第七十九話 ジークの夢、アリスの夢
「そ、そう言えば!」
エリサの微妙にニヤニヤした表情から逃れる様に、私はラインハルトに声を掛ける。あっちはあっちでメアリからの『圧』を受けていたっぽいので、これ幸いと視線をこちらにむけて来た。
「ど、どうした、アリス!!」
この呪縛から逃れられる。そんな思いを込めたかのような瞳でこちらを見やるラインハルトに、私の頭に一つの言葉が浮かぶ。
――すなわち、ノープラン、と。
……勢い込んで話しかけたけど、特にないぞ、話題。え、ええっと……
「そ、その……エディのお兄さんであるワイズ様はあんな感じだったでしょ? ラインハルトにもお兄さんがいるんだよね? その……あ、アレン王子派の」
「……お前、今それ聞く?」
で、ですよね~!! 幾ら話題が無いって言ってもこれは無いわ!!
「……まあ、ウチの家はエディん所みたいに……なんだ? 揉めたりしている訳じゃねーよ。普通の、とまでは言わんが大して確執がある訳じゃねーよ」
「……そうなの?」
ワイズのあの態度を見る限り、ラインハルトのお兄さんもそんな感じかと思ったのだが……
「関心ねーもん、俺の兄貴は俺に対して」
「……それって」
「っていうか、ウチの兄貴は何考えてんのかわかんねーよ。言葉が少ないって言うか……親父に似たタイプかな?」
「ラインハルトのお父様って……近衛騎士団長の」
「寡黙を絵に描いた様な人だ。父上の信頼も厚い」
話に割って入ったのはジーク。そっか、ジークも当然知っているか。
「ジークから見て、どうなの? ラインハルトのお兄さんって」
「ヴェルハルト殿は……そうだな、ラインハルトの言う通り、寡黙な方だ。年齢は……私たちの二つ上、か?」
「そうだな。ワイズと同い年だ」
「……思ったんだけど……ワイズ様もラインハルトのお兄様……ヴェルハルト様? も、アレン王子と年齢が離れすぎて無い?」
アレン王子が三つ下だし、都合六歳離れてるって訳でしょ? 王立スモル学園で学年もかぶらないだろうし、『ご学友』としてどうなんだろうって気がするんだが……
「……アレンの場合は学友になる人間はまた別にいるからな。ワイズやヴェルハルトはアレンの側近候補だな。尤も、これからはどうなるか分からんが……」
そう言って肩を竦めて見せるジーク。ええっと……
「どうなるか分からないって……クビになるの? ワイズ様とかヴェルハルト様とかって」
「クビ……と言えばクビだが……まあ、そうだな。アリスには言っておかないといけないだろう」
そう言ってジークは私をじっと見つめて。
「――来年、俺が立太子する事になった。これからは正式に『王太子』となる。昨日、直接父上に言われたんだ」
「!? 凄いじゃん!! おめでとう、ジーク!」
「……ありがとう。これも全て、お前の――お前たちのお陰だ」
そう言ってにっこりと微笑むジーク。うわ、うわ! ジークが王太子か! それ、正式に後継者として認められたって事じゃん! 良かった――
「! お待ちください、殿下!! それは、私どもが知っても良い事なのでしょうか!」
その発言に慌てた様にメアリが言葉を発する。知っても良い事って……
「ダメな事なの、むしろ? おめでたい事じゃん。パーティーでもする?」
「その様に簡単な事ではありません!! 一時ほどでは無いとは言え、王城内は未だにジーク王子派、アレン王子派の派閥があります!!」
「メアリ姉さんの言う通りだ。確かに王城内には未だに俺を推す声と、アレンを推す声の両方がある。此処で俺が正式に王太子に選ばれると言う事は……」
「……アレン王子派が暴走する可能性、ありますね」
ジークの言葉を引き継いだのはエリサ。そんなエリサに、ジークは頷いて見せる。
「……そうだ。俺を亡き者にしよう、という勢力もあるし……申し訳ないが、アリス。君を狙うものもいるだろう」
「……」
「……もっと言えば、メアリ姉さんやリリー、ラインハルトやエディにもその累が及ぶ可能性は高い。その……この言い方は適当では無いだろうが、『ジーク派』と思われているだろうしな」
……まあ、そりゃそうか。私達、七歳の時からずっと一緒だし、私に至ってはジークの婚約者だ。確かに、狙われる可能性は高いわね。
「現時点でこの事を知っているのは父上、エカテリーナ母上、それに俺とお前たちだけだ」
「ちょ、メアリじゃないけど、それって言っても良かったの!? 国家機密とかのレベルじゃないの!?」
「そうだな」
「そうだなって……」
「……だからこそ、お前達には知っていて欲しかった。アリスは勿論、メアリ姉さんもリリーも、ラインハルトも俺の大事な友人だ。狙われる事が無いようにするつもりではあるが……人の口に戸は立てられない。何処から漏れるか分からない以上、少しばかり……その、気を付けてほしい」
「……」
「……俺と関わったばかりに申し訳ないとは思っている。思っているが――」
「ストップ」
「――それでも……アリス?」
「別にジークが悪い訳じゃないでしょ?」
「……」
「ジークは王太子になりたくなかったの?」
「……なりたかった。この国を、少しでも良くしたいと……そう、思っていた。だが、それはただの俺の夢で、アリスにはかんけ――」
尚も言い募ろうとしたジークを手で制し。
「――貴方の夢は、私の夢よ、ジーク」
「――っ!!」
「覚えていますか……『殿下』」
少しだけ、居住まいを正して。
「……」
「最初にお逢いした時、貴方は私に『なぜ、俺が人の言う事など聞かなくてはいけない』と仰っていました」
「……若気の至りだ。穴が有ったら入りたい」
「良いじゃないですか。あの時から比べれば……貴方は、随分と成長した」
本当に。胸の奥が温かくなるような、そんな感覚に私の頬に笑みが浮かぶ。
「……『ジーク』、貴方が夢を叶えてくれて……私は、本当にうれしい。だから、迷惑なんて言わないで? 私に、一緒に」
――喜ばして?
「……」
「……だめ、かなぁ?」
「……いや……有難う、アリス。お前が俺の婚約者で良かった。本当に……良かった」
噛みしめる様にそう言って、ジークは視線をメアリに向ける。
「メアリ姉さん」
「お任せ下さい。万難を排し、この命に掛けてアリス様はお守り致します」
「……有難いが……姉さんも、自分の命は大事にして下さい。そうならない様に気を付けますが……なにか有った時、アリスだけではなく、ご自身の身もお守りください」
「……有難きお言葉です」
そう言ってメアリがジークに一礼する。そんなメアリを心配そうに、それでも頼もしそうに見つめるジークを見ながら――
「……アリスさん、この後って時間ありますか?」
――そんな私の耳元でこっそり言葉を掛ける声があった。エリサだ。
「エリサ? ええっと……時間自体はあるけど……」
普段にない、深刻な声色に私が首を捻っていると、エリサが言葉を続けた。
「……これは私の矜持に関わる問題ですが……なんとなく、ヤな予感がするので一応、お話を通して置こうと思います。本当はイヤですけど……」
「エリサ?」
小声でぶつぶつとそう言っていたエリサが、何かを決意した様に視線をこちらに向けて。
「――『わく学』の隠しキャラですが……アレン王子です」
……マジ?
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