第四十六話 それはきっと、見解の相違です。
「ええっと……リリー? ちょっと良い?」
「はい? どうしましたか?」
未だに『私の事、好きですか?』『勿論だよ、リリー!!』と端から見たらバカップルみたいな事を繰り広げるリリーに声を掛ける。私の声かけに、ぱーっと華やいだ顔でトテトテとリリーがこちらに歩いて来た。
「どうしました、アリス様?」
「いや、どうしましたっていうか……なによ、あれ?」
「あれ?」
「……クリフト様よ。なにしたの、貴方?」
「……ああ」
私の言葉にリリーがにっこりと笑って。
「何もしてませんよ?」
「嘘だっ!」
いや、嘘つけ! 何もしてなくてあんなんなるか!!
「……洗脳とかしたんじゃないでしょうね?」
「洗脳って……アリス様? 流石に私も洗脳なんて出来ませんよ?」
「……イノシシを素手で倒して、クマを弓で仕留めるんでしょ? 洗脳なんてお手のものだと思うんだけど?」
「無理ですよ」
苦笑を浮かべて顔の前で手をひらひらとさせるリリー。そんなリリーにジト目を向けると、リリーは小さくため息を吐いた。
「……洗脳、と言われると流石に少し反論したくなりますが……まあ、確かにクリフトに……そうですね、『気に入って貰おう』と思って動いたのは事実です。その中で、少しでも魅力的に映る様に振舞ったのは認めます」
「……」
「クリフトは小さい頃から知っていますし……それに、我が家の事情もよく知っています。私が、どれだけアリス様に心酔しているかも」
「心酔って……」
「事実ですから。家格も釣り合いますし、いつかはクリフトの元に嫁げれば、と考えていたのは本当ですね。その為に動いたのは……まあ、否定はしません」
「……でもそれってさ? なんか……違わない?」
リリーの話を聞いていると……なんだろう? こう、条件面ばっかりの話になってる気がするんだが。嫁ぐとか、気に入って貰おうと思っているっていう割にはこう……なんというか……
「……就活っぽい」
そうだ。なんか、『就活』っぽいんだ。こう、結婚ってそういうもんじゃないんじゃないのか?
「就活……就職活動ですか?」
「う、うん。こう、今の話を聞いてたらさ? 丁度手頃だから、みたいな感じが透けて見えるというか……なんというか……」
「ダメですかね?」
「ダメって言うか……」
その……なんだ。
「……あ、愛がないじゃない……そんなの」
……頬、あっつ。なんだこれ、クソ恥ずかしいんだが。つうか、リリー。そんな『ほっこり』した顔、すんな!!
「……あによ?」
「いいえ。やはりアリス様は可愛らしいな、と」
「ば、馬鹿にするなぁ!」
「馬鹿にはしていません。していませんが……ですが、アリス様? 先程アリス様は手頃な、つまり条件面だけで結婚を決めようとしていると仰られましたが……」
こくん、と首を傾げて。
「それって、駄目なんですか?」
「……へ?」
だ、駄目なんですかって……
「……いや、駄目じゃない?」
そんな私の言葉に顎に指をあてて『うーん』と考え込むリリー。
「……そうでしょうか? 私もクリフトも、お互いに貴族令息――ではないですね。クリフトは爵位持ちの貴族で、私は子爵令嬢です。私やクリフトの結婚には『条件』が大事では無いですか?」
「……」
「それはアリス様だってそうでしょう? ジーク様の婚約者というのは……『条件面』が良い婚約では無いのですか?」
「そ、それは……」
「ああ、すみません。責めている訳では無いのです。ただ……私がそこまで変な事をいっているのか、と思いまして」
そう言って困った様に眉根を寄せるリリー。
……うん、まあ……確かに。リリーのいう事も一理ある、というより、貴族社会だったらリリーの言っている事が正しい気がする。私だって、ジークとの婚約は政略結婚の側面しかないし。
「……」
……ただな~。これ、『わく学』の世界だろ? 腐っても乙女ゲーの世界な訳だし、こう、もうちょっとあっても良いんじゃない? つうかな? そもそもあんだけゆるゆるなわく学の世界でなんでこんな所ばっかりシビアなんだよ。そういうところだぞ、わく学!
「……それに、アリス様? 私は別にクリフトを愛していない訳では無いですよ?」
「……そうなの?」
「幾ら条件が釣り合っても、結婚すれば何十年と一緒に過ごすのですよ? 流石に、生理的に受け付けない人間と結婚するのは勘弁願いたいです。尤も、それが『家』の為と言われれば、結婚もやぶさかではありませんが」
「……抵抗するでしょ、貴方」
「勿論です。その為のクリフトですから」
「……」
「先ほども申した通り、クリフトは小さな頃から良く知っている間柄です。昔は『リリー、リリー』と私の背中を追いかけて来た、いわば弟の様な存在です。そんなクリフトと結婚すれば……そうですね、そこそこ幸せになれるのでは無いでしょうか? 少なくとも、縁も所縁もない、全く知らないお貴族様に嫁ぐよりは幸せだと思うのですが……」
「……まあ……うん」
リリー、可愛いしな。将来――まあ、わく学の世界通りに進めばトンデモナイべっぴんさんになるのは確定だし、そうなったら変な貴族が唾つけに来るかもしれんし、そう考えればさっさとクリフトを選んでおく、と云うのもまあ、戦略として間違っては無いのかも知れない。知れないのだが……
「……」
なんか、すげー納得行かねー。そんな『私、納得行っていません!』を地で行く表情を浮かべる私にリリーは苦笑を浮かべてこちらを見やる。
「……あによ?」
「いえ……存外、アリス様も乙女だな、と」
「……馬鹿にしている?」
「愛らしいと思っていますよ、アリス様」
そう言って華のように微笑んで。
「――まあ、これは私の意見です。婚約は双方の意見がありますので……もしあれならば、クリフトの方と話をされてみては如何ですか?」
そう言ってリリーは――未だに目をぐるぐる状態にしているクリフトを指差した。う、ううーん……あれ、本当に洗脳されていないのかな?
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