第六十八話 アリスちゃんのセンス
お父様から古着屋を購入して貰って二か月が経った。あれから、エリサと他の面々の面通しだったり、店の売り主から必要なモノが何処にあるか聞いたり、お父様におねだりして生地を買ってもらったりしていたからなんだかあっという間の感じの二か月だったよ、うん。
あ、ちなみにエリサも勉強会に参加する様になった。まあ、エリサも現代日本、しかも現役の大学生と言う事で算術なんかは普通に出来る。修辞学に関しても、『まあ、現代日本のオタクですし』という、なんだか訳の分からない理由で無茶苦茶良い文章を作ったりしている。まあ、アレだ。語彙力高い子多いもんな、オタク。そんなエリサだが、一番得意なのは史学だったりする。戦略SLGの乙女ゲーをやり込んでまでプレイするぐらいだし、普通に歴史は好きなのだとか。
つまりまあ、総合的に視て充分、学園の入学試験にパスするぐらいのレベルはあるのである。いや、彼女は光魔法の使い手だし、別に無試験で入学は出来るのだが……まあ、入ってからの授業についていけるレベルなのは良かった事だろう。
わく学キャラとも仲良くやってくれているみたいで一安心だ。出逢いの瞬間こそ、少しだけ緊張したけど……別に攻略キャラにもエリサにも変な所は見られない。実際、エリサには『どう? わく学のキャラ?』と、少しの不安と……『わしが育てた』的な感覚で聞いてみたのだが。
『……はぁ。まあ、普通にイケメンだと思いますけど……それだけですかね?』
と、なんともつれない態度だった。いや、エリサに目をハートマークにされたらそれはそれで困るんだけどね? あんだけ興味無いのもそれはそれで腹が立つぞ、おい。
「何を考えているんだ、アリス? サボるな」
そんな事をぼーっと考えていると後ろからポン、と頭を叩かれた。そちらに視線をやると、丸まった生地を持ったジークが呆れたように立ってこちらを見ていた。
「お前の店だろ?」
「さ、サボってないわよ! ちょっと考え事してただけだし……その、ごめん。私も運ぶわ」
「いいさ。お前は運ばないで」
「……なによ? 紳士じゃないの。女の子には重たい物を持たせない、って?」
「……」
「……なにさ?」
「女の子は普通、ドロップキックをお見舞いしてこないがな」
「い、何時の話よ!! 二年も前でしょ!!」
「いや、貴族令嬢が二年前でもドロップキックお見舞いしましたって結構ヤバいぞ?」
そ、それはそうかも知れないけど……そ、そんなジト目を向けないでよね!!
「まあ、お前のやる事は物の配置だったり、そっち系の仕事だ。力仕事は俺やリリーに任せて置け」
「……リリーなのね?」
「……力持ちだろ、リリーは」
……まあな。
「それじゃ、ラインハルトは……」
「今はエリサと一緒に『工房』の方だな」
この古着屋、仕立てこそはしていないものの、やはり買い取った古着がほつれていたりすることはよくあるらしく、店の裏手に『工房』という名の作業場がある。そんなに大きなものでは無いが、それでもミシンやアイロンと云った最低限の設備は整っている、まあ中々に便利な代物だ。
「……ラインハルト、今日も?」
「……ここ最近、毎日だな。っていうかアイツ、何処からそんな時間捻出しているんだ? 俺やエディ程じゃないにしろ、アイツもそこそこ忙しい筈なのに……」
ちなみにラインハルト、工房で何をしているかというと……アレだ、仕立てだ。いや、何を言っているか分かんないと思うけど……ほら、覚えてない? ラインハルト、メアリに刺繍とか習ってたのを。そこで身に着けた技術をエリサの前で披露したら……こう、『充分戦力になります!!』って、工房組にスカウトされていった。そんな流れがあって、この『古着屋アリス(仮)』のチーフはエリサ、サブはラインハルトという体制が確立されたという訳だ。
「……オープンまで後、一か月だもんね」
「なんだ? 不安なのか?」
「まさか。ちょっとわくわくしてる。ジークも、ごめんね? 忙しいのに毎日、手伝って貰って」
「気にするな、アリスらしくもない」
ジークも忙しい合間を見つけて毎日、店のオープンに間に合うように手伝ってくれている。王子様に何をさせているんだ、という話ではあるが……『気にするな、俺が好きでやっているから』との弁。申し訳なさ過ぎて頭が上がらないよ……
「アリスらしくもないって……なに? 感謝も出来ない女だと思われてる?」
「そういう訳じゃないが……やっぱりアリスは、しおらしくするよりニコニコ俺たちの間で笑っている方が似合ってるという話だ」
「……ただ、ニコニコ笑っているだけってバカみたいって言われる気がするんですけど?」
「そういう意味じゃないさ。それにまあ、役得でもあるんだよ」
そう言って、ジークは遠い目をして。
「此処で手伝っていれば……エリサが作っている『あの』服、着なくて済むんだからな……不憫だな、エディ」
「……不憫って言うな、不憫って!!」
ちなみに古着の販売とともに、当初の作戦通りデザインを考えた服を作ろうという話になった。勿論、原案はエリサで、私も少し関わっているのだが。
「……あれ、格好よくない?」
「……本気で言っているのか、お前?」
「ほ、本気だよ!! 格好いいもん、アレ!!」
私達が作っているのは『死霊王のお姫様』という乙女ゲーに出て来た攻略メインキャラでヴァンパイアの『ブラド』というキャラクターのコスプレ衣装だ。宵闇に紛れやすそうな黒を基調とした超格好いい衣装なのに!! 私もエリサも、前世の日本できゃーきゃー言ったキャラなのに!!
「……ま、まあ好みは人それぞれだからな? 良いんじゃないか、別に」
「……誤魔化し方が雑過ぎませんかね?」
「気のせいだ。それじゃ俺、これを運んでくるから」
そう言って私に背を向けて店内に入るジークの背中に、私はそっとため息を吐いた。なんだよ……格好いいじゃん、あの衣装……
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