第四十話 信頼と、愛と、塀の上。色々台無しな帰り道
今回はエディ視点です。
サルバート公爵家からの帰り道。
向かい合わせで座る父上――義理とは言え、父であるエヴァンス侯爵に俺は頭を下げた。
「ち、父上……その、ご迷惑を……お掛けしました」
「ん? いいよ、いいよ。さっきも言ったでしょ? エディに掛けられる迷惑は嬉しいんだって。普段優等生の君の『やんちゃ』な所が見れたのは結構楽しかったし」
仕事もサボれたしね、と冗談めかして笑う父上に、俺も少しだけ笑みを浮かべて――いや、まてまて、と思い直す。
「……流石に陛下に書類の決裁をお任せするのは如何なものかと」
「ぶー。エディの真面目っ子。そういう所だよ、エディ? 子供はもうちょっとはっちゃけなきゃ!」
「はっちゃける、ですか?」
「そうそう。子供ってのは親に迷惑かけてなんぼなの。親も別に迷惑とは思わないんだけど……君みたいに『親』に気を使いすぎるのはどうかと思うな、お父さん」
「……はい」
「……ま、偉そうなことを言ったけど……悪いのは私だって同じだしね。正直、エディの事を『手間の掛からない良い子だな~』って思ってたし」
「……手間が掛かると……その」
「追い出されると思った?」
「……はい」
「そう誤解させたのは私のせいか……ごめんね、エディ?」
そう言って今度は父上が頭を下げる。その父上の仕草に慌てて俺は言葉を発した。
「ち、父上は悪くありません!! その、なんというか……俺が……」
「ん……じゃあ、お互いに悪いって事にしようか。これからは遠慮なく、お互いに言いたい事を言い合おうよ?」
「……はい」
なんだか、少しだけ照れ臭い。曖昧な笑みを浮かべる俺に、父上はにこやかに微笑んで。
「んで? エディ、アリスちゃんの事、どう思う?」
――とんでも無い事を言い出した。え? 何言ってんの、この人?
「あ、アリス・サルバートの事ですか? ……あ、ああ! 文官に勧誘された事ですか?」
「何言ってんのさ。そんな訳ないじゃん。女の子としてどうかって話」
やれやれと首を振る父上。ちょ、え?
「ち、父上!!」
「遠慮なく言い合おうって言ったじゃん」
「そ、そういう意味ではありません!!」
「息子とコイバナとか……いや~、楽しみにしてたんだよね、私」
「父上!!」
「……もう。照れ屋だな、エディは」
照れ屋とかの問題じゃないだろう。父親と恋愛話とか、地獄以外の何物でもないぞ。
「んじゃ、勧誘の方にしようか。さっき勧誘されてたじゃん? 心、揺れたかな~って!」
「……」
『サルバート家に来ないか』と言われた時、確かに俺の胸は高鳴った。役立たずと――まあ、言われた事は無かったが、今まで自分自身に価値が無いと思っていた俺に取って、『エヴァンス侯爵家の人間』としての俺ではなく、『エディ・エヴァンス』を欲しいと言ってくれたのは……まあ、率直に言って、こう……嬉しかったのだ。
「……そうですね。その……嬉しかった、です」
「面白い子だしね~、あの子。エディにドロップキックをお見舞いしたって聞いた時はサルバート家も終わりかと思ったけど……賢い子みたいだし、お父さん、気に入ったよ」
そう言って父上はポン、と手を打って。
「そうだ! エディも気に入ったんだったら、どうだろう? エディ、アリスちゃんと結婚しない?」
「ぶふぅ!?」
そんな事を言い出した。ちょ、ち、父上!? 何言ってるんだ、この人!? 恋愛話からぶっ飛びすぎだろう!? と、いうかだな!
