第八十四話 悪女、アリス・サルバート……悪女?
「……そうね。裏設定が何処まで信憑性があるのか分かんないけど……でも、確かにその可能性はあり得そうね」
わく学だし。そもそも、ジークにしてもラインハルトにしてもエディにしても『この設定をもっと出して行けば良いのに』と思うキャラだったし……そういう裏設定、あってもおかしくは無いのかも知れない。知れないが。
「……で?」
「で、とは?」
「……その……べ、別に丸投げするつもりはないんだけど……こう、なんか方法とか……あるのかな~って」
『そういう』裏設定があるかも知れない、っていうのは分かったよ、うん。でもさ? じゃあ、どうすれば正解なのか、それが分からない。そんな私の言葉に、エリサは困った様に眉根を寄せた。
「済みません。さっきも言いましたけど、わく学2の……というか、国が滅びた理由は全く分からないんですよね。そういう意味では、情報量的には私もアリスさんもそう変わらないと言いましょうか……」
「……そっか」
「その……お役に立てずに、申し訳ないです」
そう言って頭を下げるエリサに、私はあわてて手を振って見せる。
「あ、頭を上げてよ! 別にエリサが悪い訳じゃないじゃない!! むしろこっちこそごめんって!」
私の言葉にゆっくり頭を上げて――それでも、申し訳無さそうにエリサは口を開いた。
「そう言って貰えると……でも、こう……これだけお世話になっている身としては、お役に立ちたい所ではあるんですが……」
「……別に、そういう意味で……も、まああるけど、それだけで保護というか、それを申し出たワケじゃないからさ。そもそも、元々エリサはウチに来る話になっていたから、別に私に感謝する必要はないわよ?」
本当に。感謝するなら私じゃなくてお父様に感謝してよ。そんな私の言葉に、エリサはきょとんとした顔を浮かべる。なにさ?
「いえ……勿論、サルバート公爵にも感謝はしていますが……アリスさんにも感謝してますよ、私?」
「なんでさ? 住む家も、着る服も、食べる食事もサルバート家が出してるんだよ? 別に私が何かしている訳じゃないし……」
「……」
「……なに?」
「本気で言ってます、アリスさん?」
「本気でって……」
あれ? 違うの?
「……人はパンのみで生きてる訳じゃないんですよ、アリスさん? 住む家があって、着る服があって、食べるご飯があって……まあ、贅沢な話ですが、それだけで人間は幸せになれる訳じゃありませんから。こうやって、アリスさんが仲良くして下さっているから、今が幸せなんですよ、私?」
そう言って首を傾げて、にっこり。その……なんだ、もにょる。
「……ありがとう」
「いいえ。なので、アリスさんには幸せになって貰いたいと申しましょうか……少なくとも、不幸にはなってほしく無いので……なんとかしなくちゃって、そうも思うんですよね」
「……うん。私も嫌だよ、不幸になるのは」
「……考えられる最もいい方法はアレン王子に逢わないようにすることですが……」
「……難しいでしょうね、それ」
なんだかんだで公爵令嬢と第二王子だ。逢わないようにするのは、現実的に難しい気もするが……
「ですよね。それなら、後は『古着のアリス』の売り上げをガンガン上げて、お金を溜めて何かあったら即とんずら、ですかね?」
「……それで私は……私達は助かるかも知れないけど……」
ジークやラインハルト、エディはどうするのさ? まあ、この辺はなんとかなるとしても……他に知り合った『大人』達、例えばお父様とか国王陛下とか、エカテリーナ様はどうなる? 私はイヤだぞ、この人達の事を見捨てるの。
「……そうですね。リリーさんとメアリさんはなんか、放っておいても付いてくる気はしていますが」
「同感」
あの子らはきっと一人でも生きていける。まあ、一人で生きていける二人だけど、私の側から居なくなっちゃう未来は正直想像が付かないので、きっとどんな混乱するような事態になっても勝手に側にいると思うが。
「……なんか、申し訳ないです」
「なんでエリサが謝るのさ」
「その……こう、自分だけ幸せなのに……」
言い淀み、気まずそうにこちらを見やるエリサ。んな事、気にしなくて良いのに。そもそも、私だって今は結構幸せだし、そんなに気をつかわ――
……。
………。
…………うん?
