第三十二話 喧嘩するほど仲が良い、訳でもない。
エディの吐き捨てる様な言葉に、若干ほっこりとした顔を浮かべていたジーク、ラインハルトの顔が強張る。
「……おい? どういう意味だ?」
その強張った顔のまま、ラインハルトはエディの胸倉を掴み上げる。七歳にしてはジークやエディより頭一つ高いラインハルトに胸倉を掴まれながらも、エディは冷笑を浮かべて見せた。
「……なんだ、この手は? 離せ」
「うるせぇよ。どういう意味かって聞いてるんだ。答えやがれ!!」
「ふん。これだから脳みそまで筋肉で出来てる様な輩は困る。さっき言った通りだ。仲良しごっこでめでたいなと言っただけだろう?」
「仲良しだとなんか問題があるのかよ?」
「いいや、別に。良いじゃないか、仲良しで、楽しく……皆で堕落すれば良い」
「堕落だと!!」
「ああ、堕落だ。良いか? 人間を成長させる一番の要因は劣等感だ。『こいつに負けている』『こいつに勝ちたい』『こいつより上に行きたい』、その気持ちが人を成長させる。お前らの様に皆で仲良く過ごしている様な奴ら、何処まで行っても成長などない」
「おめぇ……」
「そもそも、『学校ごっこ』などに付き合わされる方の身にもなって見ろ。別にお前らが勝手に仲良しこよしがしたいなら好きにすればいい。こっちまで巻き込むな。いい迷惑だ」
……まあ、エディの言っている事も一理はある。人類の歴史はそれ即ち、劣等感と優越感で出来ていると言っても大きく間違ってはいない。他所の国よりもより発展しよう、負けている所を補おうと努力するから人類は成長をし続けて来たし……まあ、だからこそ戦争もなくならないともいえる。昨今流行の『皆で仲良く手を繋いでゴール』とか『全員主役の演芸会』では競争力のある子供には育たないだろうし。それはまあ、理解は出来るんだが。
「メアリ?」
「はい? なんでしょうか、アリス様」
「メアリは皆弟や妹みたいに可愛いって言ってくれたけど……平等に接するの? 落ちこぼれは出さない教育スタイル?」
「いいえ。人は誰しも得手、不得手がございますので。よく出来れば褒めますし、出来が悪ければ場合によっては叱ります」
「だよね~」
メアリの教育方針は確かに『平等』ではある。平等ではあるが、それは教育を受ける『機会』を平等にしているだけで、『結果』を平等にはしていない。百メートル走るなら、スタートは皆一緒で、結果は各々の足の速さによる、みたいな感じだ。
「……じゃないと、リリーが全く怒られない理由が無いし」
リリーは授業が始まって以来、一度もメアリに怒られていない。『こうした方が効率が良い』的なアドバイスは受けても、『ダメだ!』なんて言われることは無いのだ。理由は簡単、リリーが私たちの中でぶっちぎりに優秀だからだ。つうか、わく学、流石にリリーがチートキャラ過ぎんだろうが。
「……という事で、私達仲良しこよしで勉強に励んでいますけど……別に、劣等感や優越感を持って無いワケじゃないですよ、エディ様。私だってメアリに怒られたくないし……正直、リリーの事羨ましいって思ってますし」
「……まあ、そうだな。俺だってラインハルトには剣技で歯が立たないし。正直、それは少しだけ悔しい気もしている」
「俺だって姉さんに怒られてばっかだし……ジークが羨ましいぞ?」
こういう事だ。
「なのでまあ……そんなに邪険にしなくても良いのではないですか?」
そんな私の言葉に、ジークが頷いて言葉を継いだ。
「そうだな。そもそもエディ、お前は『学校ごっこ』と罵り、来たくもないという様な事を言っていたが……そもそも、別に俺達が頼んで来て貰った訳じゃないだろう?」
正論と言えば正論のジークの言葉。いや、ジークさん? そうなんだろうけど、それは言っちゃダメなヤツだって。見てよ、エディの顔。凄い睨んでるじゃん。
「……来なくて良いなら来ない。エカテリーナ様の命令だから仕方なくだな!」
「エカテリーナ母上には私から言っておこう。不満なら来るな」
「っち!!」
舌打ちが凄い。険悪なムードの二人に割って入るよう、私は努めて明るい声を出す。
「ま、まあまあ! でも、それを言うなら別にラインハルトもリリーも頼んで来て貰った訳じゃないですし! 皆で仲良くやりましょうよ!!」
そんな私の言葉に、少しだけ優越感を覚えた様な表情をこちらに向けるジーク。なんだよ?
「……俺はアリスが誘ってくれたよな?」
「……その情報、今いる?」
……まあ、よく考えればジークだけだな、誘ったの。そんな私の言葉に少しだけジークが嬉しそうな表情を浮かべた。なにそれ、可愛いか。
「……んだよ、ジークばっかり」
面白く無さそうな表情でジークを見やるラインハルト。いや、アンタも可愛いな、おい。嫉妬か? 嫉妬なのか?
「拗ねないでよ、ラインハルト」
「拗ねてねーよ! ったく……と、それよりエディ! ジークの言った通り、嫌なら帰れよな! 雰囲気も悪くなるしよ? 別に誰もお前に居てくれなんて言ってねーんだし?」
「ラインハルト!」
「……クソが!」
「お? なんだ? やるか、もやしっ子?」
「頭の中まで筋肉で出来てるくせに偉そうにしやがって!!」
「おうおう。威勢がいいね? いいぜ? 掛かって来いよ!!」
「ラインハルト!! やめなさい!!」
煽るなよ、ラインハルト! つうか、流石七歳児。冷静に見えてエディも喧嘩っぱやいんだな。そんな事を思い、ため息を吐きながら二人を引き離そうと間に割って入って。
「そろそろこの手を放しやがれ!!」
不用意に近付いた、私も悪い。
「アリス!!」
――パチン、と。
「いたっ!」
ラインハルトの手を振り払ったエディの手が、私の頬を張った。
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