第八十五話 幕間、エリサの視た風景
今日はアリスさんが王城でエカテリーナ様とのお茶会の日だ。
「どうぞ、エリサ様。お紅茶です」
「あ、ありがとうございます、メアリさん」
コト、っと目の前に置かれた紅茶のカップと、メアリさんの微笑みは何時まで経っても慣れない。まあ、私なんて『紅茶』と言えば自販機やコンビニ、頑張ってもティーパックの紅茶ぐらいしか、しかも自分で淹れてたのが当たり前で、こんな綺麗なメイドさんに紅茶を淹れて貰う事なんてなかったからね。緊張だってするってもんだ。
「……ふう……今日も疲れたな~、ジーク」
「そうだな。エディはどうだ?」
「……疲れはしたが……まあ、王城で政務の真似事をするよりは幾らかマシだな。こちらの方が気が休まる」
そう言って三者三様、紅茶を飲むジークさん、ラインハルトさん、エディさん。うん……流石、るーびん先生の神イラストだけあって顔面のプリントの造形は非常に宜しい。
「……エリサ嬢はどうだった? 少しは慣れたか?」
「へ? わ、私ですか? は、はい! 皆さん、よくしてくれますので」
眼福、眼福なんて気持ちで三人のイケメンショタを眺めていると不意にジークさんから声を掛けられ、私はあわてて答える。
「困った事はねーか? もしあるなら言えよ? なんでもしてやるとは言わねーけど、出来る事ならしてやるからさ」
「……そうだな。サルバート公爵家で不便な事があれば言ってくれ。改善するように努めるから」
心持、心配そうな顔をしてそう言ってくれるラインハルトさんとエディさん。そんな二人に笑顔を返して『大丈夫です』と言って――
「……エディ? それはサルバート家がエリサ嬢に不便を強いているという事か?」
「……そうは言って無い。言って無いが……サルバート家は我が国でも最大規模の大貴族だぞ? この言い方はアレだが、平民だったエリサでは慣れない事もあるだろう、という配慮だ。うがった見方をするな、ジーク」
「そっか? 俺もジークの言った様に聞こえたぞ? なんだよ、エディ? お前、サルバート家がエリサをイジメてるみたいな言い方するなよ」
「そんな言い方はしていない。というか、脳筋は黙っていろ」
ジト目を向けるエディさん。そんな視線を受けて、ラインハルトさんがニヤッと笑う。
「……ふ~ん。なーに焦ってんですか~、エディさん? あれ? あれあれ~? もしかしてビビってる?」
「……何を怯える必要がある」
「だって、サルバート家を……アリスの実家を疑ってるって事だろ? アリス、悲しむだろうな~」
「そ、そんな事は言って無いだろう!! 考える頭が無いヤツは黙っていろ!!」
慌てた様にエディさんがラインハルトさんを制し、その後、少しだけ不安そうに私を見つめる。
「そ、その……」
「……分かっていますよ。エディさんが私の事を気遣ってくれただけで、別にアリスさん……というか、サルバート家を疑った訳じゃないって事は。というか、ラインハルトさんだって分かっているでしょ? もう! そうやって直ぐに煽っちゃメ、ですよ!」
私の言葉にペロッと舌を出して、『わりぃわりぃ』と言って見せるラインハルトさん。あ、これ、反省してませんね?
「……アリスさんに言っちゃおうかな~。ラインハルトさんとエディさんが喧嘩してました~って」
「ちょ、エリサ!? それはやめろ!!」
「え、エリサ!! わ、私は悪く無いだろう!! 悪いのはラインハルトだろう!?」
はい、俗にいう『チクリ』というやつです。そんな二人を涼しい顔で見ているジークさんにじとーとした目を向ける。その視線に気付いたのか、ジークさんが首を捻る。
「……俺は関係ないよな、エリサ嬢?」
「最初に言いだしたのってジークさんじゃなかったです?」
「っ! ゴホ! ちょ、え、エリサ嬢!?」
「『くれぐれも三人が喧嘩しない様に見ていてね、エリサ』ってアリスさんにお願いされていますし……どうしましょうか?」
にこっと笑って見せると、三人がブルリと震え、三人で視線を合わせた後で。
「「「……くれぐれも、アリスには内密にお願いします」」」
「よろしい。見逃してあげましょう」
「「「……ありがとうございます」」」
うん、聞き分けの良い子、おねーさん、好きだぞ~。
「……お見事ですね、エリサ様」
「そーですか?」
「ええ。私やリリーは、どうしても口より手が先に出るタイプなので、この様な方法は斬新に映ります」
「……貴族令嬢が口より先に手が出るのは不味いのでは?」
「サルバート家は元々、武門の家ですので。必然的に寄子である我々も、武門の家系に御座います」
……その考えは武門というか、武闘派っぽいが。『サルバート一家』とか『サルバート組』とか、めっちゃ似合う気がする。そう考えると、メアリさんの『アリスお嬢様』もなんだか違う意味に聞こえて来る不具合。もしかしなくても、この中で一番常識人って私なんじゃないだろうか?
「……はぁ」
現実逃避を兼ねて、喧嘩にならない程度の小声で言い争いをする三人に視線を向ける。
「……」
……あの三人、絶対アリスさんの事、大好きだよね~。アリスさんにチクるって言った瞬間のあの慌てようは、きっとそういう事だよね? いや、知ってはいたが……再確認だね、うん。
いや、うん、分かるよ? 正直、今の三人はゲーム内での三人とは全くの別人と言っていいほど変わっている。マジで、中の人が入れ替わったんじゃねーかってぐらいに変わっているのは分かっているし、その『変化』の一番の原因がアリスさんであろうことも。どんな魔法を使ったのかは知らないけど。
「……」
……なのに……当のアリスさん、三人の事を『息子』って。
まあ、アリスさんの言い分も分からんではないよ? 日本ではアラサーって言ってたし、九歳児に『そういう感情』を抱きにくいんだろうな~ってのは理解出来るんだが……
あ、ちなみに私はロリもショタも行ける雑食ですが、一応ショタコン淑女を称していますので。イエスショタ、ノータッチの精神で行かせて貰ってます。
「……」
……まあ、アリスさんの都合もあるからアレだけど……こう、なんとなく、なんとかしてあげたい気がするんだよね。アリスさんが誰かに好意を抱くのか、抱かないのかはともかく……ちゃんと、『答え』を出してあげて欲しい気もする。なんと言ってもこの『わく学』の三人、凄い良い子になったし……私も随分助けられたしね。
「……よし!」
何が出来るかは分からないけど……出来るだけ、協力しよう。この子達が不幸になる事の無いように。
「……何がよし、なんだ、エリサ?」
「……なんでもないですよ~」
「……なんだ、そのお婆様が俺を見る様な視線は」
「おば! し、失礼ですね!!」
お姉さまぐらいを想定してたのに!! ラインハルトさんの助力は最後です!!
「……それにしてもアリス、遅いな? エカテリーナ様とのお茶会だろ? そろそろ帰ってきても良いころだろうに」
「まあ、盛り上がっているんじゃないか? あの二人、いつも仲良さそうに喋っているし……それに、ゲストも居るしな、今日は」
「ゲスト?」
首を捻るエディさんに、ジークさんは『ああ』と頷いて。
「アレンだ。俺の弟の、アレン・スモルだよ。エカテリーナ様が紹介したいって言ってたからな」
……はい?
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