第三百九十五話 やさしいともだち
陛下の唐突な告白――というか、独白というか、愚痴というか……まあ、そんな感じの発言が飛び出した部屋には、なんとも言えない沈黙が降りた。いやまあ、そりゃそうだろうという感じではあるんだけど……
「え……っと……」
そんな重苦しい沈黙を破ったのはロッテだった。あ! ロッテ、こういう話が苦手……ではないけど、直ぐにエロッテになるんだった!! ヤバッと思ってそちらに顔を向けると……あ、あれ? なんか物凄く神妙な顔をしているんですけど……っていうか、ロッテ? なんかちょっとほっぺが膨らんでない? え? なんか怒ってる?
「その……アレン様からお伺いしたのですが……アレン様とアリスの出会いもだいぶ酷い物だった、と」
「……」
まあ、うん。一生恨んでやるみたいな事も言われたし。
「ジーク殿下もそうだったとリリアーナ様とかアメリアさんに聞きました。先程、ジーク殿下は『サルバート家のお家芸』と仰いましたが」
そう言って少しだけ困った顔を浮かべて右手をほっぺに当てて。
「……結構、お互い様では?」
……駄目だ、ロッテ。それは陛下と……ジークに効く。見て見ろ、陛下のあの『うぐぅ』とか言って胸を抑えている姿を。
「あ、あはは……い、言うね、シャルロッテ嬢も……」
「ああ、す、すみません!! つい、差し出がましい事を……」
そこまで喋って言い淀んだ後、ロッテは何かを決意したかのように口を開く。
「アリスのお母様……フローラ様、ですか? フローラ様に関しては存じ上げませんのであまり勝手な事を言えないですが……アリスに関してはそこまで酷いとは思っていません。まあ、サルバート……敢えて『サルバート領』と申し上げますが、サルバート領の方々がサルバート家に妄信的に付き従っているのは知っています。知っていますが……」
そう言ってちらりとジークに視線を向けるロッテ。
「…………自身の責任を棚に上げて、全てを人のせいにするのは如何でしょうか?」
「うぐぅ!」
あ、ジークにも被弾した。
「今回の件もそうです。ティアナ様の……なんでしょう? 豹変? それにアリスが一枚噛んでいるのは事実でしょう。ですが、ですね? そもそもティアナ様の事をアリスにご相談為されたのはジーク殿下ですよね? 一度アリスに預けた以上、どう転んでも笑って許せるほどの度量が無いのは如何かと……」
「ぐぅ! ち、違うんだシャルロッテ嬢! 俺も別にアリスを責めている訳では無いんだ!! 確かにお願いしたのは俺だ! 勿論責任云々をアリスに押し付けるつもりはない!!」
「そうでしょうか? アリス、陛下の下に来るのをだいぶ躊躇っていましたよ? 胸が痛いとも言っていましたし……確かに? アリスと……まあ、エリサさんのせいが大きいかも知れませんが……お二人がちょっとやり過ぎたのは間違いでは無いのでしょう。無いのでしょうが……」
「そ、そうだ! 俺も別にアリスに責任を押し付けるつもりはない!! その……少しくらいは手加減して欲しいと思っただけで……」
「それならばその方法を教え、示すべきではないでしょうか? 私が聞いているのは、ジーク殿下が丸投げした、というお話ですが……」
「ま、丸投げって……」
ロッテの言葉に言葉に詰まるジーク。そんなジークの姿をちらっと横目で見ながら、私はロッテの袖をくいくいと引っ張る。
「その……ロッテ? ロッテさん? なんか怒ってる?」
「怒ってる? まさか、そんな訳無いですよ」
そう言ってロッテはにっこり笑う。そ、そうだよね? ロッテが怒る訳も、必要もないよね? あ、あはは。そりゃ――
「激おこ、です」
――おうふ。悪い方じゃないか。
「アリスがティアナ様の事で頭を悩ましていたのは私も知っています。それでもジーク殿下の『お願い』を聞いて動いたのですよ? 勿論、結果自体は望んだものでは無かったかもしれません。ですが、それならばその方法と……少なくとも方向性くらいは示すべきでしょう? それをしないでアリスを責める……事はしなかったかも知れませんが、それでもアリスが心を痛めるのは違うと思います。それなのに……皆でアリスを悪く言って、あまつさえサルバート家まで悪く言うのは……」
ぷいっとそっぽを向いて。
「それは……少し、辛いです。アリスは……そ、その……わ、私の親友です。親友を悪く言われるのは……」
少し、悲しいです、と。
頬を赤く染めてチラチラこちらを見るロッテ。うん、鼻血出るかと思った。
「……なんかもう、アレンもジークも捨ててさ? 一緒にどっかに逃げよっか、ロッテ。私、ロッテと暮らしていきたいよ」
最近、主にティアナ様周りで疲れたし。っていうか、よく考えたらロッテの言う通りかも。そりゃ、やり過ぎたのはやりすぎたけどさ? 責められるのはそりゃ違うよね~。え? 責任転嫁? うん、私もちょっとそう思うけどさ~。なんか疲れちゃったよ、うん。