「……そっか」
「アリスさん?」
心配するような瞳でこちらを見つめるエリサに、私は笑顔を浮かべて見せる。
「……よく考えれば……そんなに心配する事ないかなって」
「……なんでです?」
「いや、だってさ? アリス・サルバートが……その、なんだろ? アレンと共謀したのって、結局、アリスが婚約破棄されたのを逆恨みしたから、でしょう?」
「逆恨みって……」
「逆恨みじゃん。実装セリフ二つのRPGの村人みたいな婚約者は私だって嫌だし……振られてしかるべきじゃない、アリス?」
「さ、流石にあれはゲームだけだと思いますが……そうじゃないと、実生活に影響与えすぎでしょうし」
「アレンルートを見る限り、実生活も怪しいけど」
「……あう」
「まあ、それは冗談――冗談? ともかく、少なくとも好ましい性格には見えないしね。振られて悔しいなら、騙し討ちみたいな事せず、正々堂々自分の魅力を磨いて挑めよ、とは思うね。それに」
そう。
そもそも、だ。
「――私、別にジークに婚約破棄されても、ジークを断頭台に送ろうと思わないもん。よかったね~、好きな子見つかって! ぐらいの感じかな~」
……色々冷静さを欠いていたが……よくよく考えれば、別にジークに婚約破棄されても私がジークを殺してしまいたいほど憎むかと言われると……うん、そんな事は全然ない。なんだ! 全然心配すること、無いじゃん!! 気を揉んで損したよ、全く。
「……」
「ん? どったの、エリサ?」
「その……前々から聞いてみたかったんですけど……アリスさんって、ジークさんの事嫌いなんですか?」
「嫌いなら一緒に勉強してないわよ」
えへへ、なんてね。
「じゃ、じゃあ好きって事ですか!?」
「なんか急に圧が……まあ、好きか嫌いかで言えば好きだよ、当然?」
「す、好きなんですよね!? 本当に、大事なんですよね!!」
「大事って……」
最初こそ、色々あったが……そう、今は。
「――『息子』みたいな感じかな? 可愛い息子って感じ。大好きだし、大事だよ? あ、勿論、ラインハルトもエディも」
アラサーOLで、色っぽい話とは縁が無かった私だが……もし、二十歳ぐらいで結婚して子供産んでたらジーク達ぐらいの子供が居ても可笑しくないし、そういう意味でもかわいい――え、エリサ? なに、その目?
「……エリサ?」
「……今の話、ジークさん達の前で絶対にしないでくださいね!!」
「ジーク達の前で? しないよ。恥ずかしいじゃん」
お前らはわしが育てた! ってちょっと言いたい所もあるけど……ま、流石に恥ずかしいし。
「……ジークさん達は恥ずかしいどころじゃない騒ぎですが……信じますよ!? 絶対にしないでくださいね!!」
「……フリ?」
押すな押すな、みたいな感じなの?
「フリじゃないですから!! なんですか、貴方! そんな事言ったらジークさん達、死んじゃいますよ!! どんだけ悪女なんですか、アリスさん!!」
「……なんの話?」
「こっちの話です!! ともかく!! 絶対に!! 絶対に言っちゃだめですからね!! もう! アリスさんのにぶちん!! ジークさん、可哀想すぎますよ!!」
そう言って『もう寝ます!! おやすみなさい!!』と肩を怒らせて部屋を後にするエリサを唖然として見送りながら……『にぶちん』って古いな、と的外れな事を考えながら私はその背を見送った。
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