第三十四話 パパとお話
リリーにあんな事言いながら、エディにドロップキックをかまし、目を回したエディが家に強制送還された、翌日の夜。私は王城から帰って来たお父様に呼び出されていた。執務室に入った私を見るなり、深い……本当に深いため息を吐くお父様。う……これ、怒られるやつや。
「……聞いたぞ、アリス」
「え、ええっと……な、何をでしょうか?」
「……エディの事だ」
……ですよね~。
「……はぁ」
「お、お父様!? いえ、確かに私がその……エディ様に暴力を振るったのは確かですが! あれは、その、さ、先にエディ様がですね!!」
「詳細は殿下やラインハルトからも聞いている。皆、一様にお前だけが悪いとは言っておらん」
「で、でしょう!! ほら! 私が悪い訳じゃ無いんです! あれはエディが!」
「よく聞け!! 『お前だけが』と言っただろうが! それは暗にお前『も』悪いと言っているんだ!!」
「……は、はい」
「……お前と殿下、それにラインハルトは一緒に学ぶ間柄だろう? 最近は仲が良いと聞いているし、言ってみれば『仲間』だ。仲間であるお前を庇うのは当然だろうが」
「……でも、お前も悪いって仰ったんでしょう、お二人とも」
「……私なら、ちょっと手が当たっただけでドロップキックをお見舞いする貴族令嬢が百対ゼロで悪いと言うがな」
「……」
……仰る通りです。
「事情を聴く限り、ラインハルトとエディの喧嘩にお前が割って入ったんだろう? 争いの仲介をするつもりで割って入った以上、自身に被害を受ける可能性も考慮して割って入れ。その覚悟がないなら、そもそも割って入るな」
「……それじゃ、喧嘩を見過ごせと?」
「そうは言ってない。如何に貴族の息子とは言え、七歳児だ。熱くなれば手が出ることもある。つまり、暴力だ。その暴力を受けても笑って受け流せる覚悟があれば、割って入れば良いと言っている」
「……」
「……貴族の社会は複雑怪奇、魑魅魍魎、まるで伏魔殿だ。勢力争い、派閥争い、派閥内での権力闘争、他にすることが無いのかと言いたいが……まあ、そういう場所だ」
「……エグい」
「そうだな、エグい場所だ。だからこそ、感情だけで首を突っ込む事はご法度だ。どこで足を掬われるか、分かったモノでは無いからな」
「……はい」
「喧嘩している人間の仲裁に入る、という行為自体は人間として素晴らしいと思う。それは認めよう。だが、貴族の令嬢として、今後、貴族の社交界で生きる人間としては軽々とそんな事をするべきではないと思う」
「……申し訳ございませんでした」
「……我が家は公爵の爵位を賜っている。加えて、お前はジーク殿下の婚約者として高い確率で王妃になる。感情で動くような真似はするな」
「肝に命じます。銘じるではなく」
「……というかだな? そもそも貴族令嬢が、女の子がドロップキックってどうなんだ? アリス、お前は何時からそんなお転婆――どころの話ではないか……ともかく、暴力的な事は禁止だぞ」
「……き、気を付けます」
「……ダメなヤツだな、それは」
そう言って大きくため息を吐くお父様。う、ううう……ど、努力します。
「……その、すみませんでした」
「私に言う事ではない。エディに謝れ」
「……また来ていただけるでしょうか?」
私なら絶対に嫌だが。そう思う私に、お父様は再びため息を吐いた。
「アリス。お前は本当に悪いと思っているのか?」
「お、思ってますよ!!」
完全に私のせい……とは言い切れないが、明らかにやり過ぎ感はある。少なくとも、両成敗程度には謝るべきだとは思うし。
「ならば、何故エディが『来る』事が前提なのだ? 謝罪をする人間が『来い』と命令するつもりか? お前が謝罪に訪ねるのが筋では無いのか?」
「……あ」
そ、そりゃそうだ!! 仕事でミスをしても『お詫びするんでちょっとわが社に寄って貰えません?』とか言わないよね。
「……はい。仰る通りです」
「……まあ、今回はお互い様な所もあるし、事情はどうあれ結果だけ見れば先に手を出したのはエディだからな。謝罪をしに来させると、デイヴィットも言っている。言っているが、そういう気持ちを忘れるな。我が家は公爵であり、傅かれる事も多いが……それを当たり前の事と思うな。分かったか?」
「……はい」
心持しょんぼりする私。そんな私の頭に、お父様の手が乗った。
「……厳しい事も言ったが、分かってくれるか?」
「……はい。ごめんなさい、お父様」
「分かれば良い」
「その……お父様もエヴァンス侯爵に謝って下さったんですか?」
実の娘が、よそ様の息子にドロップキックをかましたんだ。きっと、お父様も下げたくない頭を下げたんだろう。その事が非常に申し訳なく、私は更に落ち込んでしまう。そんな私に、お父様は苦笑を浮かべて見せる。
「……謝ってなどいない」
「……へ?」
「先程は貴族の論理を説いた。が、私はアリスの父親だ。自分の娘が――可愛い娘が殴られた以上、どんな理由があれ抗議はするさ」
「……」
「勿論、暴力などという方法は取らんがな?」
そう言って茶目っ気たっぷりに笑って見せるお父様。きちんと諭した上で、それでも娘の為に怒ってくれる。良い父親を持ったな、アリス……というか、私。
「……ありがとうございます、お父様」
「良いさ。二日後に来ると言ったから、ちゃんと謝りなさい。そして……そうだな、仲直りしなさい」
「……はい」
そう言ってお父様に頭を下げて、私はお父様の私室を後にした。
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