第三百九十一話 胸が痛いんですけどぉ!
遠慮がちにコンコンコンとドアを三度ノック。『どうぞ』という、弱弱しい声に一度、ぶるりと身震いをして私はドアを開ける。
「……し、失礼します、陛下。ご、ご機嫌麗しゅう……」
麗しい訳ない? んなこと、私だって分かってるわよ!! でもさ? 陛下からは『息子の奥さんだしね? 一々畏まらなくて良いよ~』って言って貰ってるし……その、なんだろ? こう、ちょっと畏まった会話をすると悲しそうな顔するんだよね、陛下。まあ、情が深い人だってのは分かるし……なんだろ? 親戚の娘みたいな扱いを受けているんだよね、私。まあ、お父様と陛下は幼馴染っていうか、殆どお兄ちゃんみたいな存在だったってのもあるんだろうけど……
「……ああ、アリスか……なんだか久しぶりだね」
「ご、ご無沙汰しています、陛下」
弱弱しい声そのままの、こちらも弱弱しい表情に疲れた様な笑みを浮かべた陛下が横になっていたベッドから体を起こす。
「へ、陛下!? 起き上がって大丈夫なのですか!?」
そんな陛下に慌てた様に声を掛けると、尚も弱弱しい笑みのままこちらに視線を向ける。
「ははは……大丈夫だよ。体自体は問題ないから。問題なのは」
遠い目をして。
「――精神の方だからね」
……どうしよう。なんだか罪悪感で胸がずきずき痛むんですけどぉ!! いや、私だけが悪い訳じゃ無くない、あれ!? むしろ一番悪いのはエリサだしさ!! いや、止めて無い私も悪いんだけど!!
「……責任転嫁は止めなさい、アリス」
「……エスパーかよ、ロッテ」
「エスパーではありません。そんな顔をしていましたので。私もエリサさんと二人してティアナ様にワルイコトを吹き込んだとは聞いていますが……流石にエリサさんに全責任を押し付けるのは……」
「そ、そんなつもりはないよ!」
無論、私だって悪いのは分かってるよ!! 分かってるけど、こう……
「……一人じゃ抱えきれない罪悪感を抱えているんですけど……」
「……甘んじて受け入れなさい。みなさい、アリス。陛下のあのお顔を。あんな悲しそうな顔を見た事がありますか?」
そう言って憐憫の表情を浮かべた顔を浮かべるロッテは、そのまま陛下の側近くまで侍って綺麗なカテーシーを決める。
「……陛下。ご尊顔を拝し恐悦至極に御座います。シャルロッテに御座います」
「……ああ、シャルロッテ嬢。久し……くもないか。アレンとは仲良くやっているかな?」
「あの……は、はい……お、お蔭様で」
陛下の言葉に、先程までの余所行きの顔をぽっと赤らめて乙女な表情を浮かべるロッテ。そんなロッテに陛下の笑みが深くなる。
「ははは。そっか。それは良かった。アレンはちょっと難しい所もある子だけど、心根は優しい子だからね? シャルロッテ嬢も仲良くしてくれたら嬉しいよ」
「……勿体ないお言葉に御座います」
「なにも勿体なくないよ。僕はね、シャルロッテ嬢? 嬉しいんだ」
そう言って心底嬉しそうな顔を浮かべる陛下。
「……アレンにも……それに、ジークにも迷惑を掛けたからね。僕がしっかりジークを後継者って内外に宣言して居れば、あんなに王城内が揉める事は無かったからね」
「それは……」
「エカテリーナにも怒られたよ。『陛下。陛下はジーク殿下を世継ぎと宣言すべき。アレンは弟。アレンの事を可愛がってくれるのは嬉しいけど、ジーク殿下も……ジークも、立派な貴方の子供』って。別に差別をして接していたつもりは無いんだけど……駄目だね」
そう言って後悔する様な苦笑いを一つ。
「……ジークだって幼かったのにね。ジークは優秀で……それにお兄ちゃんだったから。少しだけ甘えていたんだよ、ジークに」
「……」
そこまで喋り、苦笑いを一転。
「……そんなジークとアレンの仲を取り持ってくれたのがアリスだからね。だから、アリスとジークはお似合いだと思ったし、結婚にも大賛成していたんだ」
「そうなのですか……」
「うん。だから、という訳じゃないけど、アレンにもジークに対するアリスみたいな素敵なお嫁さんが来てくれたら良いな、って思ってたんだよ。だから……シャルロッテ嬢、君の様な素晴らしい女性がアレンの側に居てくれるのは嬉しいよ」
「……勿体ないお言葉です。そして……その陛下の言葉を裏切ることのないよう、精進していきたいと思います」
「かたい、かたい。もっと気楽でいいよ、シャルロッテ嬢」
そう言って快活に笑って。
「…………まあ、そんなウチの雰囲気を良くしてくれたアリスに、まさかこんなひどい目に合わされると思ってもいなかったんだけどね……は、ははは……僕の可愛いティアナが……あんな……あんな…………!」
絶望にその顔を染めた。
……マジでごめんなさいぃ!! イタイ!! 罪悪感で胸が滅茶苦茶痛いんですけどぉ!!




