第三十話 いや、もうちょっと個性出して行こうぜ?
あんまり聞きたくなかったジークとラインハルトの前情報を受けた翌日。私とリリーの二人は玄関近くの部屋を陣取りお茶を飲んでいた。これから来るエディを出迎えるためだ。
「……なんか憂鬱になるわね」
「そうですか?」
カップを持ったまま、ため息とともに漏れた私の言葉にリリーが首を捻る。いや、だってさ?
「……相当気難しそうなカンジしない? なんというか……初期ラインハルトの勉強バージョンと言うか……」
「……まあ、仲良くなれるタイプでは無いかもしれませんね」
「でしょ? それじゃ、憂鬱にならない? 絶対面倒くさい事になるに決まってるじゃん」
まあ、私は『わく学』でのエディを知っているというのもあるが。ゲーム内でのアイツ、無茶苦茶俺様キャラだったもんな。
「……はぁ」
再び漏れる深いため息に、リリーが苦笑を浮かべてこちらを見やる。
「そこまで気にされなくてよろしいのでは? ジーク様もラインハルト様もいらっしゃいますし……お知り合いなのでしょうし」
「知り合い以上ではないみたいだけどね。あ、そうそう! リリー、暴力は禁止よ? ラインハルトみたいな事したらダメだからね?」
「……お約束出来かねますが……そうですね、頑張ります」
「……子爵令嬢でしょうが、貴方も。なんだよ、頑張るって」
普通の子爵令嬢は『暴力振るうな!』って言われて『頑張ります!』とは答えんぞ、おい。そんな私の言葉に、リリーは不満そうに頬を膨らました。
「……アリス様には言われたくない気もしますが」
「私はリリーみたいに気絶してる人間に追い打ちを掛ける様な事は致しません」
「あれはラインハルト様からの申し出ですよ? 何処からでも掛かって来いと仰るので。最近は少し、手加減もしてますし」
「手加減って、貴方――」
言い掛けて気付く。
「……そう云えば最近ラインハルトとよく一緒に特訓……特訓? 手合わせしてるみたいだけど……どういう心境の変化なの?」
初対面の印象はお互いに決して良くなかった筈だが、ラインハルトが来てからの一か月ほどで随分仲良くなった印象だが……おばちゃん、その辺の事情気になるよ? 主にラヴ的な話、ちょっと聞きたいよ!!
「ラインハルト様、ですか? そうですね……最近、良く手合わせをさして頂いてますね」
「だよね、だよね! ど、どう? 仲良くなれそうなカンジ?」
わくわくを前面に、心の内側にドキドキを閉じ込めながら、私はリリーを見やる。そんな私の視線に、リリーは少しだけ頬を染めて。
「そうですね……良い、と……思いますよ?」
マジか! そうだよ! こういうのだよ、乙女ゲーって! だよね? やっぱり――
「打たれ強いですし……頑丈なのは良い事です。適度におバカなので使い勝手も良いですし……良い番犬になりそうですよ、ラインハルト様」
「……がっかりだよ!」
……がっかりだよ! なんだよ、『良い番犬』って!! こういう所だぞ、わく学!
「いつかアリス様がジーク様に嫁がれた際、ラインハルト様は近衛騎士団長になるでしょう。身を挺してアリス様を守って貰う為に、私は今ちょうきょ――訓練しているんですよ」
「おい、今『調教』って言おうとしたな? っていうか、ラインハルトが近衛騎士団長になったら守るのは私じゃなくてジークでしょ?」
「違いますよ。近衛騎士団長が守るのは国王陛下では無いです。『王家』を守るのが近衛騎士の役目です」
「いや……そりゃ、そうかも知れないけど」
でも近衛騎士団長を番犬って。それってどうよ?
「……んじゃなんで頬染めたの?」
「それは……アリス様のお顔が近すぎて」
……いや、有り難いんだよ? 有り難いんだけど両手を頬において『やんやん』とか首を左右に振るな。なんか、変な扉開きそうだぞ、おい。
「……アリス様。エディ様がご到着為されました」
と、その時丁度扉を開けて、エディ到着の報を持ったメアリが入って来る。ついに来たか。
「……ありがとう、メアリ。それじゃ行きましょうか、リリー」
「はい」
リリーと連れ立って部屋を出る。広めにとった玄関では銀髪の少年が腕を組んで不満そうに立っていた。美少年って不満そうな顔をしててもやっぱり美少年なんだな~なんて呑気な事を考えながら、私はエディの前に立ってスカートの端をちょんと摘まむ。
「……お初にお目に掛かります、エディ様。私はアリス・サルバート。サルバート公爵の娘に御座います」
「……」
「本日より一緒に勉学に励むという事ですので、仲良くして頂ければ幸いですわ」
「……ふん」
不満を隠そうともせずに鼻を鳴らすエディ。あー……ジークやラインハルトの初期を思い出すね。あいつらもこんな感じだったな~。
「……仲良くなどする必要はない。来たくて来たわけじゃないからな、私は!!」
……うわー……
「……それ、三回目です」
「……なに? 三回目?」
「……イイエ、ナンデモアリマセン」
やば。ついつい、声が漏れちゃった。つうか、わく学のキャラってなんでこう、最初の出逢い方は皆して斜に構えてるんだろ? この辺の心の機微っつうか、そういうのは無いのか? 全員出逢い方一緒って……だから、『どのキャラ攻略しても殆どストーリーが一緒』とか言われるんだぞ、わく学。金太郎飴じゃないんだから、もうちょっと個性だそうよ。
「……ふん。まあ、どうせお前らがしている勉学など知れているだろう。精々、俺の足を引っ張らない様にしろよ!!」
そう言って案内もしてないのにずんずんと歩みを進めるエディにリリーと顔を見合わせた後、私は本日何度目かになるかのため息を吐いた。
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