第四十八話 残念な、人々。
「……これがかの有名なサルバート庭園ですか……凄いですね!」
遠くから『カコーン』という鹿威しの音が聞こえて来る。玉砂利の上に置かれた石の上を歩きながら、年齢相応――七歳児だしね。年齢相応なキラキラとした笑顔を見せるクリフトに、私も小さく笑顔を見せる。
「……気に入って頂けましたか?」
「はい! 僕も東方の文化には興味があってですね!! リリーからサルバート庭園の話を聞いて、一度は拝見させて貰えたらってずっと思っていたんですよ!!」
興奮しながらそう言うクリフト。うん、ここまで楽しんで貰えているんだったら、見せ甲斐もあるってもんだ。
「そうですか。それは良かったです」
「はい! ありがとうございました、アリス様」
にっこり微笑むクリフト。うん……なんつうか、キラキラ系のイケメンじゃないんで私もほっこりするわ。ジークやラインハルト、エディなんかはやっぱり超絶美少年だし、こういう普通っぽいのはある意味新鮮だ。いや、イケメンなんだけどね、クリフトも。
「……良いですね、アリス様は」
「何がでしょうか? ああ、この庭ですか? いつも見れるのが羨ましいと?」
まあ、良い庭ではあるのだろうが……正直、幾ら前世でアラサーだったとはいえ、私に庭を見て楽しむ枯れた趣味はない。この庭を見ても精々、『手入れ、大変だろうな~』くらいの感想しか湧かないのだが。そんな私の言葉に、クリフトは苦笑を浮かべて。
「この庭もですが……リリーといつも一緒に居る事が出来て、です」
「……」
おお……そう来たか。
「……その、失礼ですが……クリフト様は、リリーの事が……?」
「……はい。私はリリーの事が好きです」
そう言って照れた様にそっぽを向くクリフト。耳まで真っ赤にしたその表情は……え、ええ!? なにこれ? めっちゃ可愛いんだけど!! 尊いわ~!!
「……」
た、尊いんだけど……ど、どうしよう。なんか逆に申し訳なくなって来たんだけど。だってさ? リリー、完全にクリフトの事洗脳してるように見えたんだが……これ、マジな気持ちじゃなかったらクリフトに申し訳なさすぎるんだが……
「……もしかして、先程の話を気にしておられますか? 洗脳とか、なんとか」
「……ええっと……はい」
私の言葉に、クリフトは苦笑をして。
「……そうですね。確かに、リリーと話した後、なんだか記憶が曖昧だったりする事もあるんですが……」
「……おうふ」
それ、ヤバいヤツやん。つうか、クリフト! 気づいて!! リリー、マジでヤバい奴だから!!
「……なんと言うか……ウチの寄子が本当に申し訳御座いません」
「それを言うなら僕の幼馴染ですから。それに……少しだけ、嬉しいんですよ」
「は? せ、洗脳されるのが?」
「はい」
……え?
「……ドM?」
「……淑女の口からあんまり聞きたくなかった言葉ですが……」
「こ、これは失礼しました! は、はしたない事を」
……って、冷静に考えればクリフトも『ドM』の意味、分かったって事だよな? 七歳児にしてそれは流石に不味いんじゃないか?
「別に被虐趣味という訳ではありませんし……少しばかり言い方に語弊がありました」
「……」
「一般的に『洗脳』とは、あまりいいイメージはありませんよね?」
「ええ、まあ」
あんまりっつうか、がっつり悪いイメージしか無いんだが。
「……リリーだってスワロフ家の令嬢です。それも、才色兼備な素晴らしい女性だ」
「まあ……はい」
能力は間違いなく高いよね、リリー。顔だって可愛いし、美点は数えきれないくらいあるよ、うん。
……問題は、その美点を全てマイナスに変えるぐらいにぶっとんでいるという所だが。
「……昔から、リリーは優秀でした。そんなリリーに僕は、ずっとずっと憧れていました。だから……リリーの隣に並び立てる様に、頑張って来ました。今だって、立派な紳士になれる様に毎日精進しています」
「……」
「……リリーは僕の憧れなんですよ」
そう言って、照れ臭そうに笑って。
「――そんな憧れのリリーが……人に良く思われない方法まで使って僕を手に入れようと……価値があると思ってくれているんですよ? 嬉しくない訳、無いじゃないですか」
「……そっか」
……。
………。
…………うん。
「………………そうか?」
いや、クリフトさん? アンタ、その考えは相当ヤバいと思うぞ? なんだろう? DV男に『この人は私が居ないとダメ』って思う女性ぐらい、ヤバい考えだと思うんだけど!! いや、一遍冷静に考えて見ようよ、マジで!
「……クリフト様、流石にそれは……」
「まあ、リリーが『僕』に惹かれている訳では無いのは知っています。彼女は『僕』を含めた、ロートリゲン子爵家に嫁ぐのを良しとしている事も」
「あー、うん。そういう面もあるかもですね? でもですね、そういう問題じゃなくて」
「……ですが、それの何がいけないのでしょうか? 自身の力では無いとは言え、『ロートリゲン家』に生まれたというのも僕の魅力の一つの筈です!」
「う、うん。それもそうですね。ですが、クリフト様? そ、そうじゃなくてですね? そこは大した問題……だけど、そうじゃなくて」
「だから……仮に彼女に『僕』だけが望まれていなくても構いません!! それも含めて、全部『僕』ですから!!」
「……」
「……今は、彼女はアリス様に心酔しています。ですが……きっと、いつの日か、僕はアリス様よりも彼女に愛される、そんな男になります!」
そう言って、ニカっと笑って。
「――今日、アリス様に出逢えてよかったです。これは――僕からの宣戦布告なので!!」
「……はい」
……うん。もう良いや。クリフトが幸せなら、もう考えるのも面倒くさくなって来た。
「――負けませんよ、アリス様!!」
そう言ってキラキラとした笑顔を浮かべるクリフトに私は小さくため息を吐いた。
……なんで一番まともだと思ったクリフトが『こんなん』なんだろうね? 本当にわく学、こういう所だぞ! お前が残念な所って!!
このお話で第一章……というか、七歳児編完結です。今までお読みいただき、ありがとうございました!!




