第六十九話 いよいよ明日はオープンです!
「……えー……ついにこの日がやってきました」
明日からオープンという前日の夕方。今まで手伝ってくれた皆さんを前に、本日は前夜祭と云う事で軽く摘まめるものとジュースを用意して宴会だ。
「皆には沢山助けて貰って感謝の言葉もないです。ジークも、ラインハルトも、リリーも、メアリも……皆、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる私。
「アリスさーん! 私! 私も頑張りました!!」
はーいーはーいと手を挙げるエリサ。そんなエリサに苦笑を浮かべながら、私は腰に手を当てて。
「そうだね。でもさ? 貴方は共同経営者みたいなモンなの。だから、頑張るのは当たり前じゃん」
「あ、アリスさん……」
「頑張ろうね、エリサ?」
「はい!!」
……まあ、ぶっちゃけこの中で一番働いていないのは私説まである。ちなみにメアリには細かい、でもとても大事な『大人』との折衝をお願いした。見た目は子供、頭脳は大人の私とエリサだが、今の状態は何処からどう見ても九歳児だしな。流石に舐められると思ったのでその辺の折衝はメアリに丸投げした。良くも悪くもメアリは私の言う事には素直なので、こういう役目は適任だったりする。変な裁量で仕事されても困るし。
「あー……それと、エディは……その、明日、よろしくお願いします……」
皆が明るい顔をしている中、一人だけお通夜の様に『どよん』とした表情を浮かべたエディが生気を失った瞳でこちらを見やる。
「……そうだ、な。明日は俺が主役だ……今まで手伝いが出来なかった分、精々、頑張らして貰おうと思うさ……は、はははは……」
エディ……完全に背中が煤けているんだが……だ、大丈夫?
「……今日な? 王城に出仕したんだ」
「……うん」
「王城で働く女官の皆にな? 『エディ君、明日、モデルやるんでしょ? 見に行くから頑張ってね~』と……」
「……」
……う、うん。いや、な? あの衣装は格好いいと思っているんだよ、うん。でもさ? コスプレ姿を職場の人に見られるって、それは結構な恥ずかしさだと思うんだよね。
「……黙っていたのに……父上にも『期待しているよ、エディ!! 明日は特等席で見に行くから! 仕事は陛下にぶん投げてさ!!』と……なんで……? なぜ、皆知っているんだ?」
そう言ってジュースを呷るエディ。もうその姿が完全にサラリーマンのおっさんにしか見えないんだが……そんな不憫なエディを見ていると、鶏肉の唐揚げを頬張っていたラインハルトがニカっと笑って見せる。
「あ、それ、オレオレ。俺が王城の皆に言って回ったんだよ」
「ラインハルトぁおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
お、おお……エディの背中に夜叉が見える。
「貴様、何を考えているっ!! なんだ? 何か俺に恨みでもあるのか、お前は!! 言ってみろ!! どういう了見で俺の痴態を王城中に吹聴して回ったんだ!!」
「えー……あれ、格好いいじゃん。黒いし。それに俺、一生懸命作ったしさ? やっぱお披露目したいじゃん」
「黒いと格好いいと思っているんだったらお前の頭の中はスカスカだな!! お前、アレ着て店の前の特設ステージに立てるのか!? しかも『闇の炎に抱かれよ』なんてクッソ恥ずかしいセリフ付きだぞ!? お披露目したいと言ったな? それじゃ、出来るのか、お前に!!」
「え? 余裕じゃね? 騎士団でもテンション上がれば結構皆、ああいうセリフ言うぜ? 『この一撃に全てを掛ける!!』とか、『俺には守りたいものがある!!』とか、『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』とか」
「頭がバグってるのか、この国の騎士団は!! それでは明日はお前がやれ!!」
「あ、ごめーん。サイズ、エディ用なんだわ」
「こいつ……!!」
……近衛騎士団ぇ。大丈夫か、この国。中二病の魔窟かなんかか? そして、最後のヤツ。それは確実に死亡フラグです、本当にありがとうございました。
「ま、まあ、エディさん? そんなに興奮せずに」
肩でふぅふぅと息をするエディに、エリサがジュースを一つ差し出す。『ありがとう』と言ってそのジュースを受け取ったエディは、まるで捨てられた子犬の様な視線をエリサに向ける。
「う……で、でもですね? あの衣装、格好いいですよ!!」
「……そうだろうか?」
「そうですよ! ねえ、アリスさん? 格好いいと思いますよね!!」
「……まあ」
評判は悪いが……本当に格好いいんだよ、アレ。特に元キャラも知的銀髪眼鏡クールだったし、眼鏡こそないもエディに似合いそうなキャラだな~って思ったんだが……
「……エディはイヤ? 本当にイヤなら、その……」
ちょっと可哀想になって来た。此処まで嫌がるエディに無理矢理やらせるのも、なんとなく申し訳ない気がする。そう思う私の頭を、エディはポンポンとなでる。
「……すまん。色々愚痴を言ったが……自らが一度決めた事だ。やらして貰うさ」
「……いいの?」
「……少しでも、アリスの役に立てるならな」
そう言ってにっこり笑うエディ。なんか……本当に、申し訳な――
「大丈夫ですよ、エディさん!! エディさん一人に恥ずかしい思いはさせません!! 明日の舞台、アリスさんも立ちますから!!」
「……は?」
……は?
「――じゃーん! どうです、アリスさん! これが明日のアリスさんの衣装です!! 死霊王のお姫様のヒロイン、『アリス』ちゃんをモチーフにしました!!」
ごそごそと箱ごと見せて来たのは。青い膝上のワンピースタイプのエプロンドレスに、真っ赤なリボン。黒と縞々の異常に長い――きっと、ニーハイソックスだろう、靴下。
「……え?」
「明日はアリスさんにこれを着て貰います!!」
「ちょっと待てぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
なんで? なんでこんなのがあんの!? アンタ、どの時間でこれ作ったよ!!
「毎晩、夜なべして作りました!!」
「アンタ、たまに部屋で発光していると思ったらそんな事してたの!?」
「興奮が抑えきれずについつい、漏れだしてしまいました、光魔法。いや、マジでそれぐらいセンスの良いのが出来たんですよ!!」
そう言ってグイっと親指を上げるエリサ。サムズアップじゃねーよ!!
「ちなみにセリフは、『私を愛の海で溺れさせてね、ご主人様』です!! エディさんに言ってもらいますからね!!」
「なんだ、そのクッソダサいセリフ!! 原作にねーだろうがーよ!!」
「ダサくありません!! 超かわいく言って下さいね!!」
「地獄じゃねーか!!」
いや、マジで……地獄じゃねーか、それ……
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