「あ、アリス嬢はジーク殿下の婚約者ですよ!? 何を仰っているんですか!!」
「そうだけどさ~」
「父上もあの婚約、賛成されたのではないのですか?」
「あんなのズルいよ。あんな面白い子だと知ってたら、ゼッタイ認めて無いね。ウチの子の誰かに婿入りさせてたよ。アリスちゃん、リンドの一人娘だし、王家に嫁入りしたら、サルバート家の跡継ぎ、どうするのさ?」
「……」
「まあ、あそこは優秀な分家もあるし、そっから養子を取るって考えもあるけど……でもねえ? やっぱり、自分の娘を手元に置いて置きたいじゃん?」
「いや、私には分かりませんが……まあ、一般的にそうなのでしょうか?」
「リンド、アリスちゃんのこと溺愛してるしね。エディなら身元もしっかりしているし、婿入りするには申し分なくない?」
「で、ですが……それでは、国内のパワーバランスが崩れます。エヴァンス侯爵家も侯爵位を持つ高位貴族です。国内最大の貴族であるサルバート家に、エヴァンスの筋の者が入るのは……」
「まあね。でもさ? どうせアリスちゃんに釣り合う人間見つけようと思ったら、侯爵以上くらいじゃないと釣り合わないよ? 物凄く頑張って、伯爵までじゃないかな? そうなったら結局、国内のパワーバランス崩れるし」
「それは……まあ」
「そう考えたから、リンドが賛成するならって賛成したんだよ。王家はちょうど良いからね。格はあるけど力が無いし」
「ち、父上! 不敬ですよ!!」
「そう? いつも陛下に言ってるけど?」
「……」
……マジか、この人。いや、ぶっ飛んでるぶっ飛んでるとは思ってたけど……陛下にそこまで言ったら不敬以外の何物でも無いんじゃないの?
「まあ、陛下の事はどうでも良いよ。エディが望むなら、アリスちゃんの婚約破棄をさせてエディの婚約者にするけど……」
どうする? と。
「……」
「アリスちゃん、可愛い子じゃない?」
「……容姿が整っているのは……はい」
「頭も良いでしょ? エディ、頭の良い子好きだよね?」
「……そうですね。確かに、才覚はあるかと」
「ちょっとお転婆だけど……」
「…………ちょっと?」
「……だいぶ。で、でもさ? それも可愛いと思わない? こう、普通の貴族令嬢っぽくない所がグッドじゃない?」
そう言って親指を上げてみせる父上。ま、まあ……うん、確かに悪くはない。ドロップキックをされたが……まあ、なんというか、カラッとした感じではあった。貴族の令嬢にありがちな、ドロドロとした面は感じなかったというか……うん。
「……そうですね」
そうだ。確かに、アリス・サルバートは魅力的な女性なのだろう。
「お! それじゃ――」
「ですが……だからこそ、婚約は結構です」
「……なんで?」
なんで、か。そんなもの、決まってる。
「……だって……恰好悪いじゃないですか」
俺の言葉に、父上は目を丸くする。
「アリス嬢が魅力的であることは認めます。認めますが……殿下の婚約者である以上、流石に不敬に当たります」
「……」
「ですが……それ以上に、格好悪い。親の力でどうこう、など……」
そんなの――多分、あの面白令嬢であるアリス・サルバートに似合わない。彼女を汚す行為に、他ならない。
「だから――彼女が欲しいと思ったら、自分自身で彼女の心を射止めます」
正直、愛だ恋だは今は分からない。アリス・サルバートが好ましい女性であることは分かるが……急に婚約者と言われても、という気持ちもある。
「……くっくっく……」
「……おかしいですか?」
「……ううん。いいじゃん、いいじゃん! 格好良いよ、エディ!」
「……ありがとうございま――い、痛い! 父上、痛いです!!」
バンバンと肩を叩く父上。その顔は本当に嬉しそうで。
「でも――もし、どうしても欲しくなったら、言ってね!! 格好良いのは良い事だけど、欲しいものは手に入れなくちゃ! その為にはどんな手でも使ってあげるから!!」
「捕まりますよ、父上!!」
「大丈夫!! 塀の上を歩いても、落ちない自信はあるから!!」
「色々台無しですよ、父上!?」
まあ、でも……『エディ』の為に、塀の上を歩いてくれると分かっただけでも幸せか、と。
それを気付かせてくれたアリス・サルバートという女性に、俺は心の中で感謝した。
『面白かった!』『続きが気になる!』『アリスちゃん、がんば!』という方がおられましたらブクマ&評価の方を宜しくお願いします……励みになりますので、何卒!




