第七十三話 逃げ道を一つずつ潰していくのがエリサちゃん流
「いや……あの恰好って……」
あの、『死霊王とお姫様』のアリスちゃんバージョンで行けと? 王城に? セールスに? いや、それは流石に無理だろう! 恥の上塗りじゃねーか!!
「流石にあの恰好は恥ずかしいんですけど!」
「そんな事ありません!! あのアリス様、本当に可愛かったですもの! 絶対、あの恰好で売りに行くべきですよ!!」
「……」
「もう、あのアリス様、本当に可愛くて、可愛くて……誰かに見せるのが惜しいような、それでも誰かに見せたいような……閉じ込めて、飼ってしまいたいような……」
「最後!? こわっ!!」
止めて! 最近のリリー、本当にちょっと私を見る目がヤバい気がするんですけど!! そりゃ、リリーの事は好きだけど、そっちの趣味は無いからね、私!!
「うわー……これはリリーさん、良質にヘラってますね~、アリスさん」
「……なんだよ、良質にヘラるって」
「まあまあ。でも、確かに広告塔としては優秀ですよね~、あの恰好。今日のアレもありますし……良いんじゃないですか、リリーさんのアイデアも」
「エリサ様もそう思われますか!! あのアリス様、可愛らしかったですものね!!」
「はいー」
「いや、本人の意思を確認してよ、お前ら」
良いんじゃないですかって簡単に言うなよ。そう思いジト目を向ける私に、エリサがジト目を返してきた。な、なんだよ?
「……っていうか、アリスさん。そもそも、あの服売って行こうって思ってるんですよね? 売れた方が嬉しいんですよね?」
「……まあ、うん」
そ、そりゃ、売れないよりは売れた方が嬉しいよ? 当たり前じゃん。
「だったら『それ』を売っているお店の人が恥ずかしがってどうするんですか!! 自信満々、着て行けばいいじゃないですか! 違いますか?」
「……違わないね、うん」
腰に左手を当てて、右手で私をズビシ! と指すエリサに私は首肯する。いや、うん、確かにエリサの言った通りだよ? 確かにエリサの言った通り、これを売ろうとしている人間がこの服を着るのを恥ずかしがったらダメだと、私もそう思うよ? でもさ?
「……あのセリフ込みで相当恥ずかしいんだよね……」
正直、あの『セリフ』が無ければまだ良かったんだが……あの恰好であれだけ目立ってしまったし、今あの恰好で王城に行くのは相当恥ずかしいというか、なんというか。
「……それに、一人だしさ?」
わく学の世界観でも、あの恰好は充分に可愛いとは思うけど……まあ、異質な服装でもあるわけだ。あるじゃん? 着物とかって可愛いし、女の子の憧れ的な所はあるけどさ? 昨日までスーツ着て来た社員が、いきなり職場に晴れ着で出勤してきたら、『なんぞ!?』って気分になるでしょ、多分? あんな感じに近い。完全に浮くというか、なんというか……
「……要はアリスさん、仲間が居ればいいって事ですか?」
「……まあ。それなら恥ずかしさは半減するかなって思うけど……」
一人より二人の方がまだマシではある。小市民なんだよ、こちとら。そんな私に、リリーがニヤリと頬を上げた。おい、悪い顔になってるぞ。
「……ふふふ……こういう事もあろうかと、きちんと用意していますよ、アリスさん!!」
「用意?」
「そうです!! ちょっと待っててください!」
言うが早いか、私の部屋を『びゅーん』と飛び出していくエリサ。待つことしばし、一着の服を持ってエリサが私の部屋に戻って来た。って、それって……
「……『アリスちゃん』の服? でも……」
私が着た服は青色だった筈だが……黒? なに? 染めたの?
「2Pカラーですよ、2Pカラー!」
「2Pカラーって……って、まさか作ったの、それ?」
「はい! 型紙自体はありますし、色違いも作って置こうと思ってリリーさんに寸法取らせて貰ったんですよ!! お二人が並べば、きっと可愛さ二倍ですし! 清楚系のアリスさんと、小悪魔系のリリーさんのイメージで作りました!! 微妙にデザインも変えてますよ!!」
「……小悪魔系って」
まあ、確かにリリーは小悪魔系と言えば小悪魔系だが……ああ、いや、大悪魔か?
「それより私、清楚系?」
悪役令嬢……ではないが、ポジション的には悪役令嬢だぞ、私。顔立ちだって所謂釣り目の悪役顔だし。
「そうですね~。アリスさんも顔立ちだけ見れば小悪魔系と言えば小悪魔系なんですが……ちょっとアリスさんには小悪魔は難しいかな~って」
「はい?」
なんだよ、難しいって。そんな私に、エリサが少しだけ困った様に眉根を寄せて。
「……知ってます、アリスさん? 小悪魔って人の心の機微に敏感じゃないと出来ないんですよ? ラノベの鈍感系主人公並みにニブいアリスさんにはちょっと難しいんじゃなかろうかと」
なんだ、その唐突なディスは。に、鈍く無いぞ、私は――って、エリサ! んな可哀想な子を見る目で見るな!!
「……まあ、ちょっと手直しは必要ですが……夜なべすれば大丈夫ですよ!」
「夜なべって……もう、結構遅いよ? 暗くなるんじゃないの?」
別に電気代わりに使う油ぐらいは幾ら使って貰っても良いが……この世界って油の薄明かりじゃ結構暗いからな。細かい作業するには向いて無さそうだ。目が悪くなりそうだし……
「大丈夫です」
そう言って、にっこりと笑って。
「暗闇での作業も苦じゃないです。そう――光魔法があればね!」
「リンゴのマークの携帯電話か。タメてまで言う事じゃないでしょ」
ビシッと親指を上げるエリサにため息を一つ。にしても……見事に使いこなしているね、光魔法。
「さあ、どうですか、アリスさん! これでアリスさんの不満点は全部解消ですよね?」
「うぐぅ……」
た、確かに。私の『一人で恥ずかしい』という気持ちはリリーによって解消されるし……
「それじゃ……もう、『我儘』言いませんね?」
そう言って『圧』のある笑顔をこちらに向けて来るエリサとリリーに、頷く以外の選択肢は私には無かった。




