第三百九十四話 ああ、お家芸か。
トラウマに囚われた国王陛下が少しだけ冷静さを取り戻すまでにしばしの時間を要した。その間、見ちゃ駄目なものを見ないように視線を逸らしていたが、それとは対象的、陛下のその視線が私に向かってくるのを横顔に感じた。あー……これ、絶対怒られるやつだろうな~。
「ええっと……へ、陛下?」
「……うん、ごめんね、アリス。ちょっとみっともない所を見せたね?」
「……」
……ちょっとか、アレ? その私の頭の中がバレたか、ジークが私の脇腹を小さく小突きながら陛下に聞こえないくらいの小声で『おいっ!』と突っ込む。おお、ごめんごめん。つい、さぁ~。
「……い、いいえ。陛下、お気になされず。そういうときもあるでしょうし……ええ、あるでしょうし……」
陛下の視線に自らの視線を合わせて曖昧な笑みを浮かべて見せる。そんな私に、陛下は疲れ切った笑顔を浮かべて見せる。
「本当にごめんね? ちょっとさ? ティアナの姿が衝撃的過ぎて……つい、ね?」
疲れ切った笑顔から苦笑に変える陛下。う、うん。流石に『あの』ティアナ様は陛下的にも色々と思う所があるだろう。そら――
「……なんかね? 思い出しちゃって。フローラが……『あの』フローラが、初めてリンドと一夜を共にした、って私の所に報告に来た時の事をさ? あの時のフローラも……アリスの前で言うのはなんだけど、とっても……その……きもち……ぶきみ……う、うん、キャラが違ったから……」
――うん、本当にごめんなさい!! 一族総出で陛下にご迷惑をお掛けしてたんですね!! そしてお母様!? アンタ、陛下になに報告してんだ!! 淑女のすることじゃないだろう、それぇ!?
「……重ね重ね、ウチの母親が申し訳ありません……」
もうね? 穴があったら入りたいとはこの事だよ。陛下の心に傷を残したばかりか、淑女として……っていうかもう、嬉し恥ずかし話を年下の男性に話すのはどうなのよ。これじゃ淑女じゃなくて痴女だよ、ホントに。
「あー……まあ、フローラの暴走はまあ、良いんだよ」
「……え?」
「あ、良いって言うか……報告って言ったけど、実際は結婚式の翌日に挨拶に来て『陛下、昨晩のリンドは物凄く優しくて……うへへへ~』って気持ちわる――不気味な笑いを浮かべてただけだから」
「……」
「その後、散々煽って来たけど……まあ、そこは良いさ。フローラもリンドの事を大好きだったのは知っているし、僕もリンドが大好きだったからね。フローラとはライバルっていうか、そういう関係だったから……」
そう言って苦笑。
「リンドと僕が幼馴染……というか、兄と弟みたいだった話はしたかな?」
「陛下から直接は……ですが、色々な方からお話自体は、はい」
「小さい頃からリンドは面倒見が良い人だったしね。遠いとは言え、親族は親族でしょう? 国内最大貴族の嫡子だし……なんていうかな? リンドは僕の目標だったんだよね」
「……」
「あれ? 変かな?」
「あー……いえ、変では無いです。変では無いですが……ウチの母親の方はどうなるでしょうか?」
前にも言ったが、ウチのお母様の名前はフローラ・サルバートだ。これは結婚したからサルバートになったわけではない。昔から『サルバート家』の分家だった家なワケで、陛下の理論から言えばウチの母親も一応、親族の括りに入ると思うんですけど……そう思う私に、陛下は苦笑を浮かべる。
「勿論、フローラも親族の括りにいるとは思っているし、小さい頃からお互いによく知っているよ。でも……なんだろう? フローラはライバルが近いかな、って」
「ライバル」
「『大好きなお兄ちゃんを取り合う姉弟』みたいな関係かな?」
「……ああ」
なるほど。陛下はお父様が大好きで、お母様もお父様が大好き。元々、お父様はお母様の事を妹みたいに可愛がって――というか、過保護に接していたらしいし。
「だからまあ、リンドとフローラの結婚には随分反対したさ。リンドもフローラもお互いを大事に思っていたのは知っているけどね? それでも、さ? だからまあ、『リンドにはもっと良い人がいるんじゃない? フローラじゃなくてもいいんじゃないのかな?』くらいな苦言を呈したよ。毎日、とは言わないけど、リンドが王都に来るたびには言ってたかな?」
僕も若かったからさ、と照れくさそうに笑う陛下……ふむ。
「……それって反対って言えるんです?」
陛下は……まあ、その時は王太子殿下だったんだろうけど、それでもこの国の最高権力者に近い人だったろう。その人がお父様の結婚に反対なら、ある程度の影響力はありそうな感じがするけど……っていうか、今の話って完全に。
「……嫉妬?」
「まあ、そうだね。フローラにリンドが盗られるのがイヤだったから、かな? 子供の我儘みたいなものだよ」
そう言って笑みを苦笑に変える。そっか。それじゃまあ――
「――でもさ? それって僕がまだ学園に入るちょっと前くらいの、子供の頃の話だよ? その話を未だにネチネチ言って、『陛下は私とリンドの結婚に反対でしたもんねぇ~!!』って責め立てるのは……どうかと思わない? あんなの拗ねただけって、フローラも絶対に分かっているのに……」
――ほんとにごめんなさい。そしてジーク、『ああ、サルバートのお家芸か』とか言わない!! 確かにジークも子供の頃の失言を延々と責められてたけども!!




