジョン、攻略再開
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「……うわぁ、やっぱり落ち着くというか、なんというか」
世田谷ダンジョン。地上にそびえ立つ、近代的な支所の建物を見上げて、ひよりは小さく安堵の息を吐いた。
大田区・蒲田駅前ダンジョンへの遠征。
そこで得たものは大きかったが、やはり慣れ親しんだこの空気、この街の匂いが、ひよりにとっては唯一無二の「ホーム」だった。
自動ドアを抜け、清潔感のあるロビーに入ると、受付の奥から弾んだ明るい声が響いた。
「三上くん! 久しぶり!」
カウンターの奥から身を乗り出し、満面の笑みで手を振ってくれたのは、顔馴染みの受付嬢、西川那奈さんだった。
「久しぶりです、西川さん。ただいま戻りました」
「もう、急にいなくなるんだから心配したんだよ! ……あ、会いたかったよ!」
西川さんがカウンター越しにひよりの手をぎゅっと握る。
その温かさと、自分を待っていてくれた人がいるという事実に、ひよりの胸の奥がじんわりと熱くなった。
彼女にとってひよりは、まだ「頑張り屋で可愛らしい少年探索者」の一人に過ぎない。
その無垢な善意が、いつも殺伐としたダンジョン帰りの心に染み渡っていた。
「あはは……すみません。これ、大田区のお土産です。あっちで有名な煎餅、買ってきたので」
「わぁ、嬉しい! 三上くんは相変わらず優しいね。……でも、本当に気をつけてね? 8層からはスケルトンの連携がすごく厄介になるって報告が入ってるから。……無理は厳禁だよ?」
「はい。今の俺なら、きっと大丈夫です。……行ってきます!」
西川さんの心配そうな、けれど背中を押してくれるような温かい声援を背に受け、ひよりは一人で地下へと続くゲートを潜った。
ひんやりとした静謐な空気が肌を刺す、世田谷ダンジョン内部。
他の探索者の気配がない「安全圏」
ひよりは自身の足元に伸びる影を見つめた。
「……みんな、出ておいで」
その一言。
刹那、左手の指輪が眩く発光し、そして足元の影が生き物のように不気味に、そして力強く波打った。
そこから次々と、世田谷の静寂を塗り潰すような「威圧感」を纏った者たちが現れる。
まず現れたのは、巨岩のような体躯で周囲を圧するライくん。
続いて、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を纏うフウくん。
そして、隙のない動きで周囲を警戒する4名の黒スーツの「構成員」。彼らは蒲田での進化を経て、もはや粗暴なチンピラの面影はなく、洗練されたプロの顔つきをしている。
最後に、気合の入った「チンピラ」たちが16名。
総勢22名。ひよりを中心としたその光景は、一瞬にして安全圏を「暴力の拠点」へと変貌させた。
「ボス、準備は整っております。いつでも動けます」
眉上に傷跡がある構成員の1人が、感情を排した冷静な声で告げる。
さっきまで西川さんと笑い合っていた「大学生の三上くん」の顔は消え、そこには冷徹なまでに合理的な組織の長としての瞳があった。
「よし、みんな。今日は二手に分かれよう。……フウくんはBチームを引き連れて、別ルートの探索と魔素の収集をお願い」
ひよりが指示を出すと、フウ率いる別動隊は音もなく闇の中へと消えていった。
残ったAチームを引き連れ、ひよりは8層の攻略へと歩を進める。
1時間ほど進んだところで、ひよりの【察知】が激しく警鐘を鳴らした。
前方の広場から聞こえる、金属音と悲痛な叫び声。
「リーダー! 盾が……盾がもう保たないよ!」
「クソッ、ここで終わりかよ……! 頼む、お前らだけでも逃げろ!」
そこには、武装したスケルトン20体以上に包囲され、絶体絶命の窮地に立たされた4人組の若いパーティがいた。
必死に仲間を庇い合い、震える手で武器を構える彼らの瞳には、死への恐怖が色濃く浮かんでいる。
スケルトン・アーチャーたちが一斉に弓を番え、骨の矢が彼らの命を奪おうとしたその瞬間。
ひよりは、静かに、けれど戦場全体に響き渡る声で口を開いた。
「……みんな。あそこの人たちを、助けてあげて」
その神託のような命令に、背後に控えていた影たちが一斉に地面を蹴った。
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