第五十二話 一周回って勇者だな、わく学。
「……涙を拭きなさい。ほら、ハンカチ」
「……ぐす……すみません……はい」
私の差し出したハンカチで『ちーん』と鼻水をかむエリサ。いや、良いんだけど……結構お気に入りのハンカチだったんですけど、それ……
「……はっ! す、すみません、アリス様!! は、ハンカチで鼻水、かんじゃいました!!」
「……良いわよ、別に」
光魔法が発動した瞬間、ドアの外に控えていたエディから『どうした!!』という声が響き、押し入ろうとしてきたが、『なんでもない! 女子会中に入るな!』という私の言葉で静かになったエディを放置して必死にエリサを宥める事、およそ三十分。
「……それで? 落ち着いたかしら?」
「は、はい……すみません。つい、取り乱しちゃいまして……その、嬉しくて」
ハンカチを握りしめたまま頭を下げるエリサ。そんなエリサに心中でため息を吐きつつ、私は言葉を継ぐ。
「それじゃ……改めて自己紹介しましょうか。私の名前はアリス・サルバート」
一息。
「……転生前の名前は藤堂里香よ。日本人で、二十九歳。事務職をしていたOLよ。前世……っていうのかしら? ともかく、日本人であった記憶に目覚めたのは二年前よ」
……なんか久しぶりだな、この名前。既に記憶の彼方に飛んでいた自分の『名前』に違和感を覚える程度には、私もこの世界になじんで来たのだろう。
「あ、やっぱり……転生者、だったんですね……」
「そうよ。貴方もでしょ?」
「は、はい! 私は城之崎朱里です! 二十二歳の大学生で……前世の記憶に目覚めたのはついこないだです!!」
「こないだ?」
「はい……その、銭湯? って言うんですかね? そこで体を洗っている時に、不意に前世の記憶が目覚めて……パニックになっていると、体が光り始めて……」
「……」
なるほど。前世の記憶に目覚めたタイミングで、光魔法が発現したって訳か。
「最初は、なんのことか理解が出来なくて、混乱してたら……急に浴場が光り始めたから、色んな人が入って来て……」
そう言って悲しそうに瞳を伏せる。
「……は、裸……みられちゃいました……もう、お嫁に行けません……」
「……気にするところ、そっち?」
意外に図太いのかな、この子?
「それで?」
「そ、それで、訳も分からぬまま王城に連れて行かれたと思ったら……銀髪の少年が出て来て……『エディ・エヴァンス』って名乗るじゃないですか!! スチルで見た幼い頃のエディそっくりだし!! 光魔法とか発現するし!! 私の名前、エリサ・ロクサーヌだし!! これだけ揃えば、この世界、『わく学』だって分かるじゃないですかっ!!」
「ちょ、エリサ!! 落ち着いて!? 光魔法!! 光魔法が出ているから!?」
再び発光しだしたエリサを慌てて宥める。私の言葉に『はっ』としたよう、エリサが二、三度深呼吸。先程まで発光していたエリサの体から徐々に光がおさまって来た。うん……凄い発見をしたかもしれない。光魔法……というか、エリサの光魔法の発動条件はアレだな。興奮した時だな、コレ。
「す、すみません!!」
「……良いわ。気持ちは……まあ、分かるから」
絶望……こそなかったものの、私も最初はどうしようって思ったからな。そりゃ、エリサの気持ちも分からんでも無いが……
「……それで? 貴方はどうするつもりなの?」
――それとこれとは、話が別だ。同情もするし、困っているのなら助けても上げる。上げるが……
「……どうするの? もし、貴方が……そうね? エリサ・ロクサーヌという『ヒロイン』であるという特性を活かして、逆ハーレムルートを狙うって――」
「狙う訳ないじゃないですか!! なんで『わく学』の攻略キャラなんか狙わなくちゃいけないんですか!! 全員、ポンコツじゃないですかぁ!!」
「――……」
……喰い気味に来たな、おい。
「……狙わないの?」
「むしろ、なんで狙うって思ったんですか!? えっと……と、藤堂さん?」
「……ややこしいからアリスで良いわ。様もいらないから。私もエリサって呼ぶから」
「そ、そうですか? それじゃ……あ、アリスさんだったらどうなんです!? わく学、プレイしたんですよね!!」
「う、うん……まあ。一通りクリアしたけど……」
「だったら、あんな顔だけのポンコツ攻略対象、なんで狙うとか狙わないとかって話になるんですか!? 絶対狙いませんよ、あんなの!? 全員、なんであんな性格が薄っぺらいんですか!!」
「……」
……え、ええ~……いや、まあ……確かに? 私がエリサの立場だったら、『あの』攻略キャラ侍らせた逆ハーレムルートなんて絶対に嫌だけど……
「で、でもさ? そうはいっても……最近はジークとかラインハルト、それにエディも……こう、ま、まとも? まともな性格になって来たって言うか……」
……ただ、ちょっと『母性』的なモノが目覚めた私としては、そこまでがっつり否定されるとちょっと悲しいものがある。いや、別に逆ハーレムルートを目指して欲しいとか、そういう訳では無いのだが……ねえ? 今の彼らは『あの』攻略キャラたちとは似て非なるもの、そこまで否定されるのは……と、思う私に、エリサは信じられないものを見る様な目をこちらに向けて。
「……え? あ、アリスさん……ま、まさかダメ男、好きなんですか……? うわ……そっち系ですか?」
「ちゃうわ!!」
……まあ、そう思われても仕方ないと言えば仕方ないほど、攻略キャラのスペック低いからな~……
「……まあ、良いわ。それじゃ、貴方は別に逆ハーレムルートを狙っている訳ではない、と」
「願い下げです!! 当たり前じゃないですか!!」
「そ、そう……」
願い下げ、とまで言うか。
「……まあ、そう云う事なら良いわ。同じ転生者だし……エリサ、困った事があったら何でも言って貰って構わないわよ?」
言い方は悪いが……私の『敵』にならないんだったら、幾らでも支援させて貰おう。同じ転生者の誼だ、遠慮なく言って頂戴な。
「……で、でも……『わく学』ですよ? ドロ船じゃないですか!!」
「……気持ちは分かるけど……仕方ないじゃない」
転生したのは……まあ、事故みたいなモンだ。しかもこんなクソゲーな世界、悲観する気持ちも分かるんだが……でもね? 転生してしまった以上、この世界で楽しく生きて行くしか方法は無いだろう。実際、私はそこそこ楽しく暮らしているし。
「だから、必要なら支援はさせて貰う――」
「そ、そうじゃなくて!!」
私の言葉を遮る様に。
「――スモル王国、滅亡するじゃないですかっ!!」
……うん? め、滅亡?
「め、滅亡?」
「そうです!! スモル王国、ジークの悪政が祟って滅亡するじゃないですか!!」
そう言って、涙目でこちらを見つめて。
「――『わく学2』で!!」
……は、はい? わく学『2』? な、なんだそれ!?
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